第6回 中小・中堅企業の次世代への経営承継――その2 経営承継のストーリー――

前回は従来の「事業承継」を包括する「経営承継」という考え方をご紹介しました。今回は承継の現状、そして「経営承継」のストーリーについてお話ししたいと思います。

すべての経営者は遅かれ早かれいずれかのタイミングで、自分の引退後の後始末を考え始めるでしょう。そのとき「自分の創業した会社を次世代に引き継がせたい」という願望が出ることは何ら不思議ではありません。これは創業者共通の思いと言っても過言ではないでしょう。

しかしながら、会社を後継者に引き継ぎたいと回答した経営者を対象にした後継者の確保状況に関するある調査では、「後継者が決まっている」会社はわずか50パーセント程度しかないというデータが出ています。15パーセントに至っては「確保が難しい」となっています。

典型的な後継者候補として経営者の長男を例にとると、必ずしも会社を承継したいと思ってはいないことも容易に想像できます。なぜならば最も身近に経営者の苦労・重責というものがわかっているからです。

この様な後継者不足・不在が続く中で、「誰に対して」会社を承継するのかを考えると、おのずと経営承継のストーリーも多様化してきます。

上図から、20年以上前は約80パーセントについて子供が承継していたことが読み取れ、親族以外への承継は10パーセントにも満たないものでした。しかし、最近の4、5年を見ますと親族外承継も40パーセント近くになってきています。親族外承継をサポートする環境の充実等を考えれば、趨勢(すうせい)的には今後も親族外承継が増えてゆくことは確実でしょう。

ここで、親族外への承継は大きく三つの選択肢に分けられます。

1.役員や従業員への承継(MBO・EBO)
会社を役員や従業員に売却する経営承継ストーリーです。今までの会社の同僚・部下が経営するわけですからある程度会社の継続が見込まれます。

2.第三者への承継(M&A)
会社を全くの他人に売却する経営承継ストーリーで、一般的にはM&A(企業の合併・買収)と言われております。売却後の会社がそのまま継続する保証はありません。

3.株式公開による承継(IPO)
株式公開とは自社株式が証券取引所で売買されるようになることで、一般的にはIPOと言われております。

従来主流であった親族内承継も含め、四つの経営承継ストーリーがあることになりますが、いずれの経営承継ストーリーでも言えることは、承継そのものが目的なのではなく、現経営者が経営を離れたときに、会社が引き続き成長するという本来の目的を忘れてはならないということです。

上記ストーリーはそのための手段に過ぎません。そして、その本来の目的(継続的な成長)を達成するためには、現経営者の類まれなるリーダーシップをベースにした「属人的な」経営スタイルから、「組織的経営」スタイルに変える必要があるのです。

「組織的経営」とは企業理念・事業目標(ビジョン)を組織の全構成員が共有して、各構成員が自らの業務について使命を感じリーダーシップを発揮し事業計画の達成に向け組織力を生かし全員一丸となる経営であります。

この「組織的経営」を実現するためには、経営管理体制を整備して企業体質を強化することが求められますが、その際に指針となってくれるのがこれまでお話ししてきた「第2の利益」なのです。組織的経営の実現に向けて「第2の利益」を追求することで、各ストーリーにおける企業価値も高まります。

今回は承継の現状、経営承継のストーリー、経営承継と第2の利益の関係について紹介しました。次回以降は各ストーリーの特色などについてお話ししたいと思います。

会社を承継するにあたり、一番大切なことは何でしょうか?法律的に会社の株式をきちんと承継することでしょうか?それとも実務的に考えて、代表取締役社長やCEO(最高経営責任者)に就任して会社の意思決定の権限を持つことでしょうか?

たしかに、会社の株式を保有したり社長に就任したりすることで経営権を握ることは、重要なことかもしれません。しかし私は、後継者が承継した会社を将来にわたって継続的に発展させていくことができる「経営の仕組み作り」こそが、会社の承継において最も大切なことと考えています。

よく「同族経営は3代で終わる」と言われます。これは、第1世代の創業経営者と同じ資質の経営者が2代、3代と継続して輩出されることの難しさを物語っています。創業社長の60パーセントが設立1年目で倒産し、70パーセントが5年以内に倒産する事実を考えれば、ある程度の会社を築いた社長は、やはり選ばれた能力を持つ人物と評価されるべきです。だからこそ、その様な優れた方々(先代経営者)のために最適化された会社を(真の意味で)承継することなど、形式的・外形的に経営者に就任するだけでできるはずがありません。大切なことは会社経営そのものを承継することなのです。

私はこのような考え方を、従来の「事業承継」に対し、「経営承継」という概念として提唱しています。これまでの事業承継は、子供への承継を中心とした親族内承継が前提とされており、そのための準備として、人的承継としての後継者教育と物的承継としての株式承継がメインテーマでありました。そこには、承継後の企業を如何にして継続的に成長させていくか、という企業体質強化の視点はありませんでした。

多くの経営者が、会計事務所・税理士事務所から提案される株式対策のための相続対策を、事業承継対策として実行してきたに過ぎなかったわけです。たしかに右上がりの経済状況が続くのであれば、事業承継対策で十分であったかもしれません。しかし、先行き不透明な事業環境の中では、これまでの「事業承継」では不十分です。これからは会社を継続的に発展させる仕組み作り・企業体質強化のために、経営そのものを承継する「経営承継」という考え方に転換が求められるのです。

従来の「事業承継」は相続税対策・後継者教育を中心とした対策が主でありましたが、私が提唱する「経営承継」は、これまでの4回にわたってご説明してきた「第2の利益」の獲得を主軸とする、経営管理戦略・労務戦略・税務戦略を組み合わせた対策を遂行してゆくことで達成されるのです。

今回は従来の「事業承継」に対する概念としての「経営承継」のご紹介をさせていただきました。次回は経営承継の内容についてより詳細に話を進めてゆきたいと思います。

次回は3月28日更新予定です。

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この記事の著者

株式会社プロネット 代表取締役

高橋 廣司

株式会社プロネット代表取締役・公認会計士。監査法人では「第2の利益」の概念を提唱し起業家支援業務・株式上場(IPO)支援業務を中心に活動を行う。約35年間の監査法人での経験を経て2011年6月に真の専門家集団のネットワークをベースに中堅企業・起業家への「トータル支援サービス」を実現すべく株式会社プロネットを設立する。
監査法人での経験から従来の事業承継を包括する「経営承継」が必要との自説から『成功した経営者の「次の戦略」―第2の利益を獲得する経営承継』を日本経済新聞出版社から2011年11月出版。
株式会社プロネット
書籍:成功した経営者の「次の戦略」―第2の利益を獲得する経営承継

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