第6回 手段が、目的化してしまう「効率性」の落とし穴 

営業や業務の効率化、生産性を高めるためには、どうすれば良いか?
営業生産性は、営業のスキルアップが基本ですが、飛躍的に生産性を上げようとするには、もし、目の前にITシステムがあって、それが例えば、従来1人で100件の得意先を管理していた状況が、「200件の得意先を、100件の時と同一のサービス品質」以上で提供できれば、売上は2倍に行かなくても1.5倍くらいになるでしょう。

あとは、「100件→200件」にしてもサービス品質が落ちない。むしろ向上していると思って頂けるようなシステムを考えるだけです。

もちろん簡単ではありませんが、昨今の、通販事業を行っている企業での「お客様戦略」では、より細かな分析データに基づいてお客様の嗜好分析をしたケアをしている傾向にあり、この辺りに通じます。

更には、今まで自分達がしていたことを、お客様にしていただくことで生産性を上げることも可能です。ハンバーガー屋さんでは、自分でトレーを持って行く。保険や、旅行の申込書をインターネットでお客様が自ら入力する。などなど、既に、お客様への利便性や、提供価格の改善と、自社の生産性向上を狙った、既存のビジネスモデルが目の前にあります。そして、こういう細かな点にまで気を配った「効率化」を育てているか、いないかが、企業の成長戦略に繋がっていくわけです。
ただし・・・

ある旅行会社が、急成長をしていました。既に、外資メーカーからシステムが導入されていましたが、勘定系のシステムのみで、予約管理システムは、紙で書いたものをバッチで入力する仕組み。このままでは業容拡大する度に営業人員も増えますが、同時に経費も増える構造であり、なかなか解決しません。

確かに送客数が上がれば、仕入れ交渉は、「柔軟」に対応できるようになります。しかし、いくら勘定系をシステム化していても、予約の受付以降がシステム化されていない、紙ベースでの管理の為、売上が上がれば、一定の要員増は避けられませんでした。売り上げが伸びてバックヤードの処理が大きなコスト負担になってきた段階で、いよいよ、旅行カウンター営業の生産性を考えなければいけなくなりました。

そのキーポイントは、ブッキングカード(予約カード)を無くしたシステム化=ペーパーレスシステムでした。一言で、紙を無くすと言っても、紙の有用性はいくつもあります。紙で書くことは、記憶に残り易い。文字を大きくしたり小さくしたりするので、当然(画面上の)制約を受けない。間違ったら、もしくは変更した場合は、上書きすれば、変更前の記述も、上書きの車線部分の文字で見ることができる。ポストイットをうまく使うことで備忘録にも、即席のリマークスにもなります。特別な手配は、クリップや、ステープラーでカードにくっつけることも簡単・・・などです。

一方で、もし、これらをシステム上設計することは、かなり面倒です。そして一番は、従来は「一枚の旅行予約カード」が、画面だと、2面、3面、4面の入力画面に増えていくことです。人の目は一枚のカードから多くの情報を吸収します。そしてそれは、経験で高められるのです。

しかし、3~4面の画面を見てると、画面設計をシンプルに、インデックスの張り方にも工夫を凝らし、ポストイットの代わりになる、赤や黄色のタブ、下の画面には、予約の何が終わっていないかのチェック項目がブリンキングする、画像情報もシームレスに連携・・・といった具合に、テストプログラムを使って作成した入力画面を、何度も操作性を高める為、変更を繰り返します。

そしてようやく高度に完成されたペーパーレス管理の予約システムが完成。カウンターのメンバーには予想以上の評価と効果を発揮。プログラムの設計に試行錯誤はありましたが、完全なペーパーレス化は、その企業を後押ししました。

あるリサーチ会社の報告ですと、@送客数が、ライバル企業に比べ1.3倍以上とのレポートも上がっています。間違いなく、ITシステムがお客様の営業生産性をアップさせた瞬間でした。

その後は、ペーパーレス化をしたことで、社内業務が、効率化を求めて分業化され、カウンターは予約を受けることで、いかに、たくさんのお客様を効率良く獲得するか?仕入れ担当は、交通機関や、宿泊施設に対して、実績数字を背景に安く買い叩くか?
・・・さらに、ペーパーレス化は、その日のうちに、その日の受注、売上が、個人別に詳細に分かることもあって、マネジメントのスタイルも変わりました。分業化、生産性向上で、社内の管理体制、風土が大きく変化しましたが、売上も大きく伸びました。

そんなある日、社長に呼ばれました。
「当社の旅行に行かれたお客様のアンケート結果が、手は打つものの次第に評価が下がっている。その原因は、分業化が進み過ぎてセクショナリズムが強くなってしまったことがあると思う。これは、構造的問題だ、学生時代に、旅行が好きで始めた会社だったけど、拡大する度に、『思い』が、『重い』に変わっていった感じがする。お客様と一緒に、旅行で得られる喜び、感動を共有したいという、再度、原点に戻って、予約から送客、そして、旅行後のフォローまで、一人で対応させる仕組みに戻したい・・・」
との相談でした。

ITによる効率化は、良い部分もありますが、一方で厳しい落とし穴もあります。@生産性を上げることは、ITの得意技ですが、大切なことは「手段が目的」にならないようにすることです。このコラムで書くことが、すべて成功譚(たん)の話であっては、「?」との思いから、少し苦い思い出を書いてみました。

次回は5月14日(月)の更新予定です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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