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第11回 組織的経営へ移行するための税務戦略
1.経営承継戦略としての税務戦略
前回までで、これからの経営承継では「第2の利益」を獲得するための組織的経営への移行が重要であるということ、および、その経営承継には四つのストーリーがあるということをお話しました。その組織的経営へ移行するためには、経営管理戦略・労務戦略・税務戦略を組み合わせた経営承継戦略の遂行が求められますが、今回は、組織的経営へ移行するための税務戦略についてお話します。
2.これからの税務戦略イメージ
これまでの事業承継対策では、「相続税」という視点での税務戦略が中心とされてきました。株式承継に伴うオーナー家の相続対策がメインテーマとされてきたのです。
しかし、税務戦略を経営承継戦略の重要な一部と捉えると、オーナー家における相続対策という視点に加えて、承継対象となる会社そのものの税務戦略という視点が重要になります。将来のオーナーへの退職金の支給や金庫株による株式買い取りに備えるためには、「会社の税務戦略」が欠かせないのです。
◆これからの税務戦略イメージ
3.オーナー家の税務戦略
オーナー家においては、親族内承継か親族外承継かによって、その取るべき税務戦略が大きく変わってきます。
自分の子供などの親族への承継であれば、その戦略の中心は相続対策になります。後継者とそれ以外の相続人が、お互いに納得する遺産分割をどのようにして実現するかという「争続対策」と、いかに安い相続税で株式を承継するか、またどうやって相続税を支払うかという「相続税対策」がメインテーマです。
一方、親族外承継の場合には、基本的に株式はすべて売却により現金化されると同時に、創業者は退任により、退職金の支給も受けることになります。
親族内承継の場合には、相続税の納税資金や配偶者の生活費などに充当する目的で、生前には退職金を支給せずに、死亡退職金として支給するケースがありますが、親族外承継の場合には、創業オーナーは、どこかのタイミングで退任することになりますので、生前に退職金の支給を受けるケースが一般的なのです。
このように、親族外承継の場合には、創業以来、会社株式の所有を通じて内部留保という形で会社に貯めてきたお金を、株式の売却と退職金という2通りの方法で資金化して、精算することになります。
これらの株式売却による利益や退職金には、所得税や住民税などの税金がかかります。この税金の計算方法は複雑で、株式の売却による利益と退職金とでは、税金計算の方法が異なるのです。
従って、どのようなスキームで精算をするかによって、オーナー家が支払うこととなる税金が大きく変わってくるため、オーナー家の手取り額の最大化という視点からのスキーム選択が必要になるのです。
◆親族外承継では、「株式売却」と「退職金」で貯金を精算
このように、親族外承継におけるオーナー家の税務戦略では、親族内承継の場合に比べて、多面的な検討が必要になるのです。
次回は、これからの税務戦略のもう一つの柱である「会社の税務戦略」についてお話ししようと思います。
次回は月6月13日(水)更新予定です。