第11回 時には、お客様の要望の本質を突き詰めてみる・・・

そのお客様は、F2層(35歳以上49歳までの女性)を中心に、ライフスタイルなどを提言する、嗜好性の強いアパレルブランド企業でした。店舗は自営であり、10店舗を超えたあたりから、単なる在庫管理では無く、商品取り置きや、委託販売、欠品情報、積送品在庫といった詳細な在庫管理、ロイヤルカストマー管理、本部での事務スタッフの削減・・・といった、多岐にわたったきめの細かな業務管理が、現場要望としてまとめられ、当社を含め、数社のSIerが呼ばれました。

「ウムウム!こりゃ大変な数の項目だなあ・・・」との感想を持ちましたが、手渡された段階では、僕自身もお客様の深い悩みを知る由もありません。

事務所に戻って、提案書を書き出しましたが、どうも、釈然としない気持ちがします。確かに、個々の要望事項は、改善しないといけない項目ですが、これって「ベキ論先行」で、アパレル企業が本来挑んでいる「ブランドにあった企画を当てて、顧客獲得・・・」って感性が、どの項目にもなく、その企業の「今ある害」を取り除く為の提案事項であったからです。

確かに、業務管理を効率化すれば、一定の効果は出ますし、それは、企業を筋肉質に変える第一歩になります。さらに言えば、「一利を興すは、一害を除くにしかず」という話もあります。でも、どうしても違和感が拭い去れません・・・

「悩んだ時は現場に!」お客様の各店舗にお伺いして、ヒアリングをさせていただきました。そうすると、「上からの指示で、今ある問題点を提出した」とのこと。本当は、店長ブログや、携帯メルアド収集と、イベント発信。インターネット通販の強化が強い現場要望であることが分かりました。

嗜好性の強いブランドであればあるほど、店舗と顧客の関係性が大切であり、ブランドイメージも大切です。戻ってから、現場要望でもあった、その企業のWEBサイトとインターネット通販を拝見しました。ヘッドの画面こそデザイン性に優れているものの、フラッシュが過剰気味に使われて、少し面倒な感じです。通販では、表示している製品はごく一部。在庫の有無も表示されていません。

リクエストを受けて回答してって・・・これじゃあって感じです。もちろん、お客様の要望事項にはWEB販売の事例は触れられていません。ここは、どうするか?いつもに増して真剣に考えました。

提案書の表紙は、「一利>百害(一利は、百害に勝る)」にしました。そして、コンペのプレゼンです。

「必要なことは、お客様が、店舗でも、インターネットでも、御社のブランドイメージを通して、手に取ってみたい、もしくはWEB上に掲載される数多くの商品から、店員の目を気にせず自分の好きな商品を探してみたい=リアルとバーチャルの融合と考えました。確かに、お叱りを受けるかもしれませんが、今回、お客様から頂いているご要望を叶えるシステム提案ではありません。でも、現場の店長の皆さんにお伺いすると、WEBへの興味は数多く聞かれました。そこで、『WEBシステムと基幹システム』の連動で打って出る提案にまとめさせていただきました。『一利>百害』と書かせていただいたように、確かに、ご要望のRFPでは、欠品漏れで売り上げは補充されるでしょう。計画的在庫管理でキャッシュフローは改善されるかもしれません。つまり、すべての項目は、『売上が大きく伸びる』というテーマでは、インパクト不足です。ですから、弊社としては、WEBと基幹システムの一元的管理システムで、お客様は、店舗でも、インターネットでも、御社の統一ブランドイメージを、そして、発信される各店長のメール、ブログで、各店舗の個性を感じていただくような工夫を考えました・・・少々乱暴な提案で申し訳ないのですが」

と一気に話し、その後はそれらを実現する具体的システムの内容紹介に入りました。持ち時間は1時間でしたが、実質30分で終了。そりゃそうです。お客様の要望に応えた提案じゃないのですから。そして、終わるや否や・・・一人の役員が、険しい顔で、口火を切りました。

「大塚ナビィさんは、イタリア料理店に行ってパスタを頼んだのに、とんかつ定食が出てきたらどうしますか?」との質問でした。

アー失敗したあ!やり過ぎた!後悔、先に立たず!往々にして、こういう失敗するんだよな!・・・頭の中が、真っ白になりかけます。でも、その時は、残りわずかな脳内メモリが反射して、こう答えました。「僕は、おいしそうな、とんかつだったら食べます」と。引きつりかけの笑顔ですが、精いっぱいで、そうお答えしました。

すると、役員も、一転笑顔で「僕も、とんかつ食べちゃうよ・・・」と。「ただし、今日の提案の、全部肯定しているわけじゃない。今あるシステムでは、管理できない部分がたくさんあって、そこにメスを入れないと、大塚商会さん、その部分も対応して頂けますよね・・・」と。「もちろんです!」と僕。すると、「良いプレゼンありがとう!」と、もう一人の役員も・・・「耶律楚材※が、大塚ナビィさんに怒ってくるかも」と笑いながら続けられました。

翌日、契約に向けて詳細を詰めたいとの話を頂きました。あらためて、「おやっと思ったら、最後に確認するのは現場だ」と、どこかの刑事ドラマのようなセリフが頭の中に浮かんできました。

※耶律楚材(ヤリツソザイ)
27歳でチンギス・ハンの宰相となり、30余年、モンゴル帝国の群臣を仕切り
「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」という言葉を残した。

次回は6月18日(月)更新予定です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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