第16回 新たな扉を開く、経営者の思い

今から15年ほど前に、ある旅行会社のお客様からの依頼で、Webを使った予約システムを作成させていただきました。
対象は、山登りをしたい中高年層向けのバスツアーです。
事前に調査した段階では、「中高年の方々がインターネットで予約?どうかなあ・・・」という感じでしたが、Webサイトをオープンした翌日にはバスを増車するほどの予約になっていました。

同じころ、あるチョコレート製造販売のお客様がWebサイトをオープンしました。
当時のクール便のコストは高く、「送料 > 商品平均単価」だったため、職場でまとめ買いするしかないような販売形態であったにもかかわらず、「それでも、おいしいチョコレートを食べたい」という、顧客の欲求が勝っていたのでしょう。
高額な配送料をものともしないオーダーが殺到しました。
「インターネットは、人類が初めて手にする、人知の及ばないアナーキーな実験場・・・」と、話したサーゲイ・ブリンも1997年にその言葉を発したのではありません。現実社会は、思いの外、早い時期にWeb世界を受け入れていたように思います。

今回お話しするお客様は、毎日食べる食材を個人向けに配達している地域密着型の企業です。

「大塚ナビィさん。僕は、どうしても、インターネットを信じる気にならない。今ある電話での受注とセールスレディたちのオーダーだけでは、頭打ちで厳しいことは勿論(もちろん)わかっているんだよ。ここ数年、売り上げが伸びていないのも事実だし、だからこそ何とか打開したいと思っている。でも、それが、インターネットを利用しての販路開拓とは思えないんだよ。うちの常務は簡単にインターネットって言うけどね。確かに、大塚商会さんでテスト的にやってみた、ECショップ構築のインターネットサービスが売り上げを伸ばしていることも聞いてはいるけれど、今回のシステム投資額はその40倍の規模だしね。どうしても踏ん切りがつかないんだ。」
社長は、腕組みしながら、かれこれ30分ほど「どうしようか・・・」悩んでおられます。

それから社長はおもむろに、「僕は、全共闘世代って呼ばれている世代なんだけれど、だからといって、政治闘争に深い興味があったわけではなくて、でも、『権威』、『体制』なんていう言葉が嫌いでね。この会社も、皆で楽しくやろうと、昔風で言えば『共同体』のような組織を目指して、創(つく)った会社なんだ。仕事が終わったら、皆でお酒を飲んでさあ、いろんなことを話して!ウチは大きな会社ではないよ。でも、満足しているんだ。電話のコールセンターだって、お客様の担当が全部決まっているからね・・・確かに効率は悪いよ。一人当たりの生産性を向上する、なんて考えたこともないし。でもね、お客様とのコミュニケーションが濃密なんだ。お孫さんが生まれたから鯛(たい)のオーダーだ!とか、今日から息子の給食が無くなったから弁当分の食材を頼むよ!とか・・・そんな日常の些細(ささい)な出来事のキャッチボールが、ウチの会社にはあっていると思っているんだ。インターネットで全部自動化されちゃうのかと思うと・・・そしてメールでコミュニケーション?そんなのおかしい・・・ウチがウチではなくなってしまうよ!」と、複雑な気持ちのようです。

「社長、コールセンターはそのままですし、あくまでもWebは新規開拓と全体を補完する機能ですよ。それに、全国規模で対応している同業他社は既にWebを活用していますし・・・」と、話す僕ですが、社長がそういった状況を深く理解していることは、僕自身もわかっています。ですから、この僕の言葉は気休めにしか届かなかったようです。
 
 「この前、ある映画を見たんだ。近未来を題材にしたSFなんだけど、貨幣経済が、時間経済に代わる世界。つまり、働いて寿命を買い、何かを買うのに寿命を売る世界なんだ。資本主義の本質は時間に対する付加価値だから、効率性を上げていくことは、それだけ人々の生活にゆとりをもたらす・・・という話がベースになっているのだけれど、実際、その未来では一部の富める層が社会を支配し、永遠の時を生きる。一方で、大多数の人たちは長生きができない構造になっているという設定だった。見ていて、あながち外れていないのではないか・・・と思ったよ。少し設定は違うけれど、ミヒャエル・エンデの『モモ』もそうだったな・・・ 」と、社長。

「でもな、ぐだぐだ言っていても仕方ない。昔見た、こんな映画もあったんだ。イタリア統一革命を目指す革命軍に支援をする老貴族がいた。自分たちの今を脅かすその革命軍に対して、なぜ支援をするのか?と問うたら『変わらずに生き残る為(ため)には、自ら変わらなければならない』って言ったんだ。・・・今こそ、決断しないといけないタイミングなんだろうな!よし、わかった!新しいシステムの契約をしよう」自分に言い聞かせるように話す社長でした。

この大がかりなECサイトは本稼働を迎え、社長の決断が正しかったことは実績で証明されました。
ただ、「お客様との身近な関係」を大切にされてきた社長がこの事実を手放しで喜んでいたかというと、そうともいえないお顔をされていたように僕は思いました。

時に、自分の思いとは裏腹に会社の発展・業績向上を思って決断をしなければならない「経営者の思い」を強く感じた一件でした。

次回は7月30日(月)の更新予定です。

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