ITここに歴史あり

ITの歴史をそれぞれの製品やサービスごとに振り返ります。

国民機パソコン、その誕生から引退まで(後編)

Basicから、MS-DOS、そしてWindowsへの時代にまたがり、NECのPC-9800シリーズは日本人のための国民機にこだわり続けます。でも、そうはいっていられなくなる状況に陥ります。DOS/VとPC/AT互換機の登場は、98シリーズの将来に、大きな影響を与えることになるのです。

[2017年 5月10日公開]

Windowsの流れに飲み込まれて

1990年に、日本アイ・ビー・エムは「IBM DOS J4.0/V」をリリースします。当時、パソコン用の標準的なOSとして圧倒的なシェアを持っていたMS-DOSのIBM版ですが、PC/AT互換機とソフトウェアだけで日本語を扱えるようにすることができました。この製品の登場で、PC-9801 vs. DOS/V機という図式が現実的な解としてできあがり、寡占状態だったPC-9800シリーズにかげりが見えるまでになっていくのです。

世界標準だったPC/AT互換機は、1992年にコンパック日本法人が仕掛けた価格破壊の流れ「コンパックショック」を機に日本に浸透していきます。現在はHPに吸収されたコンパックが、当時、標準的な98シリーズの半額近い価格設定で日本に参入したのです。それまでも秋葉原では自作パソコンのメッカとしてさまざまなパーツが販売され、安くて高性能なDOS/Vパソコンは一種のブームを形成していました。

そして、パソコン用OSは、MS-DOSの時代からWindowsの時代に移ります。

1995年に発売されたWindows 95は、夢のような世界を人々にもたらすと話題になりました。販売店には、パソコンを持っていない人までがそのCDをほしいと詰めかけて店員を困らせたそうです。どうやら、音楽プレーヤーにそのCDをかければ幸せになれると信じているお客さんが後を絶たなかったようなのです。午前零時に開始される量販店頭での深夜販売が定着するようになったのもこの頃からです。

DOS/VとWindowsによって、アプリケーションソフトウェアの互換性という点では、ほとんど本体の設計を気にしなくてもよくなりました。NECは1992年の時点でPC-9821シリーズをリリースし、DOS/Vに対するハードウェアの優位性をアピールしていましたが、苦戦の時代が始まります。そして、1997年、15年間続いたPC-9800シリーズはPC/AT互換機としてのPC98-NXシリーズとして生まれ変わります。皮肉なことではありますが、当時、マイクロソフトやインテルがハードウェアデザインのガイドラインとして提唱していたPC97/98に最も準拠したシステムとしてのデビューでした。

(写真1)Windows時代の「98」、PC98-NXシリーズ

Windows 95登場のころから、世の中は、インターネットを暮らしや仕事を支えるインフラと見なすようになります。当然、パソコンも、一般電話回線につないで、音声とデジタル信号を相互変換しながらデータ通信をしていた時代から、ADSL、光ファイバーによる高速通信の時代に入っていきます。

1999年にはドコモがiモードサービスを開始、2001年にはFOMAによる3Gによってモバイルネットワークの高速通信の時代がやってきます。2000年にはカメラ付き携帯電話としてのシャープ「J-SH04」が発売され、15年以上たった今なお「写メ」を携帯電話で写真を撮って誰かに送ることの代名詞として定着させています。

パソコンで扱える情報の種類も、量も、質も、かつてとは比べものになりません。高山氏は98の全盛期、企業で情報処理部門を相手にしたビジネスを営業や管理部門に売り先を変えるという施策に打って出ました。そのことで、技術者ではなく一般の人がパソコンを使うようになったのです。そのためのキラーソフトがワープロソフトであり、一太郎だったのです。今、あなたのパソコンやスマートフォンで、最も頻繁に長い時間使うアプリは何でしょう。それはもしかしたら日本語入力そのものかもしれませんね。

(写真2)NEC元役員、高山 由さんが、パソコンを技術者のものから一般の人も使うように世の中を変えた *内容は取材当時のもの

NECブランドはその後、中国・レノボ傘下のNECパーソナルコンピュータ社として優れた製品をリリースし続けています。レノボはThinkPadを生んだIBMのパソコン部門を買収したことでも知られています。結果的に98シリーズの繁栄を打ち止めにした元IBMの一部門が、同じグループで切磋琢磨しつつ製品をリリースし続けています。この「昨日の敵は今日の友」ともいうべき経緯は、IT歴史物語の重要トピックとして語り継がれていくことでしょう。

執筆:山田祥平(フリーランスライター)
編集・文責:株式会社インプレス

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