第18回 労務コンプライアンス監査

【1】労務コンプライアンス監査のねらい
会社は、その経営目的を達成するために、一定の事業領域で経営を行っていきます。
具体的には、取締役会などの決定に基づいて代表取締役が人材を配置し、その人材が与えられた職務を実行するかたちで、事業活動が行われます。
労務コンプライアンス監査によって、具体的な事業活動の裏付けとなる規程(経営執行規程と労働遂行規程)のチェックを行うことで、組織的経営のための人材マネジメントの仕組みの確立状況をチェックしていくのです。

<組織活動の仕組みと労務コンプライアンス監査>

【2】経営執行規程のチェックポイント
経営執行規程の中では、職務分掌規程の検討が最も重要です。
各組織あるいは職制に対応する職務分掌事項の洗い出しをもとに、職務範囲や権限、責任の重複、欠落、矛盾などの発見を行います。

最近、よく話題になるパワーハラスメントの問題なども、職制の分掌事項に対する権限と責任に対する明確な理解が欠かせない時代になってきたことの表れであると考えられます。

経営執行規程が、整合性を持って構成されていることが、管理職による業務命令の正当性を確保することにつながり、経営権を分担して行使する根拠となるのです。

《経営執行規程のチェックポイント》
*職制
・組織単位の標準配置人員数は適切か
・組織単位の大きさに対して階層は多過ぎないか
・無駄な職制はないか(代理、主任、チーフなど)

*職務分掌(組織単位ごとに)
・職務の範囲は明確で妥当か
・職務の重複、偏り(片寄り)、欠落はないか
・表現は簡潔明瞭(めいりょう)で判りやすいか
・規程間の矛盾はないか
・組織単位間の矛盾はないか

*職務権限
・妥当な大きさか(権限行使に内在するリスクが顕在化した場合、例えば不正行使による発生損失のダメージに耐えうるか)
・権限行使のチェック、牽制(けんせい)機能はあるか
・権限行使の手続き(プロセス)は明瞭(めいりょう)か

【3】労務遂行規程のチェックポイント
就業規則、労働契約、賃金規程、労働協約、労使協定、労働者名簿、賃金台帳などの規程類が該当します。
最近では、仕事や働き方の多様化や個別化を受けて、労働契約の個別化も進展しています。
しかし、従来ある人事管理は、いまだに包括的な人事管理を基本的なコンセプトとしていることが多く、この矛盾に起因する労務トラブルも増えています。

この仕事や働き方の多様化や個別化の流れは、賃金の個別化も同時に進展させるものであり、これからは、ますます「個別人材マネジメント」への転換が進んでいくでしょう。
その結果、会社には、その支払い能力と適正な人件費総額の管理が、これまで以上に重要な経営能力として求められることとなります。
そのうえで、個別化の進展を前提とした制度を構築し、人件費の配分方針である賃金体系や規程の整備をしていくことになるのです。

《労務遂行規程のチェックポイント》
・各規則・規程は周知徹底されているか
・各規則・規程間の整合性は取れているか
・制度内容と実運用に乖離(かいり)が生じていないか。恣意(しい)的な運用となっていないか。
・就業規則等の適用対象者が明確であるか。

次回は9月26日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

社会保険労務士法人 大野事務所

大野 実

社会保険労務士法人大野事務所 代表社員。青山学院大学大学院兼任講師【経営労務監査法務】。
開業以来35年、経営労務監査や労務診断等を多く手がける。
栄える会社のキーワードを「顧客支持」「社員活性化」「社会調和」と考え、「社員」が生き生きと働ける処遇制度やシステム構築のための設計から運用・実務に関する支援業務を行っている。
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