第17回 システム導入の、その前に ~生産性を向上するための分業化~

~ 格安の美容品をスーパーや100円ショップに卸されている会社での出来事 ~
その会社は、小売店で小さな商品展示ブースをもらいながら確実に業績を伸ばしていました。
既に、当社のシステムを導入して頂いており、事業が大きくなってきたのでそろそろリプレースしようと専務と打ち合わせをしていました。

「専務、今のシステムは購買・販売・発注指示・・・その全てを専務が束ねて決済されています。ですが、毎日飛び回っている専務の仕事ボリュームを考えますと、あまりにも権限が集中し過ぎてはいないでしょうか?これだけ年商が上がってきていることも考えますと、もう少し『分業化』する必要があると思うのですが・・・」と僕。

「ナビィさん、確かにわかってはいるけれど・・・どうも任せきれないんだよ」と、専務。
予想通りの回答ではありましたが、語気に専務の強い意志を感じました。その理由を僕はわかっています。

そのお客様は、社長が脱サラして起業した会社でした。
当初から事業のバックグラウンドを支えている企業があり、順調に成長していたのですが、ある時からその企業が他社への供給を始め、次第にその会社からの商品供給が滞り始めました。
理由の説明を求めても明快な回答がないまま、次は社内のスタッフが辞表を出し始めました。

・・・すべては、バックアップしてくれていたと思っていた企業の戦略でした。
リスクを押しつけ、うまく実ったら果実を収穫に・・・社長は憤りましたが会社を守るために全力を尽くしました。
そして、何とか危機を乗り越えた社長は、それ以降のすべてを自分で決済して企業運営する経営スタイルを貫いていました。

専務は、父である社長が呼び戻すまで大手企業で働いており、分業化の大切さを理解していました。
しかし、その大手企業で既に会社のほとんどを管理するまでになっていた専務は自ら決済するスタイル・・・社長と同じ道を歩んでいました。

「モバイル化や自宅でもセキュアな環境でシステムが覗けたら・・・何とかならないかな?」と専務。
「いや、専務。現状の業務分析をしていると、今やシステムのボトルネックは『専務』自身なんです・・・」と僕。少し言い過ぎたか?
専務の表情が、さすがに赤くなります。・・・しかし、専務にも思うところがあったようで、それ以上の反応にはなりませんでした。

いつしか僕は、何とかこの問題を解決してあげたいと思うようになっていました。

~ 飲食、旅行、カルチャースクール・・・多業態を運営する会社での出来事 ~
そんな時、あるお客様に情報システムインフラ基盤のリプレース商談にお伺いしました。
その会社は、飲食、旅行、カルチャースクールなど各セクションがまったく別の事業を展開されていました。

いよいよ契約という段階で、久々に社長とお会いすることになりました。
会うなり、顔が真っ黒に日焼けしており、更に僕を驚かすために当時としては珍しかったカラーコンタクトで瞳は真っ白・・・「エッ! 」と驚く僕を見て、社長は、「してやったり」と楽しそうです。

会話も弾む中、「会社も、社員の数が増えていますし業績も伸びておられますよね。」と僕。
「いや、ウチは社員が優秀だからね。社長がいい加減だと、社員が心配して頑張ってくれるんだよ・・・」と、いつものように煙に巻く展開です。

確かに、過去3年で年商は2倍になっており伸びていることに間違いはありません。
ただ、販管費を下げるための工夫はIT投資に限らず、様々な業務の見直しで分業化を進めておられパーヘッドの生産性を上げています。

その時、僕は「専務」を思い出しました。
ひょっとしたら、この社長なら解決のアイデアを出してくれるかも?と・・・そこで、社長に頭を下げて、架空企業の話として前述の会社の話しを聞いていただきました。

そうすると、半分も話さないうちに「何だあ、ウチと一緒だよ。その会社」と明るい声で・・・しかし、次の瞬間に声のトーンは下がり「大変だろうな、専務さん。ウチは秘密にすることなんてないから、その専務さんをウチに連れてきてもらってもいいよ。何か、参考になることが言えると思うんだけどな!大塚さんにはいつも世話になっているしね 」と、架空企業の・・・と話した僕の思いを察してか、驚くような展開になりました。

~ お客様が、お客様に教えてくれた「生産性を向上するための分業化」 ~
それから数日後、専務と一緒にその社長のもとへ伺いました。
分業化の進んだ業務を見せて、どのようにマネジメントしているかを丁寧に説明してくださいました。
いつもの軽い感じの社長ではなく、年齢の若い専務にも丁寧にそして真摯に耳を傾けて話を聞かれ、自分の考えを押しつける風でもなく淡々と話してくださいました。

最後に、「実は、当社も御社と同じような経験がありました。その時は僕も同じように人間不信で悩みました。そんな時、大学の先輩で大手企業を経営している社長からこう言われたんです。『資本主義の本質は、付加価値だ。その付加価値を最大利益にしようとすれば、分業化は避けられない。手仕事で最大利益を稼ぐのは人間国宝にならなければならないでしょ? それにはとてつもない才能がいる。しかし、僕も、失礼かもしれないけれど、君も天才じゃない。だから信じるも何も、どんどん分業化する事でしか最大パフォーマンスを発揮できないんだよ。人を信じるとか信じないなどという話は、そもそも経営には必要ない。企業を成長させたいのなら、分業化の徹底で高付加価値を生み出す仕組みそのものを考えることが大事だと思う』と。そして、その教えを今 忠実に守っていましてね。
まあ、あとは聞き上手に、メモを取れ、怒るな、とかだけ・・・まあ、そっちはあんまり守れていないんだけれど」と、笑顔で話されました。

そして、「今は、よく考えると当たり前の話だと思っていますよ。しかし、その時の僕にはなぜか?新鮮なアドバイスに感じたんだよなあ」と社長。暖かい気持ちが隣にいる僕にもよく伝わってきました。

帰り道、専務が照れたような表情で「今日はありがとうございました」と、一礼を僕に。
僕自身も、社長の優しさと専務の琴線に触れる事が出来て、「専務の問題提起がなければ、僕もこのような場面に立ち会えませんでした。感謝をするのは僕の方です」と、下げた頭をなかなか上げられませんでした。

システム導入は、会社の成長・発展のためお客様ご自身が生産性向上を考え業務改革を進めてこそ、生きてくると思っています。
ということで、もう少ししたら・・・僕のリプレース提案もリスタートできそうです。

次回は8月6日(月)の更新予定です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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