予定賃率を利用した労務費の見える化

今回は、原価管理において検討テーマになることが多い労務費に関するお話です。
外部企業との取引によって発生する材料費、外注費、経費についてはシステムでしっかり管理できていても、社内で発生する労務費についてはどんぶり勘定であるという企業は意外に多いと感じています。
特に原価に占める労務費の割合が高い業種では、この労務費をいかにうまくコントロールするかが重要なポイントになります。

中堅の建設業であるW社では、工事単位の個別原価管理を行っていました。
工事に従事する作業員の労務費は、作業員ごとに配置されていた作業所の日数を集計し、実際の人件費をその日数で工事単位に按分していました。
しかし、現場では、複数作業所の兼務や、他作業所の支援などが頻繁に発生していたため、計算された労務費は実態とかけ離れた数値になっていました。
また、按分の元となる人件費には、毎月の給与計算結果を用いていたため、給与計算が終わらないと原価が分からない状況であり、各作業所の所長は、自ら個別に作業員の勤務報告を集計して概算の労務費を計算するという二重管理を行っていました。
さらに、同じ日数の作業をした場合でも、工事が多い月と少ない月では按分される労務費が変動するため、所長は原価をコントロールできないという問題を抱えていました。

W社は、基幹システムの刷新にあたり、労務費の管理方法を大幅に見直すことにしました。
まず、各作業員からの勤務報告により、誰がどの作業所で何日の作業をしたのかを個別に把握することで、複数作業所の兼務や他作業所の支援について実態を反映できるようにしました。
また、実際の給与支給額を按分する方法を取りやめ、作業員を役職や手当に応じてランク分けし、ランクごとに予定賃率を設定して、その予定賃率と作業日数で労務費を計算する方法に変更しました。
作業日数が分かれば原価が計算できるため、月末を待たずにシステム上で原価の状況を把握できるようになりました。
工事が少ない月であっても、予定賃率により原価が計算されるため、所長は作業日数の計画と実績を比較することで原価のコントロールができるようになったのです。

少し余談になりますが、原価管理においては、予定賃率を用いたとしても、実際の消費量によって計算する限り、その原価は実際原価となります。
当然ながら、予定賃率で計算した労務費と実際の人件費には差異が発生するため、最終的には調整が必要になります。
各工事に配賦するという方法もありますが、所長が行う原価管理の範囲外で発生した差異であるため、W社では各工事には配賦せずに決算時に売上原価と棚卸資産に金額基準で配賦するという簡便的な方法を採用されました。

原価は計算して終わりではなく、その結果から何かを判断し、行動に移さなければ意味がありません。
ここでは建設業における事例をご紹介しましたが、製造業やサービス業などその他の業種においても参考にしていただける部分があるのではないかと思います。

次回は4月21日(月)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 コンサルタント

岸塚 大季

平成13年入社。財務会計、管理会計、内部監査に関する専門性を活かして、業務改革、システム企画、決算早期化、内部統制の構築・評価、IFRS(国際会計基準)対応などのコンサルティング業務に従事。
システム監査技術者、公認情報システム監査人(CISA)

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