AI・機械学習(マシンラーニング)で未来を当てる! ~予測は利益に直結する~

近年のコンピューター性能の飛躍的な向上によりAIテクノロジーが身近なものとなった今、AI以外にもBA(Business Analytics)や機械学習(マシンラーニング)、ディープラーニングという単語を耳にする機会も増えています。
しかし、これらがそれぞれどのようなもので、またビジネスに利用するための手順や活用方法などを正しく知る人は少ないようです。そこで今回はこれらを活用したデータ分析によって、ビジネスにどのようなメリットが生まれるのか、また正しく活用するにはどのような理解や手順が必要なのかを、大塚商会でデータ集計・分析製品を専門に担当する技術士(情報工学)の丸野勝明に聞きました。

プロフィール

丸野 勝明(株式会社大塚商会 マーケティング本部 共通基盤ハード・ソフトプロモーション部 BI / BA担当 シニアアプリケーションスペシャリスト)

  • * 肩書きは2019年12月時点のものであり、閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

精度の悪いデータからは、精度の悪い結果しか得られない!

精度の高いデータ分析には、明確な目的設定と正しいデータの蓄積が欠かせません。「何を当てたいのか(目的)」の設定とデータ蓄積のポイントについてご紹介します。

データ分析で何を当てたいのか?

AIを活用したデータ分析でどんな未来が分かりますか?

丸野:例えば、未来の売り上げや来客数が分かっていれば、適切な発注量や要員のシフトを決めることができます。どの商品をどの顧客が購入するか予測できれば、営業コストを抑えた効率的な活動ができるのはもちろん、受け身・待ちの姿勢から提案型・プッシュ型営業への転換も可能になります。予測は利益に直結します。

では未来を当てるために大切なことは何でしょうか

丸野:それは、目的を明確にすることです。企業の目的にもいろいろありますので、ここでは事業の成長にフォーカスしてみましょう。その目的を実現するための具体的な手段として目標が設定されます。そしてその目標も「売り上げを伸ばす・利益を増やす」といった漠然としたものではなく、従業員がコントロールできる目標を設定することが大切です。目標設定の本質は従業員にあるべき行動を取らせることなのですから、具体的な行動につながらない目標には意味がありません。

目標設定の具体的な実例を教えてください

丸野:例えば、利益目標を例に考えてみます。お客様と一度だけの取引で終わってしまったら利益が出せません。そこで、長期的に継続的なご愛顧いただくことで利益を増やせるはずだ、という仮説に基づき「リピート率」という指標が考えられたとします。それでもまだ現場の人には具体的に何をすればいいのか分からない指標です。そこで「クレーム件数」を減らすことが「リピート率」向上につながるのでは、という仮説を考えたとします。ではどうすれば「クレーム件数」を減らせるのかを考えます。納期クレームが多いなら「リードタイム」短縮の指標が考えられますし、品質クレームが多いなら「不良品率」という指標が考えられます。
このような仮説に基づき現場でコントロールできる具体的な数値を目標にしていくことが目的の明確化であり、何を当てたいのか? と同義です。つまりKPI(Key Performance Indicator)を定義して、それを達成するためのプロセス(戦略マップ)を明確にすることがとても大切です。KPIは数値で表せるものです。そして、その仮説が本当に因果関係があるのかが検証されます。仮説が疑わしい場合は、戦略マップを見直します。広い意味では「PDCAのサイクルを回す」ということと同じですし、管理会計も同様の性質を持っています。これらに統計学的な根拠が加われば、それはもう立派なBA(Business Analytics)です。

データ分析には専用のシステムが必要ですか?

丸野:データ分析はExcelのデータ分析機能でも、ある程度は可能です。また基幹業務システム(ERP)の分析機能、当社の「SMILE」シリーズにはオプションで簡易BI機能がありますが、こうした機能の活用でもある程度の分析を行うことはできます。後述するBIツールや機械学習(マシンラーニング)を活用することで、大量のデータからさまざまな科学的な手法で効率的に分析・予測を行うことが可能となります。
BIとは「Business Intelligence(ビジネスインテリジェンス)」の略で、企業に蓄積された大量のデータを集めて分析して、迅速な意思決定を支援するツールです。

コラム

機械学習とディープラーニング

そのデータは使えません!

データ分析の根拠となるデータ収集のポイントとは?

丸野:まず大切なのはデータが正確であること、そして鮮度があるということです。例えば顧客データを集める際に、性別が抜けていたとか、生年月日の記入ミスであり得ない年齢になっていたということがあります。また結婚や転居などで居住地や家族構成が変わる場合もあります。
そして、もう一つ大切なことは、全社で統一されたルールに基づいてデータの収集・蓄積を行うということです。マスターのコード体系を整備して、定期的に更新・管理していくことがとても重要です。
「精度の悪いデータからは、精度の悪い結果しか得られない!」ということを常に念頭に置いてデータの収集・蓄積を行ってください。

企業の成長に合わせた業務基盤の整備と、情報系・分析系システム基盤の両立

予測分析に必要なデータを蓄積するためには、ベースとなるしっかりとした業務基盤が不可欠。基幹業務システムと分析系システムの概要と導入について解説します。

基幹業務システム(ERP)でしっかりとデータを管理する

データの蓄積や管理におけるシステム活用について

丸野:まずは、現在使用している部門システムや業務システムに、前述したように統一ルールに基づいたデータをしっかりと入れていくことが大切です。ここで重要なことは、単に現状の業務が回ればよいという考え方ではなく、後で可視化や分析を行うことを考えてデータを入力するということです。
また、既にERPが導入されている場合は、そのERPにデータを集約します。実店舗やECなどERPとは別に集計されているデータがあれば、システム連携などを活用してERPに集約することができます。こうしてさまざまなデータをERPに集約することで、いろいろなものが見えてきます。部門システムや業務システムを更新するタイミングなどあれば、ERPの導入をお勧めします。

ERPのデータから何が見えてきますか?

