「全てはお客様の成功のために」激変を乗り越えて変わらず進化し続けるThinkPad(後編)

約10年前、ThinkPadを語るうえでとても大きな出来事がありました。IBMのPC部門を中国のレノボグループが買収し、ThinkPadがレノボの製品となったのです。買収直後は各所から懸念する声が上がりましたが、「ThinkPadらしさ」は変わることなく受け継がれています。

[2017年 4月12日公開]

「レノボのThinkPad」に変わっても「ThinkPadらしさ」は変わらない

2004年12月、衝撃的なニュースがIT業界を駆け巡りました。中国レノボグループがIBMのPC事業部を買収すると発表したのです。レノボ・ジャパン 取締役副社長 内藤在正氏(写真1)はそのニュースをアメリカで目にし、日本で動揺が広がっていることを案じて帰国しました。帰国すると社員たちに「これは悪いディールではないですよ」と懇々と諭したそうです。

(写真1)レノボ・ジャパンの取締役副社長を務める内藤在正氏 *内容は取材当時のもの(写真:加山恵美)

懸念の多くはThinkPadの強さや良さが消失するのでないかというものでした。中には失望を込めて「これからは全く異なるパソコンにThinkPadのシールが貼られてしまうのですね……」と内藤氏にこっそり尋ねた人もいました。

そうした疑念を払拭(ふっしょく)するため、内藤氏は「ThinkPadは変わりません」と訴え続けました。努力が実ったのは買収から3年後。「2008年ごろから『ThinkPadは本当に変わらなかったね』と言われるようになり、安心しました」と内藤氏は安堵(あんど)の表情を見せます。

実際に買収以降の3年間は「ThinkPadは変わらない」というイメージを定着させるため、大胆な変更を伴う製品発表を控えようとする雰囲気がレノボ社内にありました。「そうして我慢した後に、先進技術を思いきり盛り込んで出したのが『ThinkPad X300』(写真2)でした」(内藤氏)

(写真2)2008年発売の「ThinkPad X300」。当時の最新技術を投入した意欲作だった

ThinkPad X300は、2008年当時としては本体が薄くて軽かったのですが、驚くべきことにその薄い本体にDVDドライブを内蔵していました。DVDドライブは、当時はまだ珍しい7mm厚のものを採用していました。ほかにもThinkPadとしては初めて1.8インチ64GBのSSD(Solid State Drive)を搭載したり、液晶ディスプレイのバックライトも従来の冷陰極管からLEDに変えて消費電力を大幅に削減したりするなど、内藤氏が言うように技術的に大幅な進化を遂げた製品でした。

しかしX300は、ビジネス的には苦戦を強いられました。市場の評価は高かったものの、先端技術を盛り込んだ結果、高価になっていたのです。そして、同年に発生した金融危機「リーマンショック」が何よりも大きく影響しました。X300は商業的には成功しませんでしたが、その開発過程で得られた技術は後のThinkPadが受け継いでいます。

その後もThinkPadは革新的な技術を搭載し、進化を続けながら現在に至ります。ほとんどの機種にカーボンファイバーを用いて軽さと強度を実現しているのも大きな特徴です。余談ですが、2012年発売の「ThinkPad X1 Carbon」まで、カーボンを使っていることは特にアピールしていなかったそうです。「絶好のアピール材料になるのにもったいない」という声が上がり、X1 Carbonから製品名に「Carbon」が入るようになったとのこと。

そして、ThinkPadを語るうえで何よりも大切なことがあります。IBM時代から変わることなく脈々と受け継がれている哲学「お客様の成功のために」。製品を開発することがゴールではなく、買ってくれたお客様がThinkPadを使って成功を勝ち取ることがThinkPad開発メンバーのゴールだというわけです。誰かカリスマ的な経営者が提唱したわけではなく、自然と社風として根付いた考えだそうです。

2015年、レノボによるIBMのPC部門買収から10周年を迎えました。買収以前、レノボの市場シェアは2.3%で世界9位でしたが、2015年には20%で業界トップ(IDC調査より)になるほど成長しました。売り上げは10年前の13倍となる390億ドル。さらなる買収も続けて事業を拡大し、パソコンだけではなくタブレットやスマートフォンを発売するなど、「クラウド時代に最適な端末」(内藤氏)として躍進を続けています。

執筆:加山恵美(フリーランスライター)
編集・文責:株式会社インプレス

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