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事業承継の方法と税務対策

事業承継の基本と承継推進のための相続税・贈与税緩和策のポイント

経営者の高齢化が進む中、企業を存続させるための事業承継は喫緊の課題となっています。事業承継の基本と税務対策について解説します。

[2018年10月24日公開]

事業承継の三つの方法

事業承継には「親族への承継」、「役員・従業員への承継」、「M&A」の三つの方法があります。

親族への承継

現経営者の子息など、親族に対して事業を承継させることです。
かつて親族への承継は事業承継の王道といわれてきました。オーナー企業にとっては、今もこの方法を望む方が一番多いのではないでしょうか。この方法ですと、「経営の承継」と「資産の承継」を同時に行うことができます。

役員・従業員への承継

親族以外の、長年会社を支えてきた役員や従業員に承継させることです。
この場合、現経営者やその親族から会社の株式を買い取ることになります。もしくは、親族の中に後継者候補がいる場合には、役員や従業員に経営の承継だけをいったん行うという「中継ぎ承継」もあります。

M&A

親族や役員・従業員以外の第三者に対して会社の権利を売却し、第三者に事業を承継させることです。
後継者がいない場合などに、廃業や解散という事態を回避することができます。最近の傾向として、親族に後継者が見つからず、M&Aを模索する動きが強まっています。

事業承継の三つの方法、それぞれのメリット・デメリットと選択のポイント

「親族への承継」「役員・従業員への承継」「M&A」それぞれのメリットとデメリットをまとめると以下のようになります。

事業承継の三つの方法 メリットとデメリット

事業承継の方法メリットデメリット
親族への承継
  • 社内外問わず、関係者から理解が得られやすい。
  • 後継者を早期に選定することにより承継準備がしやすい。
  • 経営の承継と資産の承継を同時に行うことができる。
  • 相続候補が複数いる場合、親族間で争いが生じる可能性がある。
  • 相続人が複数いる場合、株式の分散により経営権の集中が難しい。
役員・従業員への承継
  • 業務を熟知した優秀な人材に承継を行うことができる。
  • 社内の理解を得られやすい。
  • 承継対象者に株式の取得や承継にかかる資金力、金融機関の信用力がない場合がある。
  • 個人保証の引き継ぎが難しい。
M&A
  • 広く外部に後継者を求めることができる。
  • 一定規模以上の場合、売却益を得ることができる(ハッピーリタイアメントが可能)。
  • 希望や条件を満たす相手企業を見つけることが難しい。
  • 仲介者への報酬が発生。

事業承継方法の選択 三つのポイント

それでは、実際に事業承継方法の選択をする際、どのように決めればいいのでしょうか。これには、三つのポイントがあります。

1.後継者の有無

オーナー企業の場合、「後継者の有無」が大きく関わってきます。
親族内に跡を継ぐ後継者候補がいる場合には、まず親族内承継による事業承継を中心に検討することとなります。逆に、親族内に後継者候補がいないときは、役員・従業員等への承継、あるいはM&Aを活用した事業承継を中心に検討することとなりますが、オーナー企業の事業承継の場合は、後継者がいるという前提で「親族への承継」に的を絞っていきます。

2.会社の規模、業績

事業承継にはリスクが伴います。リスクを負ってまでも事業を承継するためには、その会社の事業に将来性や魅力を感じるかどうかがカギです。そこで、承継する「会社の規模や業績」が重要となります。

3.後継者の意思

そして何より、「後継者の意思」が大切です。現在の経営環境は大変に厳しいものとなっており、ただ単に経営者の親族であるというだけで事業を承継し、経営していくことができるほど容易ではありません。
どの方法で事業承継を進めていくにしても、受け身的に事業を承継するのではなく、承継した会社を存続・発展させようとする強い意志が必要です。

具体的に親族への承継を進めるうえで必ず出てくる問題として、「税金負担」があります。効率よく事業承継を進めていくためには、「生前贈与による承継」や「相続による承継」の際に発生する相続税や贈与税の対策は極めて重要です。

事業承継の税務対策

事業承継で必ず出てくる問題として「税金負担」があります。効率よく事業承継を進めていくためには、この税金負担について必ず検討する必要があります。そして、株式の移転方法によって税金のかかり方が大きく異なるため、検討の際には、移転する方法ごとに「誰に」「どのような税金の支払いが生じるのか」を理解することが重要となります。

売買による承継

売買による事業承継がなされた場合、株式や事業用資産の売却により対価を得る現経営者に対して所得税が課税されます。売却価格と取得価格の差額である譲渡益に対して課税され、非上場会社の株式の場合は税率20%(所得税15%、住民税5%)となります。ここで注意していただきたいのが、所得税額を安くしようと「時価よりも著しく低い価格」で後継者に対して譲渡をすると、時価と売却価格の差額に対して贈与税が課税されることになります。そしてこの贈与税は、後継者に課税されます。

