第2回 スティーブ・ジョブズに見る、創造型経営リーダーの条件

2011年10月に亡くなったアップル社創業者のスティーブ・ジョブズ氏。同時期、アップル社の時価総額は世界一になるまでに上昇していました。ここまでの成長企業を築いた経営リーダーの思考を追ってみたいと思い、公式自伝である「スティーブ・ジョブズ I、II」(ウォルター・アイザックリン著、講談社)を興味深く読みました。
破天荒で強烈な性格の裏に、新事業を創造する上で欠かせない思考と行動が見て取れます。
それは、ドラッカーのマネジメントイノベーションに関する原理原則とも合致する点が多いです。

ジョブズのマネジメントスタイルで突出しているのは、以下の2点ではないでしょうか。

 1.常に「人間」「顧客」視点で新しい価値を追究する
 2.強烈なリーダーシップと推進力を持つ、しかし「私心」はない

1点目については、ジョブズが新製品イメージを技術者に説明する際に、パワーポイントや技術仕様書ではなく、数枚のポートレート(大きな写真)を使っていた話が有名です。その写真には人々が笑顔でiPhoneやiPadなどの製品を使い、生活を楽しんでいる様子が映っています。その写真を見せ、彼は「私たちが創りたいのは、これだ」と言います。
当然技術者たちは、最初は「???」ですが、徐々にその究極の要求に応えるべく創意工夫していきます。

ドラッカーも「顧客は誰で、何を買うか」から考えること、決して製品側から思考をスタートしてはいけないことを繰り返し説いてきました。ジョブズは、デザイン、エンターテイメント、テクノロジを融合させて、多くの人が喜ぶ製品を創ることに徹底してこだわりました。1980年代半ばから約10年、創業したアップル社を追われましたが、「経営陣が、製品を良くしたり改良したりすることよりも利益をいかに多くとるかばかりに目を向けると、アップル社は低迷する」と警鐘をならしています。そして、実際にその10年でアップル社は深刻な危機に直面することになったのです。

2点目の「強い推進力」についても、完成間近な製品を土壇場でひっくり返す、技術者が懸命に小型化につとめてきた製品サンプルを水槽につけ、「酸素が入る余地があるなら、まだ小型化できる」といって突き返す、といった有名な逸話があります。既成の常識を疑い、「我々はもっと革新的なものを創れるはずだ」と組織にはっぱをかけてきました。
時に私財を投げ打って、よりよいものにかける情熱がありました。確かに、彼のような人間のもとで働くのはきついでしょう。
会社を去った人間も多いと聞きます。しかし、共に製品を創った人達は、「最も自分が成長できた、やりがいの感じる時間だった」と後になって語っています。

強いリーダーシップに率いられながら「やらされ感」がないのはなぜでしょう。それは、リーダーが責任を持ってビジョンを示しながらも、その実現は現場の人間に創意工夫に委ねられていたからだと思います。(その為に、採用にも妥協がなかったようですが)
細かい指示はされない。しかし、求められるものはとてつもなく魅力的で大きい。だから、社員の力が最大限に発揮されたのだと思います。

そして、何より大事なのは、ジョブズのリーダーシップには「私心がない」ということです。お金のため、自らの保身や権限維持のためではなく、「より良い製品、人々があっと驚き世の中が変わるような製品」を目指していました。
だからこそ、批判を受けることはあっても、優秀な人材がその夢に同調して努力したのではないでしょうか。

以下は、マネージャーの「真摯さ」についてドラッカーが書いていることです。破天荒で誤解されることが多かったスティーブ・ジョブズと「真摯さ」が結びつくのか?と思われる方も多いでしょう。しかし、じっくり読んで頂ければ、ジョブズを思い出してしまうのは私だけではないはずです。

「根本的な資質が必要である。真摯さである。最近は、愛想よくすること、人を助けること、人付き合いをよくすることが、マネージャーの資質として重視されている。そのようなことで十分なはずがない。事実、うまくいっている組織には、必ず一人は、手をとって助けもせず、人付き合いもよくないボスがいる。この種のボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしば誰よりも多くの人を育てる。好かれている者よりも尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。
真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。」(ピーター・ドラッカー 「マネジメント」より)

上記のジョブズ自伝には、こんなくだりもあります。

「ジョブズが頑張った背景には、息の長い会社を作りたいという情熱があった。ヒューレット・パッカードでアルバイトをした13歳の夏休み、ジョブズは、きちんと経営された会社は個人とは比べ物にならないほどイノベーションを生み出せると学んだのだ。」

この連載においても、前回「マネジメントとは部分の総和よりも大きな全体を創造すること」というドラッカーのマネジメント原則を紹介しました。ジョブズは、本能的にその原則を理解していたようです。

多くの企業があまりに「企業然」としすぎて忘れてしまっている「創造」「革新」「楽しさ」「喜び」といった大切なものを思い起こさせてくれたジョブズ。
その生き方は、ドラッカーが言うように「自分は何者で、どのように記憶されたいのか」を考える大切さも教えてくれました。

2005年、がん宣告を受けた翌年にスタンフォード大学の卒業式でジョブズが述べた有名なスピーチの一部を紹介します。

「人生は短い。他人の言いなりになるな。常識にとらわれるな。周囲の雑音に惑わされるな。そして最も重要なのは、勇気を持って心の声や直感に耳を傾けることだ。何者になりたいのかは、自分が一番よく知っている。」

世の中の常識が大きく変わっている現在。厳しい市場環境であるからこそ、既存のルールから一歩抜け出し、自分の本当の心の声に素直に従うことが大切だと教えてくれる言葉だと思います。

次回は2月2日更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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