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第12回 会社の税務戦略(MA編)
今回はM&Aに絡む税務戦略についてのお話です。
◆R社のM&A事例
R社はQ氏が30年前に資本金100万円で起業した会社。このたびQ氏は同業E社へR社を売却することとしました。E社から提示されたR社の株式価値は10億円。Q氏も納得の提示金額です。
<10億円でE社へ売却>
Q氏は、すべてのR社株式を手放す代わりに、その代金として10億円をE社から受け取ります。このR社株式の売却でQ氏にかかる税金は、次のように計算され、1.9億円です。
<R社株式売却による税金>
(売却代金10億円-譲渡原価5,000万円※)×20%=1.9億円
従って、税金を支払った後のQ氏の手取り額は、10億円-1.9億円=8.1億円となります。
退職金をもらったらどうなるか?
M&Aでは、創業者は会社売却に合わせて会社を退任します。従って、それまでの長年の功労に対して退職金の支給を受けることができるのです。R社では、Q氏に退職金を5億円支給することとしました。
この退職金は買い手であるE社が負担するものではありませんが、E社からすれば、退職金を払う前のR社の企業価値を10億円と算定したのであり、退職金を5億円も払うのであれば、株式の買取金額をその分安くしてほしいと考えて当然です。
双方による協議の結果、R社株式の代金10億円から4億円を差し引くこととなりました。R社株式の代金として6億円、退職金として5億円、合わせて11億円をQ氏はもらうこととなりました。
ここで、少し考えてみてください。
E社は、どうして5億円全額を株式代金から控除しなかったのでしょうか?Q氏には、当初予定より1億円多くお金が入ってきます。その分E社が損をしたということにならないのでしょうか?
じつは、ここに、買い手であるE社と買収対象会社であるR社における税務戦略が隠されているのです。
退職金を支払うこととした場合、R社の損益計算書に「役員退職金5億円」が計上されます。そして、この役員退職金は、税金計算においてもそのまま費用として処理されます。その結果、R社では、なんと約2億円もの節税ができるのです。
<退職金を支給すると2億円も節税に!>
E社とR社を一体として考えると、退職金を支給することでトータルでQ氏に1億円多く支払っても、税金を2億円も節約できたということになります。つまり、差し引き1億円も節約できたということになるのです。
<Q氏の収支とR社・E社の収支>
このように、M&Aにおいては、売り手の手取り額を最大化するという視点に加えて、買い手側における税務戦略という視点も極めて重要になります。M&Aでは、多面的な税務戦略が要求されるのです。
次回は7月11日(水)の更新予定です。
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