時代はPostScriptからPDFへ

印刷と出版を変革したPostScript(後編)

日本語のPostScriptフォントが登場して、日本でもDTPが普及し始めました。しかし、使える漢字の数が少ないなど、課題も残っていました。今回は、その課題を解決するために登場した「InDesign」と「OpenTypeフォント」と、PostScriptの技術を受け継いだ次世代の技術について見ていきましょう。

[2016年11月15日公開]

「時代はPostScriptからPDFへ」記事本文

極めて高い組版の精度と、自由なレイアウトを実現するために、米Adobe Systems社は全く新しいDTPソフトウェアを開発します。それまでAdobe Systemsは米Aldus社から買収した「PageMaker」を主力DTPソフトウェアとして売り出していましたが、QuarkXpressに奪われたシェアを取り戻せないでいました。既存のPageMakerをいくらバージョンアップしても、状況は何も変わらないと考えた同社は、新しいソフトウェアを一から開発することにしたのです。それが「InDesign」です。

InDesignは1999年にアメリカでデビューしました。しかし日本語版のデビューは2001年まで待たなければなりませんでした。縦書き、ルビ、均等割付など、日本語独自の高度で複雑な機能を実装するために時間がかかったのです。

アドビシステムズ マーケティング本部 デジタルメディア マネージャー 岩本崇氏(写真1)は「InDesignでは、最初のバージョンから日本語のきれいな組版を実現することにかなりこだわっていました。アメリカ本社で開発していましたが、開発チームには日本語対応の特別チームを作って日本語対応の機能を開発していました。そのチームには日本人よりも日本の組版に詳しい担当者がいました」とInDesign日本語版について語ります。

(写真1)アドビシステムズ マーケティング本部 デジタルメディア マネージャー 岩本崇氏(写真:加山恵美)

現在、「InDesign」はDTPソフトウェアの標準としての地位を確固たるものにしていますが、すぐにトップシェアを取れたわけではありませんでした。岩本氏は初期のInDesignについて「国語の成績は良かったのですが、体育が良くありませんでした」と苦笑いしながら例えます。これは「動きが遅かった」ということです。実用的な性能に到達するにはパソコンの性能進化、Mac OS 9からMac OS Xへの移行、製品の進化が必要でした。その過程でアドビシステムズは協力業者との関係を深めて、現在の地位を築いていきました。

InDesignがDTPの標準となったのは、バージョンが「CS3」の頃です。ちょうどApple Computerが、MacintoshのプロセッサーをPowerPCからIntelプロセッサーに移行させているところでした。Adobe Systemsは、InDesign CS3発売当初からIntelプロセッサー向けに最適化されたプログラムを投入し、高性能なIntelプロセッサーの能力を活用できるようにしました。

Adobe SystemsはInDesignの開発に並行するように「OpenType」という新しいフォントの開発を進めていました。前回説明したように、かつてのPostScriptフォントには、漢字を数千字しか扱えないという問題があり、OpenTypeでは、扱える文字の数を増やしていきました。最新のOpenTypeフォントでは、2万5000字ほどの漢字を扱えるようになっています。

OpenTypeフォントが登場した頃、フォントメーカーが「一定額を支払えば、多様なフォントを1年間使い放題」という形式でフォントの提供を始めました。アドビシステムズが「Creative Cloud」シリーズで採用している「サブスクリプション制」です。前回登場したモリサワも「MORISAWA PASSPORT」(写真2)というサブスクリプション制を用意しています。

(写真2)「MORISAWA PASSPORT」サブスクリプションのパッケージ。フォントのサブスクリプション制が始まり、デザイナーは低いコストで多種多様なフォントを使えるようになった

フォントのサブスクリプション制が始まり、デザイナーは低いコストで多様なフォントを好きなように使えるようになりました。かつて、PostScriptフォントには「高い」という評判が付きまとっていましたが、サブスクリプション制の登場で、フォントにかかるコストが下がり、気軽に使えるようになりました。

現在、PostScriptの最新バージョンは「PostScript 3」です。しばらく新版は出ていませんが、DTPの現場や印刷会社のプリンターで現役として活躍しています。しかし、最近は新しい技術に移行しつつあります。それがPDF(Portable Document Format)です。

PDFは、PostScriptの技術を応用して開発したもので、今ではインターネット上で文書をやり取りする時の標準的な文書フォーマットの一つとなっています。OSやデバイスが変わっても同じレイアウトで参照、印刷ができ、ファイルサイズが小さいことから、標準的な地位を得ることができたのでしょう。またPDFには、文書中の文字列のコピーを禁じる機能など、セキュリティを強化する機能も備えています。

「InDesign」は、製版用データとしてPostScriptだけでなく、PDFも出力します。製版で版下となる原稿データを印刷するとき、RIP(ラスタ画像化処理システム)を経由します。旧来型のものはCPSI(可変型PostScript翻訳システム)と言い、PostScriptに合わせた形式でした。

しかし今ではPDFに合わせたRIPが出てきています。それがAPPE(アドビPDF出力システム)です。PostScriptとCPSIを継承し、最新のDTP環境やPDF形式に合わせたものです。

PostScriptはアドビシステムズの最初の製品であり、今でも脈々とアドビシステムズ製品のDNAのように継承されています。グラフィックやDTPに与えた影響は計り知れません。

執筆:加山恵美(フリーランスライター)
編集・文責:株式会社インプレス

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