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これから大きな危機を迎える「事業承継」の課題と方法

企業を存続・発展させるための「事業承継」を円滑に行うためには

企業経営者が高年齢化し、廃業に追い込まれる例が増えています。一方、社会問題化しつつある「事業承継」に対する支援制度の種類も増えています。事業承継の課題と方法をご紹介します。

[2018年 9月 3日公開]

事業承継の現状

事業承継が行われないため会社が廃業に追い込まれるケースが年々増加しています。
最大の原因は経営者の高齢化です。東京商工リサーチ「2017年 全国社長の年齢調査」によると、2017年の社長平均年齢は61.45歳となっており、団塊の世代が70歳を超える2020年には、さらなる高齢化が進む見通しとなっています(表1)。
また、経営者の高齢化が収益の悪化につながるケースも多く、同調査では社長の年代が60代以上の企業では、減収となる企業の割合が多くなっています(表2)。
経営者の高齢化による事業の硬直化など、事業のマイナス要因が増えるのではないでしょうか。

  • * 出典(表1、2):株式会社 東京商工リサーチWebサイト「2017年 全国社長の年齢調査」を元に作成。

事業承継の課題=後継者不足

経営者の高齢化が進む中、企業の事業承継は進んでいるのでしょうか。
日本政策金融公庫総合研究所が2016年に行った調査によると、事業承継ができずに廃業に至る企業が年々増加しているようです。廃業を予定している企業で最も多い理由は「当初から自分の代でやめるつもり:38.2%」でしたが、子供や適当な後継者が見つからないと回答した経営者が約3割もいました(表3)。

  • * 出典:日本政策金融公庫総合研究所、「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」の概要、p.6(図―4)を元に作成。

また事業承継の準備状況ですが、経済産業省・中小企業庁が行った事業承継に関する調査によると、経営者が60代以上で「準備している」と回答している企業は、全体の約50%以下にとどまっています。70~80代の経営者でも4割以上が「これから準備をする」「現時点で準備をしていない」と回答しているなど、まだまだ準備は進んでいないようです(表4)。
このように、事業承継は経営者の意識や後継者となる人材難などで行われず、この傾向は個人企業など企業規模が小さくなるほど高くなっています。

  • * 出典:経済産業省・中小企業庁、「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5ヶ年計画)」平成29年7月、p.20を元に作成。

事業承継の3要素

経営者の高齢化と廃業する企業の増加で注目されている事業承継ですが、ここで一般的な事業承継の方法についてご説明します。事業承継は会社が培ってきた従業員やノウハウ、顧客など「経営権」とされる全ての企業資産を後継者に引き継ぐことです。大別すると以下の3要素となります。

1.人的承継
経営権の承継となります。後継者が創業経営者と同じように経営手腕を発揮し、企業の持つ技術や顧客から期待と信頼を得ることが重要であり難しい課題でもあります。
そのため、後継者を育成するまである程度の時間が必要とされています。
2.資産承継
企業の根幹となる「株式」をはじめ、事業展開に必要な不動産や設備などの資産を承継します。
企業の資産価値は株式の価格に反映されるため、株式の譲渡が代表権を承継することになり、株式譲渡にかかる相続・譲渡など税金の問題が発生します。
3.知的資産承継
経営者が持つ経営理念などの事業展開ノウハウや信用、従業員が持つ技術・技能・信用、顧客や協力企業・スタッフなどの人脈などの知的資産を継承します。
知的資産の継承は、継承後の存続・発展を左右する大きな「鍵」となります。

事業承継では、これらの3要素全てを後継者に引き継ぐことになります。
それぞれの継承ポイントは、以下となります。

人的承継
後継者の選定と育成
資産承継
会社資産の整理
知的資産承継
人脈・ノウハウの共有化

いずれも準備に時間と手間がかかるため、事業承継は早めに着手しておくことが必要です。

事業承継の方法

事業承継には引き継ぐ後継者によって3通りの方法があります。

1.親族内承継

後継者となる親族がいれば一番先に後継者候補として検討されるのが「親族内承継」です。
また、事業承継で一番多いのもこの親族内承継です。
創業一族としての地位が安定して継承され、特に経営者の子供の場合は早期に後継者として社内外からも認知されやすい傾向にあります。資産の継承においては譲渡だけでなく相続という形式もとれるため、節税効果が高くなるメリットもあります。
ただし、後継者となる親族に会社を継ぐ意思や意欲がない、経営資質に乏しい場合も多くありますので、なるべく早くから継承の意思を伝えて理解を得ることがポイントとなります。

