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攻めの事業継続計画(BCP)策定法

パンデミックを教訓とした新たなBCPを業績拡大の布石に

新型コロナウイルスは、罹患(りかん)被害だけでなく外出禁止措置による経済活動の停滞など、企業活動に大きな影響を与えました。これを教訓にこれまでの事業継続計画を見直し、新たなBCPを考察してみましょう。

[2020年 6月 1日公開]

なぜ事業継続計画(BCP)が必要なのか

事業継続計画(以下BCP)とは、企業が資産や人材などの事業資産を確保して、事業継続のための方法や手段などを取り決めておく計画のことです。

BCPは二つに大別されます。一つは経営者の引退をはじめ企業経営環境の変化にどのように対応するかという事業承継です。もう一つは自然災害(地震や台風など)、大火災、戦争やテロなどの緊急事態が発生した際、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時の対応方法を定めることです。

経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な中堅・中小企業では、被災が原因で廃業や倒産となる恐れがあります。また廃業にならなくても、事業の縮小で従業員を解雇しなければならない状況も予測されます。

このような事態を避けるために、普段からBCPを準備し緊急時には被害を最小限にとどめ、早期に復旧できる体制を整えておくことが重要です。BCPを策定し被災時の対応を訓練するなど、BCPの策定と実践を積極的に行っている企業は、顧客の信用を得て企業価値を高めることになります。

BCPを策定する際に注意すべきポイントは以下の5点です。

コアコンピタンスの確認企業活動を継続・復旧するために、注力する中核事業(売り上げの中心となる業務)を特定します。
タイムリミットの設定緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めます。目標が達成されない場合は、その原因と解決のめど、遅れた場合の影響を迅速に判断し事業の継続・変更・中止などを決定します。
クオリティの設定緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客とあらかじめ協議し、費用も含めて了解を得ます。
代替処置事業拠点や生産設備、仕入品調達、流通方法などの代替策を用意し、交渉や契約を行います。
BCP情報共有全ての従業員へ事業継続についての研修を行い、情報共有とコミュニケーションを図ります。

見直しが迫られるBCP

2020年に入って新型コロナウイルス感染症が世界中にまん延し、パンデミック(世界規模での流行拡大状態)を引き起こしました。罹患被害だけでなく、感染防止のための外出禁止や渡航禁止により経済活動が大きく停滞し、世界中で失業や倒産が相次ぐなど、これまで経験したことのない地球規模での緊急事態となりました。

BCPは阪神淡路大震災や東日本大震災のような大地震や、台風をはじめとした風水害などの自然災害による大規模な被災を想定して、策定されている場合がほとんどです。これらの災害によってオフィスや工場が倒壊などで使用できなくなる場合や、原材料の入荷が途絶えて操業できなくなったり、従業員やその家族が被災して就業できなくなったりすることを想定して、被害を最小限にとどめ、迅速に復旧することを念頭に置いていました。

感染症対策については、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、それまでの自然災害を中心とした対策では不十分との声も上がりました。しかし日本では罹患者が確認されなかったため、BCPに具体的な感染症対策を盛り込んだ企業は少なかったようです。

当時まとめられた世界保健機関(WHO)による重症急性呼吸器症候群(SARS)の報告書を見ると、感染情報の透明性と急増する患者に対しての対応力(医療崩壊の懸念)が指摘されています。これ以降インフルエンザなどの感染症に対して具体的な注意や対策が提唱されるケースが増えています。例えば、2009年に農林水産省が食料の安定供給のために作成した「新型インフルエンザに備えるための食品産業事業者の事業継続計画策定のポイント」には、感染防止策やリスク分析、経営者による見直しと改善など基本的な対処方法が盛り込まれています。

事前に事態と被害を想定して対策が取られていれば、被害は少なくて済みますし早期の回復も可能になります。これが従業員の安全を守り企業が存続する有効な手段となるのです。

自然災害の範囲は限定的ですが、発生時の建物倒壊や火災、津波による堤防の決壊などの物理的な被害が大きくなります。一方、パンデミックなどの感染症被害は世界中どこででも、誰でも被害を受ける可能性があります。健康被害はもちろんですが、感染防止を理由に広範囲に経済活動が停滞するため、企業にとっても大きな脅威となります。

しかし、感染症は最初の発生を予測することは困難ですが、経済的な被害が発生するような大流行となるまでにある程度の時間がかかります。そのため、BCPでパンデミックへの対応方法を策定しておけば、十分に時間を取り準備できる可能性があります。

自然災害と感染症では被害の性質と影響が異なるので、BCPを策定する際はこの両方を考える必要があります。

企業に及ぼす影響

 自然災害感染症(パンデミック)
範囲局地的広範囲
主な(直接的)被害人間/建物・施設/交通/農水産業人間、および外出禁止などによる経済活動の制限
間接的な被害経済活動の停滞(被災状況による)経済活動の停滞(広域・世界的規模に広がる)
被災までの期間瞬間的・短時間長期的に拡大
主な対策
  • 耐震・耐火・耐水害などの物理的な安全処置
  • 避難場所の確保、非常食備蓄など
  • 外出禁止に備えたテレワーク(在宅勤務)の実施
  • 感染予防・健康管理
  • 必要最小限の生活用品備蓄
復旧までの期間被災状況により長期化する場合がある治療薬の開発などで、感染症が終息傾向に入ると復旧

