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第7回 二代目、三代目と言う十字架<前編>
「ウチの社長は、すごくパワフルですよ。朝から夜まで、徹底して仕事の事を考えていて、エライと言うか、僕なんか真似出来ないというか・・・」と、父である社長を持ち上げるものの、その表情は、どことなくぎこちなく固い。その企業を継ぐのは、今、僕の目の前で話している息子である取締役だからです。
一般的には、叩き上げの社長は強く、剛腕で全てを力でねじ伏せるような勢いで・・・と書くと、怒鳴ってる社長が多いように思われるでしょうが、実際には、多くの経営者は剛腕さを声や態度で示すような事はしないで、実に丁寧であり、我慢強く、そして粘り強い経営者であるケースが多いように思います。「叩き上げの社長=ワンマン社長=剛腕」というのは、TVドラマの中でカリカチャーされただけで、実際には、ほとんどいらっしゃらないと思います。もちろん、どこの世界にも例外はあるでしょうが?
・・・そして、その企業のトップも、又、「例外」的な企業でした。そうです。いつも、右手の電話で仕入れ先との交渉を、左手携帯は、肩に挟んで、店長達に厳しい指示をしています。最初は、度胆を抜かれましたが、人は慣れるもので、そういった風景が日常的だと、その空間で、違和感を与えているのは、前のイスで電話の終わるのを、静かに待っている僕・・・の方なのでは?と思わされます。
ようやく15分ほど待つと電話が一区切りして、「待たせて、悪かったなあ!」と笑顔で話しかけられます。これも共通していますが、感情の激しいオーナー企業のトップの最大の武器は、ほぼ、例外無くこの「笑顔」であると思います。この魔法の「笑顔」には、どれだけ、厳しい交渉をされても、納得させられてしまうパワーがあります。
社長の座右の銘「タイミ・イズ・マネー」(時間じゃなくて、タイミングがお金になるっていう、社長の造語)です。すかさず、本題を切り出します。「次期システムは、取締役にリーダーをさせるっておっしゃっておられましたが、大変申し上げにくいのですが、副社長や専務の協力がなかなか得られないのですが」と話をすると、「しっかりと、二人には、直接、話したんだけどなあ」と社長。
そして、「もう一回、話しておく」って話を切り上げようとします。すかさず、「いやあ、この際、新システムは、現場の若手にメンバーを切り替えて対応した方が良いと思うのですが・・・」と言うと。社長はあっさり「わかった、任せた!後は、取締役(息子)と話し合ってくれ」と言うと、関心事は、今届けられたFAXに移ったようでした。
そして、社長室を辞去し、取締役の部屋に行くと、冒頭の話になったのでした。
その企業は、数万点の商品をいつも在庫で抱えており、「当社には欠品が無い!いつでも必要なものを、即配達できる」を社是にしている会社でした。年商も伸びて勢いはありますが、在庫は月商の何か月分といった具合に、キャッシュフロー面では厳しい部分もあり、経理担当役員は、いつもぼやいてます。
中小から大手までと小回りの良さと大口までの自在性を売りにしているので、配送する自社便の車中にも、その場でのオーダーにも応えられるように在庫を持てるようにと、これも掲げる「即応性」の結果で、不良債権、在庫ロスなども発生させていました。まあ、そこを「右肩上がりの数字」に押されて、今までやってこられたわけです。
そこで、取締役と二人で、「財務体質強化」をしようと次のシステムでは「在庫削減しても欠品を出さない」をテーマに、社内提案をさせて頂きました。今、稼働している大手SIerが導入したシステムは、副社長が主導して導入したシステムですが、在庫で言えば、倉庫在庫以外はその他在庫といったアバウトな管理形態であり、車中在庫や、倉庫でもロケーション管理が出来ていない為、棚卸の精度もイマイチ。入出庫業務もある程度は管理していても、細かな在庫に関しては単価が安い事を理由に充分ではありませんでした。
もちろん、副社長は正面切っては言わないまでも、少なくとも新システム導入には非協力的(大手SIerと導入した現行システムを否定したたように見えたのかも知れません)ですから、プロジェクトが進まない。むしろ、取締役に対して、「出来るものならやってみろ」的な感じもしました。対応する取締役も怒りを感じていましたが、社内摩擦を直接起こしてはマズイと思われ、社長に対して、「敢えて当社の見解」という事で進言する事にしたのです。(後編につづく)
次回は5月21日(月)更新予定です。
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