第14回 合理化の果てに・・・何でもシステム化が正しいわけでは無い

「配送の効率化を狙って、システムで自動配車をするというのはどうかな! 」

その企業は、中堅大手の外食チェーンに食材を卸されてるお客様でした。
僕がお伺いするなり、社長が新しいアイデアを思いついたぞ!どうだ!と言わんばかりに、開口一番から迫ってきました。

「うーん!配送車両20台規模で、そんなに大それたシステムなんて・・・」と、お答えすると「大塚ナビィ君、昔はうちの会社もコンピュータなんて買えなかった、それが、安くなってきたから、今は、コンピュータが入って、事務の効率も上がった。そうでしょ。しかも、新しい技術開発で、今や、GPS、デジタコ、ドライブレコーダを採用して、安全運転、燃費対策、車両管理等、色んなことが改善されている・・・次は、お客様(得意先)への『時短』だよ!」と、かぶせるような勢いで話をされます。

確かにアイデアは良いのですが・・・コストパフォーマンスを考えると厳しいものがあります。でもあからさまにノーとは言えないしな~!と迷っていると、それを察したのか「やっぱり、20台じゃ意味ないかな?まあな、配車は、常務がやっているし・・・ソコソコ上手くいっているから良いかあ」と、自分で結論を出されたようでした。

とにかく、ITに限らず『24時間戦っている社長』でした。
倉庫のロケーション管理では、動線を意識したレイアウト配置を何枚もの紙に、パワーポイントからドロップしたパーツを組み合わせて資料を作成したり、果ては、従業員の制服も、自分でデザインして、動き易くて、作業の効率化に結びつくものを・・・などなど、絞り出すように考えられたアイデアを、練りに練って実行されます。

当然、僕も巻き込まれるように社長の考えを具現化するようにサポートさせていただくのですが、時には、新規顧客の開拓にITで他社と差別化したいから、資料を作ってよ。の依頼からスタートして、気がつくと、その新規顧客のプレゼンに一緒に同行させていただき、社長に代わって熱弁をふるわされることもありました。
優秀な経営者は人を巻き込むのがうまい・・・まさに、それを地で行くような社長でしたが、一緒に仕事をさせていただくことは、スゴク楽しくもありました。

そんな中、社長から新しいアイデアです。

「取引先からのオーダーは、お店終了後に各店舗からと、本部からオーダーが入ってくるんだ。本部のデータはシステムで受けているからよいけれど、店舗からのオーダーは、大半が電話かFAXか?それも、聞きとれなかったり、読めなかったりするから、常務と2人の事務員が、毎日、朝3時過ぎくらいに出社して、人間コンピュータで出荷指図書を作成しているんだよ・・・これが大変でさあ。」と、ここまでは神妙に話されます。
社長の話にこういった「タメと神妙さ」が入る時は、何か良いアイデアが思いついた時です。
すると次の瞬間ニコッとして、

「だから、今後は、得意先のオーダーを受けないようにしようと思うんだ」

と、驚く僕を前にゆっくりとした動作で深く座り直し、「実はさあ、過去の、オーダー実績を週間単位で割って、実績推移を分析してみたんだよ。
そうすると、出荷の波動曲線が、店舗別にはっきりしていて、確かにイレギュラーはあっても、概ね、過去3年間この曲線ブレは、殆んど無いんだ。
過去のデータからリスクを考えても、ざっくり90%は、決まったオーダーなんだ。

つまり、誤差がMAX10%なら、トラックに10%の積載余剰を残しておけばよいわけで、そうすると、多少在庫リスクを当社が
背負っても、得意先の業務効率化になるでしょ・・・何しろ、『オーダーは、特別なことがある時だけで結構です。あとは、毎日必ず、欠品無しで配送します。』って言えることはスゴイことだと思うんだよ。当然、ウチも、常務や事務員の早朝出勤が無くなる訳だしと、皆ハッピーで良い話でしょ!」

うーん!実行するには、いくつか補強しなければいけない部分もありますが、イケている提案です。
その得意先が、特化した業態であり、提供するメニューが少ないことも踏み切れる材料になりました。そして、システム上、運用上での考えられるリスクを埋めて得意先に交渉です。
勿論、大幅な業務改善になるということで、即OKになって、システム化の作業がスタートしました。そして完成。

テストランをする意味でスタートした地域では、1か月もしない間に高評価を頂き、各店長からは、「店舗終了後の残業が無くなりスゴク楽になった」と、高い評価です。
欠品を許さない条件なのでテストランは1年とゆっくり目に見ていましたが、現場からは早く水平展開を・・・との話が起こる程でした。

しかし、半年後くらいから、おかしくなってきます。

先ずは、各店舗からの緊急出荷依頼が増えてくるのが始まりでした。
その一番は、『特別な日』でした。
勿論、地域イベント等で特別な日があるのを、店長自身も経験値や申し送り事項で、良く知っていましたが、以前は、毎日オーダー業務をしていたので、そこでしっかりと手配できていました。しかし、今はその業務が無くなってしまった為に、忘れてしまうとの話でした。さらに、以前は、同業態の外食チェーンが少なかったのですが、近くに、同業態ができると当然過去のデータの誤差も発生しだします。

思うように行かなくなっていきました。

緊急出荷は、運送コストアップに繋がります。
店長達に呪いの言葉を吐きたいくらいですが、そういう訳にも行きません。
そして、運用9カ月を過ぎるころ、社長はシステムの運用を元に戻すことを、得意先に申し入れました。
その時、得意先の購買部長が、「やっぱり、楽をすることで、何かを失うものがあるのだと、当社も良く知ることができました。今回の件では、当社内でも大きな議論になりましたし、良い経験をさせていただきました。店長達の再教育も含めてしっかりと仕切り直しをさせていただきます」と、いつもは、仕入れ先に厳しい部長が頭を下げられたことに社長は驚き、「それは、当社も同じことです」と返しました。
その後、その購買部長が社内で掛け合ってくれたのか、食材配達をするエリアを増やして頂けることになりました。

そして、2週間もすると、社長からの電話です。
「大塚ナビィ君、今どこにいるの?相談したいことがあるんだけど、今回は絶対にイケル!間違いない!だからスグ来てくれないかなあ・・・」

電話の向こうの鼻息の荒い声が、こちらにもビリビリきます・・・さすが、社長!

次回は7月17日(火)の更新予定です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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