2.親族外承継

社内外から後継者を選定し承継する方法です。一般的なのは役員などの経営スタッフや管理職を務めた人の中から選定し経営権を承継することです。また、経営力に優れた社外の人材を登用し承継するケースもあります。社内から登用する場合は、能力や人柄も分かり、業務や社内人脈も精通しているため、ほかの方法に比べてスムーズに継承できるようです。
ポイントは、後継者を選定するタイミングと債務保証や担保設定、株式の譲渡など負債も含めた資産整理となります。社員を後継者にする場合、債務保証能力(個人資産)が不足しているため後継者となることを断念するケースも多いのです。
社外から登用する場合は、社内外の理解を得ることが大きなポイントとなります。周囲の理解が得られないため後継者の持っている能力を発揮できないことがないようにしましょう。

3.M&Aによる承継

親族内承継や親族外承継で後継者が見つからない場合は事業譲渡や合併という企業同士の統合によって事業承継を行います。後継者不足の傾向が高まっている現在、最も注目されている継承方法です。

例えば、売り上げや顧客が減少し事業に陰りが見えている場合、その企業を承継し立て直しを図る人材を見つけることはとても困難です。後継者候補に意欲はあっても、負債のリスクを負うことができなかったり、周囲の支援が得られなかったりすることもあります。
しかし、A社の顧客人脈とB社の設備、C社の技術(社員)を組み合わせてM&Aを行うことで、成長が期待できる新たな企業として再生することが可能となります。これを「企業マッチング」といいます。

以前は吸収合併といったマイナスのイメージが強かったのですが、経済産業省や中小企業庁、都道府県自治体が産業活性化の目的でM&Aによる事業承継を推進し、客観的に企業を判断し適切な企業をM&A候補として紹介する「企業・事業のマッチングサービス」に参入する会社が増えていることもあり、事業の飛躍と承継を可能とする有力な方法となっています。

M&Aの承継の場合は、株式譲渡・事業譲渡が主となります。自社の強みと弱みを客観的に把握して自社の価値を見いだし、自社の企業価値を高めていくことでより良い譲渡先や好条件で譲渡先が見つかる可能性も高まります。

事業承継の手順

一般的に事業承継を行う場合は、候補者の選定から事業承継完了までの期間は5~10年とされています。自社の状況を把握し、事業承継を前提とした中長期計画を立案します。

事業承継は現経営者が承継する意思を固めるところからスタートします。これまで漠然と歩んできた場合は、後継者や周囲の正しい理解が得られるように可能な限り明文化し思いを「見える化」することをおすすめします。また、後継者の育成時には資産の分配や継承方法を具体的に整理しなければなりません。特に負債がある場合はその引き継ぎを金融機関と一緒に検討する必要があります。

事業承継計画立案の手順

経営者としての再確認

創業から現在までの歩み、自己の信条、経営理念、価値観、目標・目的を整理して、後継者・従業員に伝える。

事業計画立案

  • 自社の現状分析
  • 今後の事業目標と予測
  • 事業の再検討(継続する事業と取りやめる事業、新規事業の方向性と時期を具体的に検討)
  • 目標設定(売り上げや利益の具体的な目標を設定)
  • 課題の整理(後継者に引き継ぐに当たって課題となることを洗い出し整理を行う)

後継者の選定と育成

後継者を選定
選定ポイント:経営ビジョン、意欲、覚悟、実務能力
後継者の育成
経営実務、経営理念・方針の承継を中心に教育を行う。社内で行う場合は、通常は役員など責任ある立場として配置し、実務を学び経営者としての行動を経験します。
社外で行う場合は、新しい経営スタイルや業務を取得し、新たな人脈や経営ノウハウを学びます。新規事業を核とした事業承継を行う場合は、第二創業として自社にないスキルを取得するのに社外での後継者育成が役立ちます。

企業資産の整理

株式をはじめ会社資産の洗い出しを行い、承継内容と金額を把握します。

親族内承継の場合は、相続人が後継者以外に存在する場合は資産の分配と相続について、相続人へ周知と同意を得る必要があります。これは、税理士や弁護士の専門家と相談のうえ行います。

親族外承継の場合は、負債の圧縮や株式取得のための金融機関からの借り入れが発生する場合があります。この場合は金融機関と相談しながら債務の整理・譲渡を行います。

M&A継承の場合は、自社の価値を客観的に評価することが前提になります。そのうえで、株式譲渡(会社形態はそのままで主要株主・役員構成が変わる)もしくは事業譲渡(一部の事業部門を売却するなど部分的な継承となり、譲渡されない事業は存続する)を決めて交渉を行います。

