第13回 名選手は名監督になる

「少し言いにくいんだけど、もっと安くならないのかな?・・・当社は、これから伸びる企業だし、コンピュータが、あんじょう動いたら、いくらでも大塚商会さんをPRして、紹介するし。」

目の前に座っている僕は、緊張したままで話にならないぐらい、頭の中が真っ白な状態で、「は、はい・・・いくらでも?いや、すいません、後、少しくらいしか、いや、もっと頑張ります。」何を、自分で話しているのかもよくわかりません。

それも、そうです。目の前に座っているのは、野球ファンであれば、誰もが知っている超有名元選手です。それまでは、システム担当だった課長とお話ししていましたが、「最終は、社長が交渉したいと言ってるので・・・」と、見積書を持ってお伺いすると、突然そんな話に・・・。

その瞬間から、僕は、冷や汗が全身に、ものすごい緊張感に・・・そして、オーラ以外の何ものでも無い気配が部屋中に漂う中、社長が登場です。そして、「見積りなあ・・・」に続いて、冒頭の言葉になりました。

既に、社内では、熱狂的野球ファンを中心に、「野球の神様からお金を取るなんて、僕には想像出来ない・・・」っていうような過激で、好き勝手な話も聞かれる程でした。しかし、「ビジネスは、ビジネス」のバランス感覚的均衡で、冷静さを取り戻そうとするものの、本人を目の前にすると、何やら、もう雲散霧消してしまいそうです・・・。

あたふたしている僕を前にして、ゆっくりと、「今回のシステムは、数多くの量販店とのオンラインをすることで、当社の業績を上げることが目的だよねえ。だけど、ソフト開発費を考えたら、大きな取引先でないところは、取り引きが増えてから、オンラインしても良いんだよね。ウチの社員は、全部オンラインしようとしてると思うけど、『コンピュータのプロ』からのアドバイスとして、今、やるべきでない取引先は、何件あるかな?」との質問。

少し冷静さを、取り戻して「3社は、2次ステップでも良いと思います。オンライン化が発注増になるという保証がある訳ではないですし、現状の出荷量を考えると。」と答えると、「そうかあ。」と、さらに続けて「業務の残業は減るのかな?」との問いには「もちろんです!バックヤードの業務は劇的に変わると思います。」と少し、言葉に力が戻ってきたようです。

すると、またもや「そうかあ」と、さらに続けて「ウチの社員の半分以上は野球しか知らない社員ばっかりで、それでもコンピュータ大丈夫か?」との問いには、「エッ?元野球選手ですか?」と答えると、怪我や、日の目を見ないまま2軍で契約解除された選手を積極的に採用していたとのこと。その時は、すかさず「大丈夫です。」とお答えしました。

すると、社長が、両膝を叩いて「わかった、契約しよう!」と、「実は、銀行の紹介でもう一社にも提案してもらったんだけど、今と、同じ質問したら、あの場合は、この場合は・・・と面倒くさい話をされた。こういうケースはダメとか、この条件なら大丈夫とか、細かい前提条件を話す。そんな、イレギュラーがあるのは100も承知でこっちは質問してるんだけどな?コンピュータのプロやったら、理屈や、言い訳を探す前に、やるか、やらないのか、ハッキリさせてもらわなとなあ。大塚ナビィ君は、わかり易くてエエわ。最終価格は『誠意ある価格』ということで頼むよ・・・ウチは、零細企業やしな。」と茶目っ気たっぷりに話されると、「あとは、課長と話をして契約まとめておいて・・・ありがとう!頼むな!」と、固く握手をされ、ボーっとする僕を尻り目に席を立たれました。

その後、予定以上のスピードで、システム化は進み、その企業が右肩上がりの成長を見せました。多くの取引先が増えたのも、社長自ら営業で汗を流されたからで、その働きぶりには驚かされました。確かに、「苦労人」と言う言葉を自他ともに話されていましたが、いつお伺いしても、その企業は明るく、活気に満ちていました。

そして、ある時、会社にお伺いすると社長が書いた本を手渡されて、「ここ読んで見てよ。」と、「・・・コンピュータを導入して、ある取引先との契約を解除した。その企業との取引状況のデータを見ていると、このままでは、大変なことになるので、早い段階でやめられた。結果的にそれが正しかったので、いかにコンピュータが便利なのかよくわかった・・・」と書かれていました。社長からは照れ笑いで「僕の知り合いにもコンピュータ入れてもらって、世話になってるし、本は、何冊でもあげるよ・・・!」と、ニコニコ話をされながら、サイン入りの本を頂きました。

その商談以降、守っていることは、お客様には、結論を明快にはっきりと言うことからスタートすることです。社長に言われた「コンピュータのプロ」と言う言葉は、それほど強い影響を与えました。僕自身は、当時、入社して3年目で、自分ではプロと言うには程遠いレベルでしたが、そう社長に言われたことが、「文字通り『コンピュータプロ』になってやるぞ。」と、最高のモチベーションになりました。「名選手、名監督にあらず」なんて、よく巷間で話をお聞きしますが、たった一言で、その後の、自分自身のビジネススタイルの基本になったことを考えると、「名選手は、名監督になる。」って、いつも思っています。

次回は7月9日(月)の更新予定です。

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