組織を変えるために、ポストデザイン思考・ポストシステム思考のデザインが必要なわけ

組織を変えたいと思っても、変えることは並大抵ではない、とお感じの方は多いと思います。企業もその典型であるようです。企業、制度や文化は社会システムとまとめられることが多いです。

では、社会システムを変えることはなぜ難しいのでしょうか。そして変えるためには、どのような方法論が必要なのでしょうか。2008年の春以来、大学院の教員として、社会システムの研究と教育に携わってきた立場から、みなさまと一緒に考えていきたいと思います。

◆がんじがらめの現代社会に
現代社会は情報化や国際化によって、複雑多岐になったとよく言われます。資源問題、貧困問題、所得格差、経済不振などあらゆる問題が連鎖し、絡み合い、人々はがんじがらめになっています。また、立場を異にするさまざまな利害関係者が同一問題に関与して、問題解決のための合意形成が図りにくくなっています。

近代社会における問題解決の方法論は、問題を分解し、原因を一つ一つあぶり出して、対応していくという要素分解的思考法でした。このアプローチですばらしい科学技術の発展を人類は見ました。しかし他方で、複雑多岐にわたる問題の連鎖をこのアプローチでは解きあぐねているのも事実です。

このような状況を受けて、主として1990年代から二つの学際的な学問領域が、社会のあり方を変える学問として台頭してきました。一つがデザイン思考、もう一つがシステム思考です。

デザイン思考とは、よりよい結果を求めて現実的かつ創造的に、企業や文化をデザインしていこうする考え方です。デザイン思考にはさまざまな流派がありますが、みなさまの中には、ナレッジマネジメントや社会イノベーションなどの言葉を聞いた方もいらっしゃるかも知れません。

システム思考とは、社会の様相をさまざまな要素のつながりとして捉え、それらの因果関係を可視化していくことで問題解決を図って行こうとする立場です。システム思考の一つの巨星である、ピーター・センゲMIT教授の著書『学習する組織』を読まれた方もいらっしゃるかも知れません。

◆ポストデザイン思考・ポストシステム思考のデザイン
しかし、21世紀に入って10年も経つと、デザイン思考だけ、システム思考だけ、というのではなく、両方のよいところを重ね合わせてハイブリッドな方法論を創造しようとする動きが高まってきました。その動きの一つが、筆者の勤務先の大学院である慶應SDMが進めているポストデザイン思考・ポストシステム思考にもとづく社会システム変革のための方法論です。

Workshop-based Innovative System Design Methodology (ワークショップに基づくシステムデザイン方法論)、すなわちWISDMと呼ばれることもあるこの方法論は、次の三つの特徴を持っています。

1つ目の特徴は、企業をはじめとする社会システムの変革で一番の難所は、多様な立場の利害関係者(企業だったら、社長さんからヒラの社員さんまで)が「何が問題か」に合意することなのですが、それをワークショップというフラットな場を作ることで効果的かつ合理的に解決していこうとします。つまり、フラットな「場」を作るということでナレッジマネジメントの視点を持っているのです。また、「立場はお互い違うけど、これが問題であることには合意できるよね」という気づきを共有する点で、ピーター・チェックランド・英ランカスター大学名誉教授が創始されたソフトシステムズ方法論を継承しています。

2つ目の特徴は、ワークショップ技法を使うと通常、「話し合いばかりで、結論が得られずイライラするな」とか、「話し合いは楽しかったけど、それでどうだったの」とかいうフラストレーションが起きやすいものですが、WISDMは工学的に編成された五つの順番(図1を参照)をあらかじめセットしておくことで、知らず知らずのうちに、組織改革のためのイノベ―ティブなデザインが飛び出す仕掛けになっているのです。

三つ目の特徴は、人間中心で「文殊の智慧」の力を信頼するということです。組織の変革の中心はその組織のメンバーであるその人たち自身であり、外部の専門家ではありません。また、一人の知力をバラバラに使うよりも、「文殊の智慧」とよく呼ばれる集合知を使ったほうがはるかによいパフォーマンスが挙がるという研究結果が、欧米の一流学術誌に最近掲載されています。

◆組織を変え、活性化する地道な試み
今年5月には、WISDMの一部を体験していただくワークショップを、大塚商会さまの「きずなカフェ※」で慶應SDMとして開催させていただきました。参加いただいた皆さんはイキイキとして、組織改革のイノベ―ティブなアイディアをたくさん集合知で出されておられました。

このワークショップでは、ポジティブ思考でメンバーと共感しながら、具体的で「ぐっと」くる組織を活性化さるせるアイディアを出すという、米国の著名経営評論家ダニエル・ピンク氏が「ハイコンセプト」「ハイタッチ」と呼ぶ人たちが多く集まっていたように思いました(図2)。

このような活動を地道に続けていくことこそ、とかく閉塞感に満ちがちな日本の組織をボトムアップで変えていく原動力になるのではないか。そのように期待しています。

※きずなカフェ注釈
きずなカフェでは、様々なテーマをもとにワールドカフェやワークショップ活動を行っています。大塚商会の社員に限らず、外部のビジネスパーソンも交えて、自らの視野を広げ、気軽に協力し合える仲間づくりを目的としています。

(執筆日: 2012年6月30日。本稿は無報酬での執筆です。また、本稿の意見にかかる部分は、筆者が過去所属した、または現在所属している組織の見解を表すものではありません。)

この記事の著者

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 非常勤職員

保井 俊之

85年東大教養学科卒、旧大蔵省へ。金融庁参事官、中央大学客員教授等を経て、08年から慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の研究・教育に関与。国際基督教大学博士(学術)。主な著書に『保険金不払い問題と日本の保険行政』(日本評論社, 2011年)及び『「日本」の売り方-協創力が市場を制す』(角川oneテーマ21, 2012年)。
保井 俊之 (慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科)

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