事業承継実施の課題

1.経営権の分散防止

事業承継で株式の譲渡を行う場合、後継者に株式を集中できることが理想ですが、遺産分割協議や後継者以外の相続人の遺留分減殺請求によって自社株式が分散してしまい、安定した経営ができなくなる可能性があります。また遺産分割協議は訴訟などで決定まで長期化するリスクもあります。

これをできるだけ避けるためには、生前贈与として経営者が周囲を説得して、後継者に株式を集中させるための道筋をつけることが望まれます。生前であれば、年間110万円の基礎控除がある暦年課税制度や、生前贈与時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算する相続時精算課税制度、贈与税の納税が猶予・免除される事業承継税制を活用することで、贈与税の負担軽減を図ることが可能となります。また、万が一のことを考慮して「遺言書」を作成して、株式相続で相続争いが起きないようにすることも有効です。ただし、記載内容に不備がないように司法書士や税理士、弁護士等の専門家に記載内容を確認しておくことが必要です。

2.株式の整理

1の経営権分散防止に関連しますが、後継者へ円滑に株式を譲渡するために、株主からの異議が出ないように、安定株主の導入を図ることがポイントとなります。安定株主とは役員・従業員持ち株制度など経営方針に賛同してくれる株主のことです。この割合が大きくなることで、後継者の株式保有が少なくても安定した経営が可能となります。

平成2年の商法改正以前は、株式会社設立に最低1株以上所有した発起人が最低7名必要でした。そのため、会社設立以降は疎遠になり、名義のみの株主が存在する企業が少なくありません。名義株が存在する場合は、株主名簿の整理を行い、権利関係を明確にする必要があります。
特にM&A継承の場合は所在不明の株主が存在すると全ての株式を譲渡することができなくなり、異議申し立てなどの訴訟を起こされるリスクも高まるため、M&A継承の障害となり、株式譲渡の条件が不利になる可能性があります。全ての株主の所在を確認して、必要に応じて連絡・交渉ができるようにしておきましょう。

株式の整理と分散防止では、これ以外にも事業承継に役立つ議決権や取得・譲渡に制限のある株式の発行を行う場合や、信託の活用、持ち株会社の設立などさまざまな方法があります。
相談先などは「事業承継の相談窓口一覧」の章をご参照ください。

事業承継を円滑に行うための主な支援制度

冒頭に記載したとおり、経営者の高齢化による事業承継難=廃業の増加は社会問題となっており、企業活動の停滞を招きかねないため、国・自治体をはじめとして、税制の優遇措置や各種支援制度の充実化が図られています。これらの優遇・支援制度を活用しながら円滑な事業承継を行いましょう。

1.税制の優遇措置

事業承継で発生する税金は、贈与税や相続税などがあります。ここでは事業承継を行う際にメリットが生じる主な制度についてご紹介します。

贈与税(暦年課税・相続時精算課税)

自社株式を生前贈与する場合は贈与税が課税されます。この課税については、年間110万円の基礎控除を受けることができ、基礎控除額までの贈与について贈与税は課税されない「暦年課税」と、60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫に対し財産を贈与した場合に特別控除額2,500万円の範囲内の金額には贈与税が課税されない「相続時精算課税」があります。
相続時精算課税で相続時に合算される贈与財産の価額は、「贈与時の価額」です。そのため、課税される価額という点では、相続時に贈与時より価額が上昇している場合は有利となりますので、将来値上がりが予想される財産について適用すると効果的です。

事業承継税制

事業承継税制を適用すれば自社株式にかかる相続税の80%が猶予されます。
中小企業などを対象とした非上場株式等についての相続税および贈与税の納税猶予・免除制度です。後継者が相続や贈与によって取得した自社株式等について、後継者の事業継続などを要件として相続税・贈与税の納税が猶予・免除されます。子や親族に限らず、親族外承継でも適用できます。

(例)事業承継税制を活用した自社株式の相続にかかる納税額の軽減効果は、相続人が子供2人で、相続財産10億円のうち自社株式7億円を後継者に、残りの財産を非後継者に相続させたケースの場合、後継者は相続税約2億4,000万円が納税猶予されます。