丸野:通常の会社では、月次の会計データがベースの数字となりますが、それは先月のデータを見ているわけですから過去の数字です。この会計データをベースに日次の売り上げデータを重ねれば、日割りで現在の進捗を追うことができます。さらに受注データは、近いうちに売り上げとなるので未来のデータですし、見積りデータや見込み案件データは将来、受注データに変わる可能性がある、もっと未来のデータとなります。
このようにERPに蓄積されたデータを使って現在のビジネス状況をタイムリーに把握できれば、常に一手先の手を打つことができます。見通しの精度が向上すれば、さまざまなロスを減らせるのは自明です。経営数値を早く正確に把握できることは、会社の利益に直結するのです。

ERPでデータ分析はできますか?

丸野:ERPが標準で備える帳票出力機能でデータを整理して見ることは可能です。大塚商会の基幹業務システム「SMILE」シリーズにはオプションで簡易BI機能があり、さまざまな条件で並び替えや集計、出力などでデータ分析やグラフ出力が行えます。また「開発ツール(Custom AP Builder)」を利用して開発を行うことで、自社に合わせた分析レポート機能などのアドオン開発工数を最小限に抑えることも可能です。
ERPを活用し、各種情報系システムとデータ連携を行い、データを集約して分析することでビジネスの現状を可視化することができます。そして、その可視化から「なぜ? もしかして?」という気づきも生まれてくるはずです。

BIツールで数値に基づく意思決定

データ分析に適したツールにはどんなものがありますか?

丸野:ERPでしっかりとしたデータ管理を始めると、さまざまな気づきと共に「もしかして、こうなんじゃないか?」「これが原因じゃないか?」といった仮説が見えてきます。その仮説の検証には、管理しているデータをいろいろな視点/切り口で分析する必要があります。ERPに用意されている機能である程度まで行える場合もありますが、データ量が膨大であったり、ERP側にはないデータと突き合わせて分析したいといった場合にはBIツールの活用が有効です。

AI・機械学習(マシンラーニング)が未来を予測

機械学習とはどのようなものですか?

丸野:機械学習は、大量のデータから科学的な手法を使ってルール・法則を導き出します。ルール・法則を取り出すことができるから、未来を予測することができるのです。例えば、来週の売り上げを予測する式、顧客が離反する前兆、一緒によく売れる商品の組み合わせ、特定の商品を買う顧客の特徴などをデジタルデータとして取り出すことができます。こうしたルールや法則が分かっていれば、科学的な根拠に基づいた能動的な営業活動も可能になるでしょう。従前はデータマイニングと呼ばれていて、とても難しいものだと考えられていました。実は今も、ツールの性質は昔とあまり変わっていないのですが、使う人の能力が向上しています。AIブームのおかげで自発的にプログラミングや統計学の勉強をする人が、周囲でも明らかに増えたと実感しています。機械学習をうまく使って成果につなげられる企業とそうでない企業とでは、この先大きな差が出てくるかもしれません。

機械学習とBIの違いはどのようなものですか?

丸野:BIツールは、データの「見える化」を目的としたツールです。簡単な操作で抽出条件や分析軸を切り替えることができます。誰にでも利用しやすい操作性でドリルダウンやダッシュボードといったエンドユーザー向けの機能が充実しています。
一方で機械学習ツールは、予測に必要なルール・法則を取り出すことが目的のツールです。これを使うにはある程度の専門知識が必要になります。取り出したルール・法則は数式やプログラムのような形をしていますので、エンドユーザーに展開するために、BIツールやほかのシステムに組み込んで利用されます。

画面拡大画像(JPG)[165KB]

(参考)目的の違い

未来を予測するためのポイントは?

丸野:「目的を明確にすること」です。ここで大事なことは、「目的を達成するための手段が、いつの間にか目的に変わっていてはいけない」ということです。目標管理とか戦略マップなどは形骸化しがちです。AIだって目的達成のための手段に過ぎないのに、なぜかAIを使うこと自体が目的になっていることが多々あります。
さて、目的が明確になっていれば、何を当てたいかも明確なはずです。しかし、過去や現在すらタイムリーに可視化できない状態で、未来を予測することはとても無理です。まずはきちんとしたデータを蓄積して現在の事実を可視化していきます。そのためには、ERPなどでしっかりとデータを管理することが大切です。ERPを活用することで業務のムダがなくなり、またデータが貯まってくれば、その蓄積されたデータを活用しようとBIや機械学習に取り組んでみようという動きも出てくるでしょう。

システム導入のロードマップは?

丸野:データの蓄積・分析・予測を実現していくために大切なことは、企業の成長シナリオに合わせて、増大する業務量に耐えられるしっかりとした業務基盤と、それに見合った情報系・分析系システム基盤を、両輪で整備していくということです。
先に述べた「目的の明確化」「コード体系の整備」および「ルールの標準化」が重要なのは、何も予測分析に限ったことではありません。生産性の向上や業務の効率化であっても基本は全く同じであり、それらがビジネスの成長を支えるIT基盤の根幹だからです。形だけあっても血液が流れないのでは生きていないのと同じで、単に製品だけ購入すればよいというものではありません。システムの持てる能力を存分に活用するためには、豊富なノウハウと親身で熱意あるサポートが不可欠です。
大塚商会では、複数メーカーの製品・サービスの取り扱いがあり、それぞれの詳細な機能やサービスを網羅した専門のスタッフが、お客様の業態や成長に合わせてベストなご提案します。どうぞお気軽にお問い合わせいただければと思います。