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第19回 SCM構築の障害
前回のテーマで市場在庫を把握しなければ適正在庫が実現できないと述べた。
さすがに全消費者の在庫を把握することは難しいが、製造・卸・小売の各段階における在庫把握は情報公開をすれば理論的には可能である。
実際、特定した企業間での在庫公開を実施している事例もよく聞く。
この発想がSCM(サプライチェーンマネジメント)である。
在庫を削減できれば、各企業とも物流コストを削減できるため推進してもよいと思うが、うまくいっている企業は数少ない。
その理由を考えてみたい。
SCMを実現するためには、商品カテゴリごとに全メーカー在庫を製造・卸・小売で公開する方法が最適である。
国が推進者として共通商品コードを設定し、メーカーに登録してもらい共通商品コードの在庫(製造在庫+卸在庫+小売在庫)を公開する。
製造・卸はこの情報を見て、商品がだぶついているのか、品薄状況であるのかを把握し、製造計画や仕入計画に反映させるのである。
本来であれば、商品コード別の在庫を公開することがベストであるが、単品情報が漏れない仕組みは難しい。
市場シェアが高い企業にとっては共通商品コードの情報だけでも効果はあるが、全企業が商品登録と在庫公開をしなければ意味がない。
よって、もう少し範囲を狭めて特定した企業同士で情報公開し、今よりも在庫の最適化を実現する方法を考えることになる。
特定企業間であれば情報が漏れる心配が少ない。
最初に、参画企業の物流の流れ、物量、物流コストの把握をする。
お互いに物流センターを持っているから、拠点の統廃合の色々なパターンを考える。
そのパターンごとに配送運賃、物流人件費、保管費等の全体の物流コスト(製造+卸+小売)をシミュレーションする。
この段階での課題は、取引先に「物量や物流コスト」を公開できるかである。
通常では得意先に公開をすれば、仕入金額削減の要請につながりやすいため難しい。
資本提携をしているか、もしくはトップ同士が親密でトップダウンで強制的に指示をすることがなければ実現しない。
仮にこのハードルを突破し、コストダウンの実現可能性が検証できたとしよう。しかし、いざ実行しようとした段階で、全体のコスト削減金額の取り合いになる。
企業規模、力関係等もあるため、製造・卸・小売それぞれ1/3ずつで折半することもできない。
以上の理由から現実的に実行できているのが、「関連会社同士の物流の最適化」「2社での物流の最適化」である。
SCMとはほど遠いが、関連企業であれば全グループで利益が上がるのであれば、親会社のTOPの決断で簡単に決まる。
また、2社の最適化であればお互いの不採算物流地域限定で情報交換をすれば実現できる可能性が高い。
次回は9月14日更新予定です。
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