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第13回 会社の税務戦略(MBO編)
今回は、自社の役員への承継であるMBOについてお話します。前回お話したM&Aはまったくの第三者への売却であったのに対し、MBOは、その売り先が良く知っている役員だというだけの違いです。
ただし、M&Aでは、オーナーの手取り額を増やすという視点での検討が重要でしたが、MBOでは買い受ける側の資金調達の問題も考えなければなりません。新たにオーナーとなる役員に株式を買い受けるのに十分な蓄えがあれば別ですが、一般的には、金融機関などからお金を借りてきて、株式を買い取ることになるのです。
この場合、金融機関からお金を借りてきて、オーナーから株式を買い受けるための会社を新たに設立することがあります。このような会社を「SPC(特定目的会社:special purpose company)」と呼びます。MBOの税務戦略においては、承継後に、このSPCをどうするかという戦略が必要になってくるのです。
前回お話ししたR社のケースを例にとって、仮にR社でMBOをした場合の税務戦略を見てみましょう。
まず、役員がお金を払い込んでSPCと呼ばれる会社を新たに設立します。そしてそのSPCが銀行からお金を借りてきて、旧オーナー(Q氏)から株式を取得することになります。
<MBOのイメージ図>
そして、その後の税務戦略として、大きく次の2通りの戦略が考えられます。
MBOスキームその【1】(SPCとR社を合併させる税務戦略)
SPCとR社とを合併させることによって、役員や社員がSPCを通して背負いこんだ株式買い取りのための借入金を、R社へと付け替えることができるスキームです。R社の経営承継がうまくいけば、R社が稼ぎだす利益で、この借入金を返済していくことができます。
<借入金はR社の本業から返済>
MBOスキームその【2】(SPCを持株会社として活用する戦略)
SPCを、そのまま持株会社として活用するスキームです。複数の役員や社員でMBOをした場合には、事業会社の意志決定をスムーズに行えるという利点があります。持株会社は、事業会社からの配当金を原資に、銀行からの借入金を返済していきますが、場合によっては「連結納税制度」や「グループ法人税制」の活用も視野に入れる必要があります。
<連結納税を採用し、配当金を原資に借入金を返済>
このように、MBOの場合には、資金調達のスキームや承継後の会社経営の視点からの税務戦略が極めて重要になるのです。
次回は7月11日(水)の更新予定です。
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