ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第9回 消費税転嫁対策法に基づく初の勧告
消費税率の引き上げから1ヶ月が経過したが、4月23日に公正取引委員会からJ社の子会社に対し、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する措置法」(以下「消費税転嫁対策法」という。)の規定に違反する行為が認められたため、同法に基づく勧告を行ったことが公表された。
同法に基づく勧告、事業者名の公表は最も重い処分であり、同法施行後、初めての事例である。今回は消費税転嫁対策法のうち、転嫁拒否について解説する。
【ポイント1】処分の対象となるのは大規模の小売事業者だけではない
消費税転嫁対策法は平成25年10月1日から施行されており、同法では、消費税率の引き上げに際し、事業者間での取引対価につき消費税の転嫁拒否等の行為が行われないための対策が施されている。
処分の対象となる事業者(特定事業者)はスーパーマーケットや百貨店、ホームセンターなどの大規模な小売業を営む者だけではない。
上記項目「処分の対象となる事業者(特定事業者)」【2】にあるとおり、営む事業に関係なく特定供給事業者から継続的に商品や役務の提供を受ける法人も対象となることに注意が必要である。
また、取引を行う相手方(特定供給事業者)には資本金額の制限があるが、処分の対象となる事業者(特定事業者)には資本金額の制限はない。
つまり、自社の資本金額の大小に関係なく、資本金額が3億円以下の法人又は個人事業者から継続的に商品の仕入れや役務提供を受けている法人が対象となるのであるが、おそらく多数の法人が特定事業者に該当するのではないだろうか。
特に中小企業では、消費税転嫁対策法の処分対象は大企業だけであるとの誤解のないよう、ご注意いただきたい。
【ポイント2】 今回の事例での禁止行為は?
公正取引委員会から公表された資料によれば、今回のJR東日本子会社はいわゆる駅ナカと呼ばれる商業施設を運営し、「大規模小売事業者」に該当する。
子会社は4月以降の売り上げ減少を防止するため、商品の販売価格の引き下げや商品の増量によるサービスを行うことを企画し、すべての納入業者に対してその企画への参加を強制的に要請。子会社と納入業者の取引形態は、子会社の販売代金に一定の仕入率を乗じた金額を仕入代金として納入業者に支払うものであり、その仕入率の見直しを行っていなかったことから、結果として納入業者も値引きや増量負担を強いられることとなり、納入業者に対する「減額・買いたたき」と認定されたようである。
公正取引委員会は中小企業庁と合同で、転嫁拒否等の行為の有無について書面調査を広く実施している。J社の子会社も「減額・買いたたき」という認識はなかったようであるが、転嫁拒否等を「受けている」だけでなく、気づかないところで転嫁拒否等を「行っている」ことがないか、あらためてご注意いただきたい。
次回は5月13日(火)更新予定です。
前の記事を読む
次の記事を読む