生前贈与による承継

生前贈与による事業承継がなされた場合、株式や事業用資産の贈与を受けた後継者に対して贈与税が課税されます。贈与税には、暦年課税制度と相続時精算課税制度の2種類があり、家族構成や財産構成などを考慮してどちらが有利であるかを判断する必要があります。なお、一度相続時精算課税制度を選択すると、以後その贈与者からの贈与に関して暦年課税制度を選択することはできません。

 暦年課税制度相続時精算課税制度
概要相続した年中(1月1日~12月31日)に贈与された金額の合計に対して、贈与税が課税される。将来相続関係となる親から子への贈与について、選択適用する制度。贈与時には軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算課税される。
贈与者制限なし65歳以降の親
受贈者制限なし20歳以上の子である推定相続人
届け出不要必要
(一度選択した場合は撤回できない)
控除基礎控除:110万円非課税枠:2,500万円
税率基礎控除を超えた部分に対して累進課税非課税枠を超えた部分に対して、一律20%
手続き贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与税の申告および納付。選択を開始した年の翌年3月15日までに本制度を選択する旨の届け出書提出。かつ贈与税の申告および納付。
相続時なし(相続開始3年以内の贈与は相続財産に加算)合算して精算

相続による承継

相続による事業承継がなされた場合、株式や事業用資産の贈与を受けた後継者に対して相続税が課税されます。相続税額の計算は、以下の手順で算出します。

1.相続税の課税価格の計算

各相続人等が取得した財産の価格から被相続人の債務・葬式費用をマイナスし、それ以外の相続などで財産を取得した人が、相続開始前3年以内に被相続人から受けた贈与財産+相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産が相続税の課税価格となります。

2.課税遺産総額を計算

算出された課税価格から遺産にかかる基礎控除額を控除して、課税遺産総額を計算します。
算出された課税価格から遺産にかかる基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。例えば妻と子供2人の合計3名が法定相続人の場合、「3,000万円+600万円×3名」となり、相続の総額が4,800万円までは相続税が発生しません。

3.相続税の総額を計算

課税遺産総額を法定相続人の数で割って法定相続分に応ずる取得金額を算出し、この法定相続分に応ずる取得金額に相続税率をかけて相続税の総額を計算します。

課税遺産総額÷法定相続人の数×相続税の税率(課税価格により10~55%)

課税遺産総額の計算では、土地家屋の特例減額などが含まれますので、特例適用の可否も含めて、専門の税理士や公認会計士にご相談ください。

事業承継、税制の優遇措置

「事業承継の税務対策」でご説明したように、どの方法を選択しても税金負担の問題はなくなりません。そして実際には、事業承継により生じる税金負担に耐えることができないという理由で事業承継をすることができないことがあります。

そこで、効率よく事業承継を進めることを目的として、平成30年度税制改正において事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制が大きく改正され、10年間限定の特例措置が設けられました。

改正のポイントは、事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」を、今後5年以内に特例承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う者を対象として拡充されています。拡充の主な内容は、以下のとおりです。

対象株式数・猶予割合の拡大

対象株式数の上限が撤廃されて、議決権株式の全てが猶予対象となりました。また、猶予割合が100%に拡大されたため、事業承継にかかる金銭負担がなくなります。

対象者の拡大

これまで承継税制の対象となるのは一人の先代経営者、一人の後継者へ贈与・相続される場合のみとなっていましたが、改正で親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となりました。

雇用要件の弾力化

事業承継後5年間の雇用平均が承継前の雇用8割を維持できなかった場合、猶予された相続税・贈与税の納税猶予がなくなり、猶予された税額全てを納付しなければなりませんでしたが、5年間の雇用平均が8割に達しない場合でも納税猶予は継続されます。ただし、雇用平均が8割未達の理由報告や認定支援機関の指導・助言が必要となります。

新たな減免制度の創設等を行う

現行制度では、相続時精算課税制度は、原則として直系卑属への贈与のみが対象となっていますが、現行制度に加えて、事業承継税制の適用を受ける場合には、60歳以上の贈与者から20歳以上の後継者への贈与も相続時精算課税制度の対象となりました。そのため贈与者の子や孫でない場合でも適用可能となりました。

著者紹介

高橋 雅人(たかはし まさと)

都内の会計事務所にて16年間実務経験を積み、上場企業の申告やM&A案件など幅広く携わる。その後、独立開業し勤務税理士時代の幅広い経験を生かして、現在はさまざまな業種の税務顧問を請け負っているほか、相続案件や事業承継案件なども数多く取り扱っている。

高橋会計事務所 (http://www.gyoseki-up.jp/)

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。

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