ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
その数字って意味あるんですか?
企業では、財務会計はもちろん、営業の予実管理、PJに投入した人員の工数管理と、多くの場面で数字を管理しています。
「今月は先月より沢山売れた」「あの商品の在庫が多い」のようなどんぶり勘定では、企業が成り立たないのは言うまでもなく、共通の尺度として「数字化」する必要があります。
私どもがお客様に伺って、業務改善のためのヒアリングをさせていただく際も、「月末の請求業務に多くの時間がかかっています」とお聞きした際には、必ず「どれだけの請求先に対して、どれだけの時間がかかっているのですか?」と、質問を加えています。
「多くの」という表現は、人によって感じる量が違いますし、10件処理するのに1時間なのと、100件処理するのに1時間なのでは、全然意味合いが違ってくるからです。
その場合「おおよそのイメージを掴めればよい」ので、「142件の処理に13時間25分かかっています」などいった答えは必要ではなく、「約150件に1日半くらいかかっています」で十分です。
製造・卸売業のD社では、製品の原価管理に関して悩みをお持ちでした。
D社の製品は現材料も、製造に用いる機器・設備も、製造に関わる従業員も多くの部分が共通でした。
「製品ごとの原価管理を行いたい」という経営層からの要望に、現場では日々のラインに投入する製品ごとの人件費はもちろん、機器の製品ごとの稼働時間、投入原料の利用比率などを細かく管理し、大量のデータをEXCELで加工して、原価計算を行っていました。
その管理が大変なので何かよい方法がないか?というのが、D社の工場での悩みです。
「製品の原価構成」と「直近1年の原価計算結果」を見せていただき分かったことは、以下の三つです。
【1】原価の8割は、機器や施設の減価償却等、間接的な固定費であり、製造数や稼働時間で製品に按分している。逆に、製造に関わる人件費は1割程度である。
【2】燃料の仕入コストが季節によって大きく変動する。
【3】古い機器は修理が多く、故障があった月には大きく原価にのしかかる。
「【3】を単月の原価に計上するのか?」についても議論の余地は大いにありますが、今回のテーマとしたいのは【1】です。
D社では、構成比が1割に満たない人件費を、手間暇かけてかなり精緻(せいち)に製品ごとに管理しています。
機器の製品ごとの稼働時間に関しても同様です。
これらの数値を、原価計算以外の目的で管理しているのでしたらよいのですが、別段ほかには利用していない様子です。
経営層からのリクエストに真摯(しんし)に応えようと、細かく管理できる数字は、なるべく細かく管理しようとした結果なのです。
しかし、それだけ手間暇かけて算出した数字も、原価全体にしめる割合は1割程度のものです。
しかも、8割の数字を按分している時の数字の「精度」を考えると、人件費全体をただ按分しても、なんら遜色ない誤差の範囲になってしまいます。
せっかく手間暇かけて出している数字ですが、一緒に扱う他の数字の「精度」や「インパクト」と比べてみたときに、細かく計算されているその数字に対し「その数字って意味あるんですか?」と疑問を投げかけざるを得ません。
数字を管理するときには、「細かくとれるものは細かくとる」のではなく、一緒に扱う他の数字の、「精度」や「インパクト」を全体で考えていく必要があります。
皆さんのまわりには、このような「無駄に細かく管理している数字」はありませんか?
次回は2012年10月1日更新予定です。
前の記事を読む