「コンピューターを持ち運び可能に! ノートパソコンがもたらした革命」(前編)

かつてのコンピューターは大きなもので、使用するには人間がコンピューターのある場所に移動しなければなりませんでした。世界で初めてコンピューターを卓上から切り離し、持ち運べるようにしたのが、東芝が1985年に発表した「ラップトップパソコン」です。しかしこれも重さが4~5 kgと、気軽に持ち運べるものではありませんでした。そこで4年後の1989年、東芝は革新的な製品を発表します。

[2017年 1月25日公開]

コンピューターを持ち運ぶ時代がやってきた!

東芝が世界初のラップトップパソコン「T1100」を欧州で発売したのは1985年のことでした。東芝クライアントソリューション 国内事業統括部 国内B2C営業本部 B2Cマーケティング部 部長の荻野孝広氏(写真1)はこう語ります。「それまでは人間がコンピューターのある部屋に行かなくてはなりませんでした。ラップトップパソコンによって、人間にパソコンが付いてきて、使いたいときに使えるようになりました。パソコンを卓上から開放したのです」。

(写真1)東芝クライアントソリューション 国内事業統括部 国内B2C営業本部 B2Cマーケティング部 部長の荻野孝広氏。氏が抱えているのはAlan Kay氏のサインが入った初代DynaBook *内容は取材当時のもの(写真:加山恵美)

持ち運べることをうたったラップトップパソコン「T1100」でしたが、本体重量は4~5 kg。オフィスの隣の部屋など、近距離の持ち運びならともかく、通勤カバンに入れてどこにでも持ち運べるというものではありませんでした。

そこで1989年、東芝はPC/ATアーキテクチャを採用した世界初のノートパソコン「J-3100SS001」(写真2)を世に送り出します。今となってはおなじみの「DynaBook」ブランドの始まりが、この製品です。

(写真2)世界初のノートパソコン「DynaBook J-3100SS001」。奥に見えるベージュのモデルは海外向け(写真:加山恵美)

「DynaBook」というブランド名は、ゼロックス社パロアルト研究所に在籍していたAlan Kay氏が、1970年代に提唱した「Dynabook構想」に由来するものです。Kay氏はこの構想で「パーソナルコンピューター」の概念を打ち出しました。当時、コンピューターは大きく、複数の人間で共有するものでしたが、Kay氏は真に個人向けのコンピューターを構想しました。持ち運びができて、文字のほかにも映像や音声も扱える小型のコンピューターです。そしてKay氏は、このコンピューターを使うことで、人間は自身の思考能力を高めることができると考えました。

DynaBookは初代の「J-3100SS001」から既に、必要なものが全て詰まった「オールインワン」でした。液晶ディスプレイ、キーボード、フロッピーディスクドライブ、バッテリー、モデムなど、コンピューターとして使うために必要なものを全て搭載して、本体重量は約2.7 kg。真の意味で持ち運びが可能なコンピューターの時代の幕を、この機種が開けたのです。

当時はハイテク機械部品において、数々の技術的躍進(ブレイクスルー)が同時並行的に起きており、ノートパソコンに関する最大のブレイクスルーは小型化でした。荻野氏は「A4ファイルサイズに全て収まるように、キーボードやフロッピーディスクドライブなど、各種部品メーカーと調整を重ね、ようやくこのサイズが実現しました」と述懐します。

初代DynaBookで大きな反響を得た東芝は、1992年に「DynaBook EZ」(写真3)を発表します。当時のパソコンではフロッピーディスクからソフトウェアを起動するのが普通でしたが、この製品ではOSやワープロ、表計算ソフトウェアをROM(Read Only Memory:一度書き込んだ内容を書き換えることは不可能で、読み出しのみが可能な高速メモリー)に書き込んで出荷しました。現在、当たり前になっている「プリインストール」を実現したわけです。

(写真3)「DynaBook EZ」。1992年にワープロと表計算をプリインストールして24万8000円という価格を実現した

DynaBook EZは、電源を入れるとすぐにROMの中身を読み出します。ROMの読み出し速度はフロッピーディスクとは比べ物にならないくらい速いので、ユーザーは電源を入れたらOSだけでなく、ワープロや表計算もすぐに使えるように感じたことでしょう。起動画面は、当時のワープロ専用機のように、ソフトウェアなどのアイコンを並べたものでした。カーソルキーでアイコンを選択して、ソフトウェアを起動するようになっていました。

DynaBookが登場した80年代末~90年代初め、まだソフトウェアは高価でした。ある表計算ソフトなどはサポート付きで9万8000円。ソフトウェアライセンスの高さが、パソコンを購入するときの高いハードルとなっていたのです。

そこで東芝はソフトウェアベンダーに掛け合い、パソコンにOS、ワープロソフトウェア、表計算ソフトウェアをプリインストールした状態で24万8000円という価格を実現しました。これは、当時としては考えられないほどの安さであり、DynaBook EZが持つ「大きな特徴」ともいえるものでした。

DynaBookという「パーソナルコンピューター」が登場したことにより、自分のパソコンで文書を作成するという行為が一般的なものになっていったのです。

初代DynaBook登場から90年代前半について、荻野氏はこう振り返ります。「パソコンというハードウェアのビジネスがソフトウェアのビジネスとエコシステムを築くようになった時代です。その結果、ハードウェアとソフトウェアの低価格化が進み始めました」。(中編に続く)

執筆:加山恵美(フリーランスライター)
編集・文責:株式会社インプレス

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