第15回 IPOの税務戦略【2】

前回はIPOの前後でオーナーが所有する自社株式の相続税評価額が大幅に変動するため、IPOにおいてはオーナーの相続税対策の視点が欠かせない、というお話をしました。
今回は具体的なIPOの税務戦略である「財産管理会社」の使い方についてお話します。

U氏が資本金100万円で財産管理会社Z社を設立し、U氏が持っている株式のうち3,000株をIPO前に売却したとしましょう。
この場合の売却金額は、相続税評価額ではなく、いわゆる法人税法上の時価による必要がありますが、ここでは仮にそれが相続税評価額と同じ25,000円だったとします。
1株25,000円の総額7,500万円でU氏からZ社へ売却したものとします。
ここでは、Z社はその分のお金を銀行から借りてくるとします。

<財産管理会社Z社を設立>

このスキームのポイントは、未上場株式の評価の仕方にあります。
未上場株式は、「純資産価額方式」か「類似業種比準価額方式」で評価されます。
通常、財産管理会社の株式の場合には、「類似業種比準価額方式」は適用されずに、「純資産価額方式」が適用されます。
そして、この「純資産価額方式」の計算ではその会社が持っている資産に含み益があれば、その含み益の45%に相当する金額だけ、株式の評価額を安くしてくれるというありがたい制度があるのです。

それでは、この財産管理会社Z社の株価が、IPOでどうなるのか見てみましょう。
Z社が持っているO社の株価は、IPOで1株40万円に跳ね上がります。O社株式の評価額は、3,000株×@40万円で、総額12億円になります。

ここで、Z社にはO社株式という資産に含み益が発生したことになります。
O社株式の帳簿価額は7,500万円、時価は12億円ですから、その含み益は、11億2,500万円ということになります。
この含み益11億2,500万円の45%、5億625万円相当額だけ、Z社株式の評価額を安くしてもらえるということなのです。

<IPOでO社株式に含み益が発生>

Z社を活用せずに、U氏がそのままO社株式を所有していれば、IPOで、その評価額は12億円になっていました。
しかし、Z社にO社株式を持たせた結果、U氏の相続財産は、O社株式からZ社株式へと置き換わり、その評価額は純資産価額6億1,975万円となったのです。
財産管理会社を活用したことで、約6億円もの相続財産の圧縮ができたことになります。

<相続財産が約半分に!>

このようにIPOの場合には、IPOの前後で株式の相続税評価額が大幅に変動するケースが多いため、相続対策という視点が極めて重要になってくるのです。

次回は8月8日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

あいわ税理士法人 パートナー税理士

杉山 康弘

【略歴】
平成7年早稲田大学政治経済学部卒。同年辻会計事務所(現 辻・本郷税理士法人)入所。平成12年税理士登録。平成17年あいわ税理士法人入所。現在、上場企業を中心とした大手企業や中堅企業への税務コンサルティング業務に従事するほか、資産税や事業承継対策にも明るい。また、各種セミナー講師としても活躍中で、丁寧でわかりやすい解説と実践的指導には定評がある。
【主著】
「グループ法人税制の実務詳解Q&A」「グループ子会社整理・再建の税務」(共著 中央経済社)「成功した経営者の「次の戦略」」(共著 日本経済新聞出版社)その他税務専門誌への寄稿など多数。
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