文書作成に特化した専用機、日本語ワープロがもたらしたもの(後編)

日本語ワープロの低価格化はさらに進み、個人でも手が届くところまで安くなりました。同時に本体の小型化が進み、小型液晶ディスプレイを搭載した「ラップトップ型」まで登場しました。しかし、21世紀を前にしてワープロ専用機は姿を消すこととなります。

[2017年 1月18日公開]

「オフィスで使うもの」から「個人も使えるもの」に

1980年代中ごろになると、ワープロ専用機の小型化と低価格化がさらに進みました。その結果、オフィスで使うものだったワープロ専用機が、個人の手に届くものになりました。NEC パートナーズプラットフォーム事業部 エグゼクティブ エキスパート 星野誠氏(写真1)はワープロ専用機を購入した個人ユーザーについて「主に学校の先生、各種団体の事務局、個人事業主、趣味で文筆活動をする個人などに広がりました」と話します。

(写真1)NEC パートナーズプラットフォーム事業部 エグゼクティブ エキスパート 星野誠氏 *内容は取材当時のもの(写真:加山恵美)

この頃になると東芝やシャープの液晶ラップトップ(卓上薄型)タイプも出回るようになりました。NECは小型卓上ワープロ「文豪mini」シリーズ(写真2)を販売していました。

(写真2)1985年発売の「文豪mini5」。小型液晶ディスプレイを搭載し、充電池を内蔵しており、自由に持ち運んで使うことができた。本体価格は10万円を切り、家庭向けに好評を得た(提供:NEC)

「文豪mini」は本体を机の上に設置できる「デスクトップ型」で、熱転写プリンターと一体化したものでした。取っ手があるため、持ち運びも可能。フロッピーディスクドライブは3.5インチとなり、ディスプレイは白地の背景へと変化していきました。

こうして、ワープロ専用機は企業だけでなく個人にまで広く普及しました。しかし、星野さんの脳裏には気になる言葉が焼き付いていたと言います。NECに入社して間もない、まだ若い星野さんに、ある先輩がこんなことを言ったそうです。

「いずれユーザーは日本語ワープロから離れ、パソコンを使うようになる。先は長くない」。

NECは国内トップのパソコンメーカーだったので、先輩はそう言葉をかけたのでしょう。そして、後に説明しますが、この言葉は現実のものになります。

しかし、ワープロ専用機は決して一過性の製品ではなかったと、星野さんは考えています。「当時の市場では専用機の使い勝手が高く評価されており、まだパソコンを使いこなせない人には日本語ワープロはいいスタート地点でした」(星野氏)。

80年代、まだコンピューターは身近ではなく、ローマ字入力の方法すら知らない人も少なくありませんでした。パソコンに日本語ワープロソフトをインストールして使うなんて、初心者にしてみれば到底自力でできるものではなかったのです。その点、ワープロ専用機は電源を入れればすぐに文字入力を始められるので、簡単かつ気軽に使えたわけです。

そして、日本語ワープロが残した大きな財産の一つに、独自キーボードがあります。特に有名な富士通の「親指シフト」ならご存じの方も多いかと思います。親指シフトキーボードは文字配列が独特で、パソコンのスペースキーに当たる部分に親指シフトキーが二つ並んでいます。キーを単体で打鍵するか、左右いずれかの親指シフトキーと同時打鍵することで高い入力効率を実現できていました。

親指シフトの人気をNECは傍観しませんでした。「親指シフトに続け」と「M式キーボード」(写真3)を考案したのです。左手側に子音、右手側に母音を配置することで、通常のJIS式キーボードよりも速く入力でき、疲労を軽減できるとされていました。しかし独特の子音と母音の分解法をマスターする必要があり、この分解法に慣れるまでに長い時間がかかることが難点でした。またパソコン普及という向かい風が吹き始めると、独自キーボードは敬遠されるようになりました。

(写真3)NECの「M式キーボード」。これを搭載した初めてのワープロ専用機は1984年発売の「PWP-100」(提供:NEC)

最終的にはどのメーカーも2000年になる手前で日本語ワープロの新製品を発売しなくなりました。星野氏の先輩が予測した通り、ユーザーはパソコンを選ぶようになり日本語ワープロは姿を消したのです。しかしオフィスで(専門職ではない人が、手書きではなく)活字の文書を作成するのが常識となり、生産性向上を実現させ、その先のパソコンへの足がかりとなるなど、日本語ワープロは重要な役割を果たしたのです。

執筆:加山恵美(フリーランスライター)
編集・文責:株式会社インプレス

いまどきのIT活用のおすすめ記事

まずはお気軽にご相談ください。

製品の選定やお見積りなど、100万社ものお客様に支えられた多数の実績でお客様のお悩みにお応えします。まずはお気軽にご相談ください。

お電話でのお問い合わせ

【総合受付窓口】
大塚商会 インサイドビジネスセンター

0120-579-215(平日 9:00~17:30)

Webでのお問い合わせ

お問い合わせ

*メールでの連絡をご希望の方も、お問い合わせボタンをご利用ください。

ページID:00132382