第19回 おせっかいな提案

オシャレに敏感な人たちが集う街にはアパレルファッション業界の企業が数多くあります。
今回お話しするお客様もまた、その街に本拠を構える急成長中の企業でした。

お伺いした時も、列車の主要路線のターミナルビルという“一等地”に店舗を出す準備で、若いスタッフと熱い会議をしておられたようで、会議室からの太い声がよく聞こえます。
そして、「遅れて申し訳ない」と言いながら、走るように社長室兼応接室に入ってこられました。

精悍(せいかん)な顔つき、大きな声、名刺交換の時に見た笑顔に大きな白い歯が似合う、そして何より若くてエネルギッシュ・・・その社長とお会いした瞬間のイメージで、そんな言葉が浮かびました。

直感で、タフな交渉になることが予想できました。
「創業して7年、ちょっとはブランド力もついてきたし、ターゲット層も絞れてきた。イタリアと中国に生産拠点・・・といってもウチくらいの規模じゃあ、家内工業に毛が生えた程度だけれどね。とにかく企画勝負で、今までは熱いエネルギーだけで会社を成長させてきたけれど、さすがに会社規模が大きくなってくると、管理の甘さが露呈するようになって、最近も発注ミスで大きな失敗をしてしまった。しっかりと、コンピュータで管理したいんだけれど、いくらかかるかな・・・」
と、前のめりで一気に話し、次の瞬間には応接のイスに深く座り直して、こちら真っすぐに見据え、挑むかのように見つめてきます。

こういった場合の回答は、シンプルに応えるのが一番・・・と、今までの経験が、僕の脳が、シグナルを発しています。
が、「何か違うような? 」との思いもあって逡巡(しゅんじゅん)していると、重ねるように「価格はもちろん、概算でいいですよ・・・」と。

僕は開き直るようなスタンスで、「社長のおっしゃるように、管理を強化したシステムを導入することは大切です。しかし創業して7年目で急成長をされている中、勢いも大切です。管理に関しては、多少の目をつぶって最低限の範囲で対応し、むしろ攻めるシステムを前提に、フロント系のシステムを導入されるのはいかがでしょう。企画情報や、売れ筋、トレンド発信等、従業員の数も増えておられ、社長、専務も出張が多い中、以前ほどの社内間の情報共有が難しくなってきていることはないでしょうか?そういった社内情報共有を積極的に進め、もっともっと尖がった企業にしていくようなイメージでシステム化を考えてはいかがかなと思いました。今ですと、モバイル化も選択肢が広がり世界中どこでもネットワークでつながります。管理システムは、いまのバッチ処理系システムから、新たに導入する情報系システムに承認申請プログラムと会計システムを連携するシステムにして、お金をリアルタイムでしっかりと管理する。在庫情報は、時間差があって問題が出るかもしれませんが・・・」と、自分の考えを、そのままお伝えしました。

もちろん、この提案に下地がなかったわけではありません。
以前、同じようなアパレル企業において、提案角度は少し違うもののWEB+基幹という攻めの提案で成功した同業社の事例があったからでした。

社長は、少し思案気に腕を組まれ、応接室の横にある大きな時計を見ながら「うーん!そうじゃないなあ!」と一言。
「大塚ナビィさん!まずは、こちらの要望に応えてほしい。もし提案があるのなら、そこが終わってからですよ。今週中に見積りをお願いします。」と、冷淡な表情です。
「しまった!」と思う感情がわき上がってきましたが、そこは、仕方がない。ご要望通りの見積もりを速攻で作成し、合わせて自らの提案を添付する形で提出させていただきました。

何の返事も頂かないまま2週間が過ぎたころ、社長から一通のメールが届きました。
「大塚ナビィさんの情報連携は正しい指摘でしたが、情報系システム部分はSierさんにお願いするのではなく、自らがチャレンジして取り組まなければならないだろうと考えていました。なぜなら、企業における情報連携は、野球選手でいう、バットや、ボールや、クラブの選択であって、自分たちの日々使う道具のことだからです。そんな、道具の選択を自分たちで決めないでどうする?・・・モバイルを含むネットワークインフラの選択は、当社の役員、社員で手分けして調査し、学び、話し合いました。最終的には、承認申請システムと会計管理系を御社にお願いすることにしましたが、ほかの部分は他社システムを中心にまとめました。もし、大塚商会さんがマルチベンダーとしての得意分野で、全システムをまとめてサポートして頂けるのであれば、サポート保守全体を御社の得意なワンストップでお願いしたい・・・」と、書かれてありました。
一緒に添付されていた当社への提案書類には、情報系インフラの構成案が描かれており、セキュリティも、利便性も考慮され、よく吟味されたすばらしい内容でした。

その時、勘違いしていた自分自身に気づかされました。
自分たちの高い専門性を前面に押し出した考えに溺(おぼ)れて、現実的な運用や、何より、“利用者の自主的な意識部分”への考察の甘さを痛感したのです。
同時に、社長から頂いたメールが、簡潔にクールに書かれていることにも感じるものがありました。
・・・返信のメールには、お客様の提案構成に実運用を加味した補強策と、マルチベンダーサポートとして当社を選択していただいた場合のメリットとデメリットの可能性に触れ、当初のお客様からの要望にストレートに応えなかったことに対する自分の見通しの甘さを謝罪する言葉を添えました。

出張先の海外から届いた社長のメールには「管理システムは、どこのSIerだって同じだと思っていたのでコスト比較で選ぼうと思った。本筋の情報系をどうするか悩んでいた時に、御社から『おせっかいな提案』があった。あの瞬間、子供のころ机に向かってイザ勉強しようと思った矢先、母親から『ちゃんと勉強しなさい』と、重ねられて『イラッ』とする気持ちを思い出した。だから、意地でも情報系は絶対に自分たちでやろうと決めた。他社は管理系システムの提案を素直に出してくれた。御社は、見積もりのときにも管理系システムとは別に、『さらにかぶせるような、おせっかいな、情報系の独自提案』を送ってこられた。もっと『イラッ』ときたけれど、ウチの情報系システムのたたき台として使わせてもらった。だから、御社に新システム全体のアンカー役をお願いしたいというメールを送った。僕は、おせっかいな母親が嫌いではないように、御社の姿勢も嫌いじゃない・・・これからも適度な、『おせっかいな提案』を待っています」と書かれてありました。

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