攻めのBCPを策定するには

BCPは計画を作成して終わりではありません。想定外の事態に備えるために常に計画を見直しましょう。必要に応じて計画を再検討し、新たな項目を追加するというPDCA(Plan<計画>、Do<実行>、Check<評価>、Action<改善>)を繰り返して精度を高めていきます。想定外だった今回のパンデミックに対して行った対応を評価し、改善していきましょう。

CHECK(評価項目)

  • 自社の被害
  • 被害状況の詳細な分析
  • 関連企業の状況(仕入先、販売先、提携先)
  • 地域社会の状況
  • 従業員の状況(家族の状況も含む)
  • 社会の状況
  • 被害を軽減できた企業の事例(参考)

ACTION(改善項目)

被害(金額・影響)の大きいものから原因と改善策を検討

例えば、

  • 観光業:外出自粛や訪日外人客の減少⇒ターゲットの変更、付加価値の創出
  • 製造業:部品の調達・入荷停止⇒調達先を複数確保、国内生産の検討

社内体制

  • パンデミック対策:マスク・消毒品の備蓄
  • テレワークの実施状況:設備的な課題、運用課題(対顧客、対サプライヤー、人材管理)

パンデミック対策において、自社のBCPが機能しなかったとの声も多数上がっています。
主な理由としては、もともと感染症対策を想定していなかった、対策は策定していたが想定以上の状況となり計画が役に立たなかったことが挙げられるようです。外出自粛や渡航制限が長期間続くことを想定しておらず、国内だけでなく世界規模での経済停滞によって企業活動が脅かされるという事態にまでなり、どう対応すればよいのか戸惑ってしまったということです。これらは、マスクや消毒液の備蓄数が少なく、あっという間に不足するなど、多くの企業の災害備蓄があまり役に立たなかったことによく表れています。

もう一つ、BCP改善項目として注目されているのが「テレワーク」です。
以前より、働き方改革の目玉として在宅勤務が奨励されていましたが、パンデミック対策で一気に加速しました。しかし、テスト稼働などの準備もなく全社員に在宅勤務の処置を取ったため、自宅から会社のネットワークにつながらないといったトラブルが起こった企業も多くあったようです。
全体的に、急な在宅勤務となり戸惑った企業・社員の方が多かったのではないでしょうか。

攻めのBCP、ポイントは「テレワーク環境の充実」

テレワークは、パンデミックを経て新たな勤務方法として定着していく可能性が高まっています。
非常時に通勤する必要なく仕事ができるので、オフィスが社員の数だけ分散されることになり、さまざまなリスクを回避する最大の切り札になるからです。

その場合、自宅でも会社と同様のネットワーク環境で作業できることが最低条件になります。さらに常時TV会議やビデオ会議を多用するとなると、ネットワーク環境の見直しが必要です。
情報を格納しているデータセンターの複数利用やセキュリティの高度化、自宅作業のノウハウ獲得(業務の推進と成果の評価方法、報酬の検討など)をはじめ、コミュニケーションを醸成するネットの活用方法や余暇の活用も含めて、360度あらゆる方向から検討しましょう。

既にテレワークが定着している欧米の動向から、日本でも働き方そのものや仕事に取り組む姿勢が変わると予測されています。その変化を敏感に感じ取り、柔軟に対応していくことが、今後企業が発展していく契機になるかもしれません。

オフィスもテレワークに対応して変化する必要があります。オフィスの役割を再検討して、新たな時代の「オフィスづくり」を考えましょう。キャパシティー面では常勤者の減少を想定してオフィスの規模を縮小し、その分のコストを、テレワーク環境を構築するための費用にすることも可能でしょう。また、顧客やサプライヤーとの取引方法も、ネットの活用を前提として検討することをおすすめします。
やり方によっては、かなりスピーディーな取引が可能になるのではないでしょうか。

まとめ

今回のパンデミックでは、その影響が想定を超えて、役に立たなかったと評価されている企業のBCPですが、今回の教訓が役に立つように能動的に変えていくことで、時代をリードする企業に変身するのです。

新しいウイルスが今後も発生するかもしれませんし、パンデミックと大地震が同じタイミングで発生する可能性もないわけではありません。あまりネガティブな予想はしたくありませんが、経営者として最悪の状況を想定し、それでも企業が存続するためのシミュレーションをすることが必要不可欠です。
被災しても動じない強い会社にするために、ありとあらゆる事態を想定して新しいBCPを作りましょう。

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ご存じですか? 2020年中にBCP(事業継続計画)の策定が求められています。「BCPは中小企業には関係ない話」と思っていつまでも「先送り」にしていると、CSR(企業の社会的責任)を果たしていないと見なされ、企業価値が低下してしまいます。
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著者紹介

マネジメントリーダーWEB編集部

企業を活性化する総合マネジメント情報サイト「マネジメントリーダーWEB(http://www.mng-ldr.com/)」を企画・運用。

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。