第20回 「少数=不利」ではない!

いつも、お客様にお伺いしていると、相談される内容はITの範囲にとどまりません。
さまざまな、ご相談を頂くことがあります。

今回お話しする装置業のお客様も、特殊な技術を持ったすばらしい企業です。
が、売り上げの伸び角度に比べて、利益の伸びが少ししか上がらない。
社長はいつも「利益なき繁栄」と、半ば自虐的に話してくださるのですが最近はかなり悩んでいるようでした。
そんなある日、システムの打ち合わせの後、社長に呼び止められました。

「大塚ナビィさん、君もよく知っているように、ウチの会社で製造している製品は単価そのものはそんなに高くない。しかし、代替商品がないということで、いくつかの大企業と取引をさせてもらっているんだよ。でもね、大会社は調達コストを下げるために、いつも価格交渉をしてくる。しかも、最近は全部が全部、同じような指値を言ってくるようになったんだ。まるで、徒党を組んでいるのかな?と勘ぐってしまいそうになる程に・・・まあ、景気が厳しいからね。確かに、価格を下げたいのはわかる。けれど、ウチのつくるものは量産化ができない。むしろ、数が多いと品質や納期に神経質になって気苦労ばかりになる。だから値引きと言われても、限度というものがある。大塚ナビィさんは営業だし、いろんな企業と取引している。駆け引きも含めて、たくさんの経験がおありでしょう? 何か、僕にもできる交渉術みたいなものを教えてくれないかな・・・ 」と、しみじみ話されます。

社長は、いまの企業を継がれて10年。
先代の社長が亡くなられて、公務員をしていた長男が後を継がないと宣告したために、やむを得ず大学院から直接社長になったこともあって、営業的な話にはいつも弱っていました。
ただし、頭の回転が速くロジカルに話を組み立てて値引き交渉にあたるのは得意でした。
当社との交渉も、詳細な部分のお話や、その根拠を説明していくプロセスで、値引き交渉をうまくされていた印象でした。
しかし、大企業からのロジック抜きでの「もっと安く!」には、同じようにはいかないようです。

そこで、社長にこんな話をしました。
「社長の会社が、手袋の左手を作っているとしましょう。製造原価は5,000円、売りたい価格は10,000円です。そして、10個の左手袋を作成しました。一方では右手だけを作っている会社があります。そちらも同じく原価5,000円の売値10,000円。ただ唯一の違いは、右手は1社1個の10社が作っています。その時、その10社が徒党を組んで『1個6,000円でないと売らないよ・・・』と、御社に迫ってきました。さあ、社長どうします。このままじゃあ、10個50,000円の利益が10,000円になってしまいますよ」と僕。

「おっと、ウチの現状と似ているなあ。うーん、どうしたらいいのだろう」と社長。
頭をひねっていますが、いつもは聡明(そうめい)な社長も、ちょっとマイッタ状態です。

僕は、ちょっと嬉しそうに、そして、ほんのちょっぴり、自慢げにこう話しました・・・
「社長、左手袋を一つビリビリに引き裂いて写真に撮り、右手の10社にFAXを送るのです。『うちの犬が、左手袋一つを台無しにしてしまった。大変申し訳ないですが、残り9個を一つ14,000円で売りたいと思っているので早急にお返事ください』とそえて。すると、仮に皆が徒党を組んでいたとしても、結局どこか1社が、5,000円原価の右手袋を無駄にしてしまうので、それまでの徒党もなんのその、怖くなって大至急オーダーの電話が入ってくるのではないでしょうか?しかも我先にと・・・」

「おー!すごいなあ!よいアイデアだ。だけど、僕なら14,000円は言えないなあ。せいぜい言ってもともとの10,000円だろうなあ?」と笑いながら社長。

「社長、僕も同感です。実は、社長のおっしゃる『10,000円』が正解だと思います。14,000円は相手が要求してきたことへの意趣返しになります。それでは相手にも不満が残る。これからも継続的な取引関係を考えるのであれば、10,000円は妥当で、賢明な価格提示だと思います。」と、すっと「10,000円」と言った社長の経営者としてのスタンスに、再度感心させられました。

実は、ITシステムでも同じようなことがあります。
現場と、経理と、経営者・・・何も経営者が優位な企業が数多いわけではありません。
中堅中小の企業であれば、現場や、経理が一番強い企業も数多くあります。
そして、そこにITをかぶせると、システムのイニシアチブをだれが取るのか?といった様相になります。
しかし、そこで大切なのはITシステムでバランスを取っていくことです。
その時、前者のような「少数=不利」というゲーム理論のひっくり返しでの話を組み立てながら、各ポジションの意味づけをしっかりとした上で、相手を追い込まないで、しっかりとバランスを取るような展開をよく利用します。
ビジネスや組織に大切なのは、常にバランスだと思います。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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