「全てはお客様の成功のために」激変を乗り越えて変わらず進化し続けるThinkPad(中編)

ThinkPadは進化の過程で革新的な技術をほかに先駆け、次々と実装し続けてきました。またThinkPadの強度と軽さを両立できたのはカーボンファイバー素材の採用が一因にあります。2000年以降は通信環境が変化し、人々のワークスタイルも変わってきました。

[2017年 4月 5日公開]

通信環境が変化する中、革新的な技術を先駆けて製品に実装

初期のThinkPadの中でも際立った特徴を持つ製品に、1995年の「ThinkPad 701シリーズ」(写真1)があります。液晶パネルを開くと、その動きに合わせるようにキーボードが展開して横に広がるという画期的な機構を搭載した製品です。このキーボードは「バタフライキーボード」と呼ばれ、大きな話題を呼びました(正式名称は“TrackWrite”)。その先進性とデザインは高く評価され、今ではニューヨーク近代美術館の永久所蔵品として展示されています。

(写真1)1995年発売の「ThinkPad 701シリーズ」。写真はThinkPad 701C。話題となった「バタフライキーボード」の機構の一部は最新製品も取り入れている

バタフライキーボードは多くのファンの注目を集めましたが、ThinkPad 701とともに姿を消しました。レノボ・ジャパン 取締役副社長 内藤在正氏(写真2)によるとバタフライキーボードは「10.4インチという小さなディスプレイを搭載したノートパソコンに、少しでも大きなキーボードを載せるために考えたもの」だとのこと。ノートパソコンの液晶ディスプレイが大きくなると、バタフライキーボードは必要なくなってしまったということです。

(写真2)レノボ・ジャパンの取締役副社長を務める内藤在正氏 *内容は取材当時のもの(写真:加山恵美)

しかし、バタフライキーボードの「遺産」は最新製品に見ることができます。「ThinkPad Yoga」は、液晶ディスプレイの裏側がキーボードの裏側にくっつくまで開くようになっています。これはディスプレイにペン入力するときの持ちやすさを考えてのことですが、ただ広く開くだけではありません。液晶ディスプレイを広く開いていくと、セパレート型キーボードの隙間を走っているプラスチックの板が上がっていき、キーボードのキーとほぼ同じ高さになります。こうすることで、抱えながらペン入力しているときにキーボードに手が掛かっても、誤入力が発生しないようにしているのです。

バタフライキーボードは、ThinkPadの「最先端を走るノートパソコン」というイメージを決定的なものにしました。しかし進化を追い求める過程では多くの課題もありました。印象深い課題の一つとして、内藤氏は熱対策を挙げます。デスクトップパソコンなら本体内に広い空間があり、ファンを取り付けることもできます。しかしノートパソコンではそうは行きません。あの薄い板状の本体内に必要な部品を所狭しと並べているので、放熱は簡単ではないのです。

加えて90年代はノートパソコンで最大の熱源となるCPUの消費電力量が倍々に増加し、それに伴い発熱量も上がっていきました(もちろん性能も伸びましたが)。内藤氏は「最初に『デスクトップのようにノートパソコンにもファンを入れるか!』と言っていたときは冗談だったんですけどね」と笑います。

ThinkPadの強度についても触れておきましょう。ThinkPadの軽さと強度を実現するために欠かせないものの一つに、ThinkPadの外装を覆うカーボンファイバー(CFRP:炭素繊維強化プラスチック)があります。内藤氏によるとThinkPadで使用しているカーボンファイバーは日本メーカーのもので、そのメーカーの最高級品だとのこと。ThinkPadのほかには、ゴルフクラブやアユ釣りのさおで使われているものです。世界にその名をとどろかせるThinkPadの軽さと強さは、日本で開発しているからこそもたらされたともいえますね。

ただしカーボンファイバーにも難点があります。金属と違い、炭素の繊維は無線の電波を通しにくいのです。そのためアンテナ周辺には電波を通すグラスファイバー(GFRP:ガラス繊維強化プラスチック)を配して、つなぎ目が目立たないように工夫しているそうです。

2000年を過ぎると、ノートパソコンを取り巻く環境は変わってきます。ADSLや光ファイバーなどの高速回線と無線LANがセットで普及してきたのです。ThinkPadはそうした時流も先回りして製品に実装していきました。

2000年には無線LAN通信機能を内蔵、2001年にはセキュリティチップを搭載、2003年にはハードディスクドライブを衝撃から保護するアクティブプロテクションシステムを採用、2004年には指紋認証装置を搭載するなど、ThinkPadが業界に先駆けて新技術を取り入れた例はいくつもあります。

通信環境の変化は人々の仕事のスタイルや時間の使い方を変えました。内藤氏はこう教えてくれました。「海外では残業せずオフィスから早く帰宅する人が多いのですが、それは夕食を家族と過ごすためです。怠け者ではないのですよ(笑)。団らん後の深夜、自宅から電話会議に参加したり、書類作成に精を出す人も珍しくありません。ノートパソコンが普及したからこそ時間を有効活用して、どこでも仕事をすることが可能になったのです。日本では仕事はオフィスでするものというイメージが強いのですが、育児中のテレワークなどでモバイルワークが注目されるようになりました」(後編に続く)

執筆:加山恵美(フリーランスライター)
編集・文責:株式会社インプレス

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