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業務の信頼性と効率性を両立させる内部統制
最近では、企業規模を問わず、「内部統制上は問題ないか」などという言葉を耳にする場面が増えています。ここでいう内部統制とは、チェックや承認などにより、業務の信頼性を高めることを指している場合がほとんどです。
しかし、実際に内部統制を強化しようとすると、チェックや承認に時間や手間がかかるという意見が多いのも現実です。業務を闇雲に厳格化するだけでは、業務の効率を阻害することになりかねません。
中堅卸売業のN社では、営業担当者が作成した見積書を課長、部長、営業所長が承認する、というルールになっていました。また、日々倉庫から届く出荷報告に基づいて営業担当者が売上原票を起票し、課長がチェックしてから業務担当者がシステムに入力する、という流れになっていました。さらに、締日になると、営業担当者が得意先に送付する前の請求書の単価を入念にチェックしていました。
一見すると、承認やチェックが徹底されていて、内部統制の観点からは理想的な業務であるように思えます。しかし、部長や営業所長の不在時は見積書の承認に時間がかかり、得意先への提示が遅れることもしばしば発生していました。
また、営業担当者は、売上原票の起票や請求書のチェックに非常に多くの時間を費やしており、本来、行うべき得意先との商談に十分な時間を確保できていないという問題を抱えていたのです。
N社では、これらの問題を解決するために、全社的な観点に業務の見直しを行ないました。見積書の承認は部長と課長に権限を委譲し、金額に応じた承認者を設定することで、一定金額までの見積書についてはタイムリーに提示することができるようになりました。
また、売上業務はシステムに登録した出荷データに基づいて自動計上される仕組みに変更し、売上原票の起票とチェックを廃止しました。その代わりに、売上の基となる受注データや出荷データのチェックを徹底したのです。これにより、手間の削減だけでなく誤りの防止にもつながりました。
課長は、売上原票の粗利額を見て適正な利益が確保できているかを確認していましたが、売上原票をいくらチェックしても利益が増えることはありません。課長は見積や受注のチェックを重視し、利益を確保するための的確な判断を行うことができるようになりました。
請求業務は、営業担当者による請求書のチェックを廃止し、システムから出力された請求書を業務担当者が得意先に送付する流れに変更しました。当初は単価誤りに関する得意先からのクレームを懸念する声もありましたが、受注データの単価を正確に管理していこうとする意識が徐々に浸透していきました。
内部統制は、不正や誤りを予防・発見するという狭義の目的ばかり注目されがちですが、広義には業務の有効性と効率性を高めるという目的も含まれています。両者の目的は必ずしも相反するものではなく、業務全体を俯瞰して「本当に必要なチェックは何か」を考えていくことで、管理レベルを下げずに効率化できることもできるのです。
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