第35回 「自分の強み」を発揮する

毎日の仕事に「やりがい」を感じるためには、一体何が必要でしょうか。ある研究結果によれば、最も効果的なのは、「自身の強みを仕事で発揮できること」だと言います。

必ずしも「得意なこと」だけをやるという意味ではありません。もっと根底にある自分独自の「資質」的なものを発揮する、という意味です。その強み(資質)を発揮していれば、困難なチャレンジであっても、人は「やりがいがある」と感じるものです。

例えば、私自身にも、「物事の着眼点」「コミュニケーションのしかた」「学習のしかた」などのある側面について、「強み」があります。それは、自分でも認識していますし、診断ツール等を使っても、結果として現れてきます。

それらの強みを発揮している限り、より困難な挑戦に対しても、「やってみたい」「乗り越えてみたい」と思うエネルギーが湧いてきます。
(勿論、結果が良いことも、惨敗することもあるわけですが)

■ マネージャーとして何より大切な仕事

ドラッカーは、

「マネージャーたりえる正統な条件があるとすれば、それは人の強みを(事業において)生産的にしてあげることだ」
(Management legitimacy is to make human strengths productive.)

と語っています。

人の強みを発揮させて、それを事業の成果に結びつけるマネジメントが、最も生産的で効果的だというのです。

「何事かを成し遂げられるのは 、強みによってである 」

これが、ドラッカーの一貫したメッセージでした。自身の経験からも、強みを伸ばして一流を超一流にすることの方が、弱みを伸ばして二流を一流にすることよりも実現性があると考えたからです。

また、ドラッカーはこうも言います。

「人の強みよりも弱みに目の行く者をマネジメントの地位に就けてはならない 」
(「マネジメント」より)

厳しい言い方ですが、上記のとおり、「個人の働きがい、やりがい」「創造的な仕事へのチャレンジ」「事業成果への貢献」という利点を考えると、人の強みに対して無関心であることは「不誠実」且つ「非合理」と言えると思います。

■「強み」と「弱み」

とはいえ、「強みを発揮する前に、弱みを直しなさい」という考えにも一理あります。たとえて言えば、弱みとは船底にできた傷。傷は手当をしないと大惨事につながります。その弱みのせいで他者との間でトラブルになったり、大失態を演じたりすることがないよう、弱みを補修することは不可欠です。

しかし、弱みを補強しても、その結果は「元の形」に戻るのみ。何か創造的な成果を新たに生みだすには足りません。そこで必要になるのが、「帆」に該当する強みの強化。どのような大きさで、どの向きに帆をはるのか。どのようにその「帆」をメンバーと協力しながら操るかで、想定しなかった高いパフォーマンスが生まれることもあるはずです。

安定した経済成長が見込まれた時代は弱みの補修だけでも足りていました。しかし、変化が激しい現代では、弱みの補修に加え、強みの拡張が不可欠です。

■ どのように「強み」を発見するのか

いわゆる「強み診断ツール」は、有料、無料のものも含め複数存在します。それらの分析ツールは、心理学や統計学に裏付けされた信憑性の高いものです。

しかし、いきなりツールに頼る前に、「内省」と「対話」により、自分自身の強みを探ることが大切だと思います。

内省については、「これまでの自分の最も誇れる成果」と「その成果を生み出す上で、どのような強みを発揮したのか」を自分に問うことです。成果と言っても、必ずしも大それたものではなくてよい。自分の過去の出来事や経験を辿って行くと、必ずいくつか
「他者と比較して極めてすぐれた結果が出た」
「すごく人に感謝された」
「やり遂げた、という充足感があった」
という成功体験があるはずです。

それらの経験を探り、その中で自分が発揮した「自分独自の強み/資質」は何だったのかを探る。そうすることで、共通項が発見できるはずです。それが、その人の強み/資質に関わっている可能性が大きいです。

もう一つは、親しい人と「強み」について互いに語り合うこと。自分自身が感じている強みを話し、相手からもそれについてコメントをもらう。「自分の強みを話すのは気が引ける」と思う人が多いです。しかし、「自慢」と「強み」は違います。自慢話は聞き手にとって殆ど意味がないですが、強みの話は聞き手にもメリットがあります。

「自分は、物事をこのように考えて解決していくことが得意な方だ」
「自分は、こういうことにすごく関心と探究心が強い」

という話を聞くと「ああ、そういう強みの捉え方もあるのか」とか「自分自身の強みももう少し深く探ってみよう」と思うはずです。そして何より、他人の「強み」を聞く事でエネルギーや元気が湧いてくるはずです。

■ 職場における「本当の貢献」とは

最後に、ドラッカーのこの言葉を、ご紹介しておきます。

「人を雇うのは強みのゆえであり、能力のゆえである。何度も言うように、組織の機能は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することである。」
(「マネジメント」より)

あなたは強みを発揮するためにその職場にいるはずです。弱みを補正するためだけにその仕事をしているわけではありません。あなたの「強み」を発揮することが、会社にも、社会にも大きな「価値」を提供する原動力になる、という原点に気付く事が大切です。

皆さんご自身でも、また同僚の方々と一緒にでも、ぜひこの「強み」を探る(探り合う)ということを試してみてください。自分の強み、仲間の強みに目を向けることで、人生の多くの時間を割く仕事が、より可能性に満ちたものに変化すると私は思います。

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次回は11月6日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
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