第18回 机の上の書類をなくすシステム

「大塚ナビィ君! 進化の反対は何か知っているかい?」と社長。「うーん! 退化ですか? 」と僕。
すると、いたずらっぽく笑いながら、「停滞だよ! 停滞! ・・・海の奥底に住む深海魚の目がなくなったからといって進化の反対って言わないでしょ。つまり、企業はいつもイノベーションしていかないと成長(進化)しないってことだよ・・・だから、今回のシステムを検討する!」

古くから、輸入雑貨を卸しているその企業は、その当時の急激な円高で為替利益が予想以上に伸びたため、その利益の一部で新しいシステムに刷新しようとのお話でした。システム刷新に対する社長のテーマは「営業の生産性を上げるシステム」です。

営業の生産性を上げると言われても、SFA(セールス・フォース・オートメーション)の仕組みの導入といった提案では、社長を説得する材料にはならないような気がしました。
競合他社の情報を入手すると、「基幹系とSFAシステムの融合、一気通貫のシステムで社内の見える化を図る」と、真っ正面からの提案です。確かに、直球提案にも説得力があるなあとも思います。

そのお客様は、基幹系はA社、ネットワークインフラはB社、情報系は当社。と切り分けておられました。
社長からは「今まで、システム採用のマルチベンダー化は企業としての当然のリスク管理として考えていました。しかし、今回はシステムを一本化したい。それだけに気合いを入れて頑張ってくれよ! 」と。
各社にとっては、「オールorゼロ」の厳しいビジネスが予想されます。しかも、RFPを見ると確かに多様な業務が複雑に絡み合い、各々の業務に対応していて・・・長い歴史もあって大変そうです。

そこで、RFPを読んだ後にSEと一緒にお客様の仕事環境を見せてほしいとお願いをしました。
各部署にお伺いして、仕事の邪魔にならないように営業、業務、倉庫・・・と一通り回って、提案書作成に入りました。
提案コンセプトは、SEと決めた「業務のシンプル化」。具体的には「机の上の書類をなくすシステム」という提案にしました。

現場を見ると、どこのセクションでも働く社員の方の机の上に書類ボックスがあり、参照するファイルが何冊も置かれています。時間がない中なので詳細な分析はできませんでしたが、「実は、90%以上のデータはシステムの中に入っているんです。ただ、長年の習慣でどうしても『現物(書類)』を見ちゃうんですよ」との話でした。
営業もまた、雑貨卸だけあって扱う商品点数も多いせいかセールスバッグの中はカタログで一杯でした。

さあ、いよいよプレゼンがスタートです。
「弊社の提案は、社長からのご要望いただいた、『営業の生産性向上』に直接目を向けたものではありません。SEとお伺いし、御社のオフィス環境の中での書類の多さに驚かされ、決めたコンセプトは『書類をなくす』ということにしました。書類が少なくなってくれば、それだけでも業務生産性が上がると思います。業務生産性が向上すれば、営業が日常的に業務担当者に聞いている、納期、進捗、売掛、与信、未回収といった情報への業務サイドのレスポンスが向上するのではないか?
営業は、カタログをタブレットPCに詰め込んでしまえば、カバンもフットワークも軽くなり、活動量が増えるだろうと考えました・・・ゆるい提案のように見えるかもしれませんが、机の上に書類がなくなる風景を想像してください。書類をなくすために努力している社員の方々との打ち合わせを想像してください。『営業生産性を上げる』というテーマより、『机の上から書類をなくす』というテーマの方が、明快でシンプルなテーマであり、全員が同じベクトルで進められますので、効果が上がるのではと思いました」・・・と、話しを切り出し、様々な具体的提案に入っていきました。

うーん、社長は苦虫を潰(つぶ)した顔です。もちろん、イメージが違っていたからだと思います。やっぱり、厳しかったのか?

翌朝、そのお客様の専務からお電話を頂きました。
「選考会議では、競合先であるA社の提案がしっかりと全体をグリップしており現実性があるということで多数だったのですが、社長が、『成功するかどうか、多少リスクが感じられるけれど、皆の机がきれいになるところを、俺は見てみたい』と、大塚商会さんの提案を強く押されましてね。大塚ナビィさんもご存知のように、社長は言い出したら聞かないので・・・そのまま、御社に決定しました。」と、専務は電話口で楽しんでいる風でもありました。

「社長が強引に押し切っての選定ですし、失敗は許されません。絶対に成功させてほしいんです。たぶん、社長は大塚ナビィさんには、こんな話しはせず、いつものように軽い感じで電話されるでしょうが、僕としてはこの経緯をぜひ知っておいてほしかった。絶対に一緒に成功させましょう」

専務との電話が終わるやいなや、社長から電話が、「僕の意向を無視した、ピント外れの提案だったけれど大塚商会さんに決まったよ、後はよろしくね・・・頼むよ~」と。電話口の社長は、専務の想像以上(?)に軽い声でした。

このシステムは成功したか否か?・・・現場での業務(営業事務も含む)効率化は、圧倒的に改善されました。
投資対効果はそこで十二分に吸収されましたが、「営業の生産性向上」は多少のアップ効果にとどまりました。長年の商慣習を切り替える試みがうまく機能しなかったからです。

しかし、社長は「ほら見て、ウチのオフィスがきれいになったでしょ。『机の上に物を置かない』を徹底させているんだ・・・」と、取引先や銀行が来るたびに、そこをPRしていて満足されているようです。
そしてお会いすると、「次こそ、パーヘッドの営業生産性を上げる仕組みをやろうよ・・・」でした。

次回は8月20日(月)の更新予定です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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