第9回 中小・中堅企業の次世代への経営承継―その5 IPOストーリー

今回は、経営承継の四つ目のストーリーであります株式上場についてお話をしたいと思います。株式上場とは自社株式が取引所で商品として売買されることで、IPO(Initial Public Offering)と言われます。

投資家にとって魅力ある商品になるため、企業としては高い収益性、成長性を兼ね備えた会社になることが求められます。また株式上場により、株式の換金性・流動性(流通価値)が高まるため、未上場のときに比べて、株価は飛躍的に高まります。

一般的には、株式上場後も当面、引き続き自分が経営を行い、将来的に後継者に経営を引き継ぐことになります。また、株式上場時にオーナーおよびその一族は、持ち株の一部を売却することで多額の資金を調達できます。

株式上場による経営承継ストーリーからのメリットは以下のとおりです。

  1. オーナーは経営権を維持しながら、株式上場にあたり株式の一部を売却することにより、多額の資金を調達することで財産構成に占める現預金の比率を高め、相続税等の納税資金の準備ができる。
  2. 株式の換金性が高まるために、株式を相続税等の納税資金に充当できる。
  3. 会社の知名度の向上により、親族以外からも、より広く後継者を求めることができる。

さらに、上場準備の過程と上場後は、営業面・管理面・財務面で「組織的な経営」の確立を通して、次の様なメリットが大きいと考えられます。

”営業面”では、ブランド力・会社知名度の向上による競争力のアップ、営業情報の拡大、優秀な営業の人材の応募等のメリットがあります。

”管理面”では、計数管理の強化により正確な経営数値が把握され、リスク管理の強化も行われ、「組織的な経営」の基盤が確立されます。

”財務面”では、資金調達が多様化、自己資本の充実がはかれ、事業計画達成のための資金調達が容易になります。

一方では、以下のように株式上場のデメリットもありますが、メリットの方が必ず大きいと考えます

  1. 「組織的な経営」のために管理部門の人材充実のためのコストが増加する。
  2. 上場維持コスト(会計監査・株主総会等)がかかる。

株式上場は、2011年(暦年ベース)22社、2012年(暦年ベース)37社と上場のハードルは極めて高いのが実情であります。しかしながら最近は、国家戦略もあり、取引所により、上場基準の変更等で少し上場がしやすい環境になりつつあります。経営承継にもIPOストーリーが使い易くなりつつあると思います。

上場ストーリーでの一番重要なことは、上場した会社が継続して成長できるかであります。上場準備の段階で、自社のビジネスモデルのSWOT分析を行い、自社の強み(S)・弱み(W)・ビジネス機会(O)・ビジネス脅威(T)を明確にしてビジネスモデルのブラシュアップをすることであります。上場準備の段階で強みはさらに強くし、弱みは解消します。

これにより継続的に収益を上げ、将来にわたって企業成長が可能になります。

経営承継のためにIPOストーリーを取ることで成長できる強い企業体質の企業を目指すことは、結果としてIPOができなかったとしても、営業・経営管理・財務面でIPOと同じメリットがえられます。ある程度の規模になったら経営者は、IPOストーリーを真剣に考えるべきだと思います。

次回は5月9日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社プロネット 代表取締役

高橋 廣司

株式会社プロネット代表取締役・公認会計士。監査法人では「第2の利益」の概念を提唱し起業家支援業務・株式上場(IPO)支援業務を中心に活動を行う。約35年間の監査法人での経験を経て2011年6月に真の専門家集団のネットワークをベースに中堅企業・起業家への「トータル支援サービス」を実現すべく株式会社プロネットを設立する。
監査法人での経験から従来の事業承継を包括する「経営承継」が必要との自説から『成功した経営者の「次の戦略」―第2の利益を獲得する経営承継』を日本経済新聞出版社から2011年11月出版。
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書籍:成功した経営者の「次の戦略」―第2の利益を獲得する経営承継

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