第14回 IPOの税務戦略

IPOは親族内承継とM&AやMBOなどの親族外承継の中間に位置する経営承継ストーリーです。
オーナーは、IPOでその持株の一部を売却してお金に換えることができますが、すべての株式を売却するわけではなく、あくまでも一部です。
大部分の株式は引き続き所有し続けることになります。

相続対策という面においては、IPOによって株式の一部が資金化されますので、株式に集中した財産構成が改善されて、遺産分割がしやすくなったり、相続税の納税資金の原資を確保できるなどのメリットがあります。

<O社のIPO事例>
U氏が15年前に創業したO社。
U氏は次のステップとして株式公開の道を選択した。
U氏は、いい機会なので、相続対策も検討してみようと考えていた。
O社の発行済株式2万株は、すべてU氏が所有しており、その相続税評価額は1株25,000円、総額で5億円だった。IPOでいくらの株価が付くのか分からないが、証券会社からは、最低でも時価総額は100億円を下らないだろうと言われていた。

【相続税評価額と時価】

資本政策の作成
現在の株主構成からIPOまでの株主構成の異動計画のことを「資本政策」といいます。

どれくらいの資金調達を想定するのか、オーナーはどのくらいの持株を売り出すのか、役員や従業員に株式を持たせるのか、この資本政策を立案していくなかで、様々な角度からの検討が行われます。

実は、この資本政策の立案において、オーナーの相続対策という視点は欠かせません。
未上場株式の株価は、「純資産価額方式」か「類似業種比準価額方式」によって評価されます。

O社の場合には、その評価額が総額5億円でした。
一方、上場株式には、「相場」という時価があります。上場株式の場合には、その時価が相続税評価額とされるのです。従って、O社のように、IPOをした途端に、株式の相続税評価額が何十倍にもなるということがおこるのです。

<IPOで株価20倍>

このままIPOしたらどうなるか?
実際のIPOでは、会社は株式を発行して投資家から資金を調達します。
それと同時に、オーナーは、売却後の持株割合などを勘案しながら、その持株の一部を売却してお金に換えることになります。
従って、O社の時価総額が100億円といっても、U氏が持っている株式の価値が、単純に5億円から100億円に増えるわけではありません。
O社が、どれだけの株式を発行するのか、U氏が、どれだけの株式を売却するのかによって、IPO後の株主構成は大きく変わってくるのです。

仮に、会社が5,000株の株式を発行し、U氏も同じく5,000株の株式を売り出したとしましょう。
会社が5,000株の株式を発行しますので、発行済株式数は25,000株になります。
時価総額100億円だとすると、1株あたり40万円の時価になります。
つまり、会社とU氏には、5,000株×40万円で、それぞれ20億円のお金が入ってくることになるのです。

<IPOによる株主構成の変化>

IPOの前後で、U氏の財産の状況を比べてみると、その差は歴然です。
相続財産という視点でみると、IPOしただけで、5億円の財産が80億円になってしまいました(O社株式の売却にかかる税金はここでは無視しています)。

<IPOで相続財産が80億円に!>

このようにIPOの前後で同じ株式の価値が極端に変わるために、IPOにあたってはオーナーの相続税対策の視点は欠かせないのです。
次回は、IPOにおける相続税対策について具体的にお話します。

次回は8月8日の更新予定です。

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この記事の著者

あいわ税理士法人 パートナー税理士

杉山 康弘

【略歴】
平成7年早稲田大学政治経済学部卒。同年辻会計事務所(現 辻・本郷税理士法人)入所。平成12年税理士登録。平成17年あいわ税理士法人入所。現在、上場企業を中心とした大手企業や中堅企業への税務コンサルティング業務に従事するほか、資産税や事業承継対策にも明るい。また、各種セミナー講師としても活躍中で、丁寧でわかりやすい解説と実践的指導には定評がある。
【主著】
「グループ法人税制の実務詳解Q&A」「グループ子会社整理・再建の税務」(共著 中央経済社)「成功した経営者の「次の戦略」」(共著 日本経済新聞出版社)その他税務専門誌への寄稿など多数。
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