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判例から読み解く「同一労働同一賃金」とは

働き方改革と「同一労働同一賃金」

「同一労働同一賃金」を実現するために、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。最高裁判例から読み解く、今後の賃金制度設計のポイントについてご説明します。

[2018年 7月17日公開]

「同一労働同一賃金」が目指すもの

厚生労働省のガイドライン案によると、同一労働同一賃金とは、同一企業・団体における正規雇用労働者と、非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者など)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

どのような雇用形態を選択しても、仕事ぶりや能力が適正に評価され、意欲を持って働け、納得が得られる処遇を受けられることにより、多様な働き方を自由に選択できるようにすることが目的です。

最高裁判例から読み解く「同一労働同一賃金」とは

滋賀県内の物流会社で「同じ仕事をしているのに正社員と比べて待遇に格差があるのは不当」として、契約社員のトラック運転手が会社に是正を求めた訴訟の上告審で、平成30年6月1日に、最高裁は「通勤手当、無事故手当、給食手当、作業手当、皆勤手当の格差は違法、住宅手当のみ格差は合理的」とする判決を言い渡しました。

一方、横浜市の運送会社を定年退職後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が「同じ仕事をしているのに賃金が下がったのは不当」として会社に是正を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は同日、「精勤手当の不支給と時間外労働手当の差だけを違法(その他の格差は不合理ではないと認定)」として、計20万円の支払いを命じました。

労働契約法で定める三つのポイント

労働契約法第20条では、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を定めています。具体的には、有期契約労働者の労働条件が、同一の使用者と労働契約を締結している正社員の労働条件と相違する場合においては、下記の三つのポイントを考慮して不合理と認められるものであってはならないとされています。

  1. 職務の内容(労働者の業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
  2. 転勤や昇進などの配置の変更範囲
  3. その他の事情

先ほどの横浜市の運送会社の判例では、定年後の再雇用であるということで、前述のポイント「(3)その他の事情」が考慮され、「労働条件の相違は(一部は違法であるが)全て不合理とは認められない」と判断されました。

各種手当を見直す際の注意点

「同一労働同一賃金」を実現するためには、企業はどのような対応を行えばよいのでしょうか。まずは各種手当の意味合いと注意点を確認してみましょう。

手当支給要件正社員と非正規社員に差異を設ける場合の注意点
皆勤手当、
精勤手当
皆勤を奨励する趣旨で支給。職務の内容がほぼ同じで、出勤する者を確保することの必要性が正社員・非正規社員ともに求められる場合は、差異を付けることにはリスクがある。責任の程度が異なる等、納得感のある説明ができるか再検討すべき。
作業手当特殊作業等に携わる労働者に支給。作業の内容が明確で、かつ特殊作業等を行う者にのみ支給されている場合は合理的である。一方、作業の内容が具体的に定められておらず、単に契約形態を理由に支給の有無が定められている場合は、賃金制度全体を通して再検討が必要。
住宅手当労働者の住宅に要する費用の補助として支給。非正規社員には就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員には転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となりうる等、合理的な理由付けが必要。
時間外労働手当等法定労働時間を超えて、または休日・深夜に勤務した場合の割増賃金時間外労働手当の計算方法は法律で定められているため、正社員、または非正規社員であることを理由に、計算方法について根拠のない差異を設けることはNG。

「同一労働同一賃金」は、正社員と非正規社員の給与や待遇を全く同じにすることまでは求めていません。給与や待遇は、各企業の労使間の交渉や、使用者の高度な経営判断により定められることが基本だからです。そのうえで、各手当における差異を設ける際は、そのリスクにも留意し、結果として給与・待遇を総合的に勘案したうえで、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を行うことが重要です。

労使ともに納得感のある賃金制度とは

日本における伝統的な人事制度といえば、「終身雇用」と「年功序列型の賃金制度」でした。しかしながら近年は、女性の社会進出や、家族構成の多様化、定年延長などから、人事制度のあり方も大きく変化しています。今後、賃金制度を見直す際にはぜひ、正社員はもちろんのこと、契約社員、アルバイト、嘱託等の非正規社員として働く人々にも、納得感ややりがいを持って働いてもらえる賃金制度になるよう、意識をしてみてはいかがでしょうか。

著者紹介

岩野 麻子(いわの あさこ)

特定社会保険労務士・健康経営アドバイザー。社会保険労務士 岩野麻子事務所代表。青山学院大学法学部を卒業し、大手化粧品メーカーに勤務。2007年5月に東京都中央区にて開業し、現在はスタッフ数名と共に中堅・中小企業の労務管理や給与計算サポートなどを行っている。

座右の銘は「働く全ての人々にQOL(生活の質)の向上を」。最近では、健康経営の推進にも力を注いでいる。(2018年2月22日時点の情報です)

社会保険労務士 岩野麻子事務所 (https://www.iwano-sr.com)

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。

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