高難度の機械加工に裏打ちされた技術力で欧米主導の成長分野を切り拓く

2014年1月取材

航空・宇宙産業に技術を集約 正確な原価計算で多品種・小ロット対応の生産体制を構築

米国メーカーと交渉を重ね商社を介さない直接取引を実現

御社は、航空・宇宙の分野が売上の8割を占めています。どのようにして現在の経営基盤を構築していったのですか。

アメリカの航空部品メーカーと直接取引するとともに、自社工場の生産体制を変えていったのです。

以前は、自動車や重工業メーカー向けの産業機器を多く手がけていたのですが、リーマン・ショックの影響により取引数が激減。売上はピーク時に比べて3分の1にまで落ち込みました。悩みぬいた結果、航空・宇宙分野を強化することにしたのです。

じつは創業当時から駐留軍とのつながりで航空部品の切削加工は行っており、国産初の人工衛星「おおすみ」や、近年では「はやぶさ」の部品製作に携わるなど、開拓は行っていたんです。ただ、民間航空機の場合、車のように量産されるわけではなく、日本でも1・2兆円くらいの市場規模しかない。その一方、アメリカやヨーロッパを中心とした世界規模なら50兆円で、今後も成長が望めると思いました。

しかし、日本の中小企業が世界と直接戦うには問題があったのです。

問題とはなんでしょうか。

例えばアメリカの航空機の部品設計を行うためには、米連邦航空局(FAA)の認証が必要なんです。正規の部品と遜色ないと認められなければ、航空機に搭載はできない。製造することは、世界中どこでもできます。しかし、日本の中小企業が航空機部品をつくれるということは世界に知られていないし、言葉の壁もある。だから新規参入は容易ではありません。

一方で、勝算はありました。日本の中小企業の技術レベルは、欧米諸国の企業に決して負けないからです。特に当社は、高性能のマシニングセンターによる同時5軸加工など高難度・高品質の切削加工が得意。付加価値の高い技術力を提供すれば、必ず受け入れられると思いました。

高精度の機械と熟練工との融合により、高品質部品を安定的に製造

具体的に、どんな方策を行ったのですか。

技術は目に見えないものなので、お客様に伝えづらい。そこで企業ごとに部品のサンプルをつくり、持参して「こういうのが、この期間でつくれます」と提案しました。海外の航空ショーにも出展してPR活動にも力を入れるようにし、さらに私自身、アメリカ航空法に基づく規格や仕様をおよそ3年かけて学びました。

こうした地道な努力が実を結び、アメリカの航空部品メーカーとの直接取引を実現しました。日本で直接取引しているのはごく一部の日系中小企業と大手メーカーだけなので、これは自慢してもいいと思います(笑)。

ラインと人材を柔軟に変動し「品質」と「スピード」を追求

工場の生産体制はどのように変えていったのでしょうか。

量産型から、多品種・小ロットに対応する生産体制に変更しました。ある程度の技術力で数をこなすのは、新興国の工場でもできてしまう。そのため、小ロットでつねに設計変更が求められるものや、複雑な部品加工をあえて受注しているのです。

結果、求められたのは「品質」と「スピード」でした。しかし、多品種・小ロットだけに特化すると、利益率も利益額も低くなる。だから、量産型も捨てるわけにはいかない。そこで、二つの生産体制を整えることにしました。

具体的に教えてください。

24時間稼働する工場で、昼間は付加価値の高い加工を行い、日替わりで生産ラインを変更できる体制をつくる。そして、夜間は比較的量産が可能な部品加工を実施。技術者の数を最低限におさえ、コストや作業効率、利益率などのバランスをとることに注力しました。

最初のころは手こずりましたし、納期までの時間がなくて追いこまれることも。しかし、新たなCAD・CAMの設備や完成品をすばやく計測するシステムなど、品質とスピードの両方を手に入れるための仕組みを一つひとつ整備したのです。

また、大塚商会から導入した生産管理システムも役立ちました。以前の生産管理体制は、現場が経験に基づいた感覚で行っていました。しかし導入後は、システムからアウトプットされるデータによって原価を正確に把握。その数値をもとにどの製品に注力すべきか、経営方針を定められるようになりました。

工作機械25台が24時間フル稼動している自社工場

「ジャパン・クオリティ」を世界に伝えていきたい

今後のビジョンを聞かせてください。

これからも、航空・宇宙の分野で高付加価値をウリとして勝負していきたいですね。東京都の行政支援を受け、都内中小企業10社が連携して活動している技術者集合体「AMATERAS(アマテラス)」もその一環。板金、プレス、切断、レーザー加工から、表面処理、熱処理、組み立てまでをまとめて生産できる体制を整えているので、より高度な技術力を提供することが可能です。

また、いずれは高精度の部品ならなんでも積極的に挑戦し、「ジャパン・クオリティ」を世界に伝えていきたいです。

複雑かつ立体的な部品加工を得意としている。この技術力が「はやぶさ」「はやぶさ2」や航空機を支えている

【まとめ】 設立54年の塩野プレシジョン株式会社に学ぶ 経営改革5つのポイント!

技術力を“見える化”して新規顧客を開拓

高い技術力をアピールする「エンジニアリングセールス」を実行。顧客ごとに製品サンプルをつくり、技術力を見える化することで新たな受注を増やしていった。

高付加価値と量産の二軸体制を強化

24時間体制で稼働する工場で、昼間は熟練技術者が必要な高付加価値部品の加工に注力。夜間には少人数ですむ量産部品を扱い、工場の生産性向上に取り組んだ。

成長分野へと大きく方向転換

産業機械の部品加工から、航空・宇宙分野へとシフトチェンジ。米国の航空部品メーカーとの直接取引や、国産人工衛星「はやぶさ」「はやぶさ2」の部品加工を実現した。

技術の横のつながりを強化

技術者集合体「AMATERAS(アマテラス)」を結成。それぞれの中小企業が得意とする技術力を結集することで、競争力をつけた。

正確な生産管理体制を構築

大塚商会から生産管理システムを導入。原価を正確に把握したうえで、適切な生産計画を立てられるように。

インタビュー企業 プロフィール

塩野プレシジョン株式会社

代表取締役 塩野 博万氏(しおの ひろかず)

1961年、東京都生まれ。工学院大学専門学校を卒業後、産業能率短期大学の経営者ニ世コースで経営について学ぶ。1983年、株式会社塩野製作所に入社。現場で18年間技術を磨いた後、2001年に専務取締役に就任する。3年後、代表を務める父親が病に倒れたことがきっかけで代表取締役に就任。その後、高い技術力をアピールする営業スタイルに方針を転換。さらに品質とスピードにこだわり、多品種・小ロットの生産体制を構築し、経営を軌道に乗せる。都内中小企業10社が連携し、一貫生産体制を構築している技術者集合体「AMATERAS(アマテラス)」の代表も務めている。

塩野プレシジョン株式会社
設立/1960年4月 資本金/3,500万円 従業員数/70名
事業内容/航空機用精密機械加工部品、宇宙開発関係、人工衛星搭載用機器、コンピューター機器用機械加工部品などの製造

塩野プレシジョン株式会社 Webサイト

[記事・写真提供/雑誌「経営者通信」]

* 2015年1月より「塩野製作所」から「塩野プレシジョン株式会社」に社名が変更されました。
 記事中の社名表記は、取材当時の社名である「株式会社塩野製作所」にて掲載しています。

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