事業承継税制を適用するための要件内容
先代経営者(被相続人)要件会社の代表者であったことなど
後継者(相続人)要件相続開始の直前において対象会社の役員であることなど(先代経営者の親族以外にも適用される)贈与の場合は贈与の3年前から引き続き役員に就任していること
会社要件中小対象企業であることなど
*上場会社、資産管理会社、風俗関連事業を行う会社に該当しないこと
雇用維持要件雇用の8割以上を5年間平均で維持することなど
  • * 出典:経済産業省・中小企業庁、「経営者のための事業承継マニュアル」2017年版、p.32を元に作成。

暦年課税、相続時精算課税、事業承継税制の使い分け方(生前贈与の場合)

暦年課税
会社の株価が安定しており、急激な上昇が見込まれない場合で、相続開始までに時間的余裕があると見込まれるケースや後継者が決まっていないケースなど。
相続時精算課税
会社の株価が上昇傾向にあり、かつ、後継者は決まっているが、相続税の納税が見込まれないケースなど。
事業承継税制
会社の株価が上昇傾向にあり、かつ、後継者が決まっており、事業承継の時期に来ているケースなど。
  • * 平成29年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税と事業承継税制が併用できるようになりました。

2.資金調達の優遇制度

事業承継を行う際には、株式や資産の相続、贈与にかかる納税資金や事業承継後に後継者が行う事業資金などさまざまな費用が必要となります。しかし、事業承継後に経営が安定するまで金融機関が融資条件を厳しくしたり取引先から支払い条件の見直しを迫られたりすることもあります。
このため、事業承継実施前に取引先や金融機関との調整や協力を取り付けることで、後継者が安定して事業に取り組むことができる環境を整備することが望まれます。
経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を条件に、事業承継時に必要な資金を融資する制度があります。

株式会社日本政策金融公庫
経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を前提に、後継者個人の株式取得資金の融資が可能。個人は通常、公庫の融資対象ではありませんが、特例的な措置です。
信用保証協会
経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を前提に、事業承継にかかる資金は通常の保証枠と別枠で信用保証を行うことが可能です。

事業承継の相談窓口一覧

事業引継ぎ支援センター
後継者不在の中小企業の事業引き継ぎを支援するため、平成23年度に設置された事業引き継ぎの専門の支援機関です。全国の事業引継ぎ支援センターでは、事業承継に関する幅広いご相談への対応やM&Aのマッチング支援を行っています。
中小企業再生支援協議会
事業再生を目指す中小企業を支援するための専門機関です。財務上の問題解決、事業の収益性向上など事業再生にかかるご相談への対応、再生計画の策定サポートなど事業再生支援を行っています。
中小企業基盤整備機構(中小機構)
経済産業省所管の独立行政法人で、国の中小企業施策の総合的な実施機関です。
よろず支援拠点
中小企業・小規模事業者の経営に関するご相談に対して専門的な見地からアドバイスを行う「ワンストップ相談窓口」として、平成26年度に全国の都道府県に設置されています。
中小企業庁、経済産業局
中小企業庁、経済産業局は、地域の支援機関や自治体等と連携しながら、事業承継支援施策の普及・啓発等をはじめ、中小企業・個人事業主の事業承継の円滑化のための総合的な施策を進めています。
商工会議所・商工会
金融機関
銀行・信用金庫など
専門士業
税理士、弁護士、公認会計士、中小企業診断士など
全国中小企業団体中央会
全国中小企業団体中央会は、会員数2万7,000を超える同業種組合です。事業承継に関するセミナーの開催等を通じて、経営者への情報提供、後継者がいない中小企業への支援機関の紹介などを行っています。
経営革新等支援機関認定
中小企業等経営強化法に基づき、専門性の高い中小企業支援を行うために認定された支援機関です。税理士・弁護士、金融機関、商工会・商工会議所、民間企業などがその担い手となっています。
税務、財務、資金に関する支援を中心に、経営の見える化、磨き上げなどをサポートします。

参考資料

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大塚商会では、税理士・中小企業診断士などの専門家との協業体制(プラットフォーム)を構築しています。今までITでは解決が困難だった経営課題に対しても、大塚商会が各分野の専門家と連携して解決に向けたお手伝いをします。

【ITだけでは解決できない経営課題の例】

  • M&A
  • 資金調達
  • 海外事業展開
  • 特許申請
  • 労働紛争・裁判
  • 株式公開

著者紹介

マネジメントリーダーWEB編集部

企業を活性化する総合マネジメント情報サイト「マネジメントリーダーWEB(http://www.mng-ldr.com/)」を企画・運用。

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。