企業の地震対策とは?防災月間に見直したい
防災対策・BCP対策のポイントを解説


9月1日は「防災の日」、そして9月は「防災月間」です。災害への備えについて意識を高め、日頃の防災対策を見直す機会として、自社の備えを確認する企業も多いのではないでしょうか。
日本は、世界でも有数の地震大国です。地震は台風のように進路や規模を事前に予測することが難しく、いつ、どこで発生するか分かりません。だからこそ、「起きてから考える」のではなく、「起きることを前提に準備しておく」ことが重要です。
企業の地震対策というと、保存水や非常食などの備蓄品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、実際に企業が考えておくべきことは、緊急地震速報を受けた際の初動対応、発災直後の安否確認、現場の被害状況の把握、発災後72時間を支える備蓄、そして事業の継続・復旧まで多岐にわたります。
企業の地震対策は、従業員の安全確保や安否確認、備蓄だけでなく、災害発生後も重要な業務を継続・復旧するためのBCP対策まで含めて考えることが重要です。従業員の安全を守る防災対策と、事業を止めないためのBCP対策は切り離して考えることはできません。
本記事では、地震発生前の備えから、発災直後の初動対応、発災後72時間を支える備蓄、そして事業継続までを時系列で整理し、企業が見直しておきたい防災対策とBCP対策について解説します。
地震発生前から始まる企業の防災対策
防災対策は「備える」だけでは不十分
防災用品や設備を用意していても、災害時に十分機能しないケースがあります。
たとえば、次のような状況です。
・従業員名簿が更新されていない
・災害時の連絡方法が決まっていない
・備蓄品の保管場所を一部の担当者しか知らない
・非常食や保存水の賞味期限が切れている
・停電や通信障害が発生すると重要な情報を確認できない
防災対策では、「何を備蓄したか」だけではなく、「実際に使える状態になっているか」が重要です。設備や備蓄品などの「モノ」と、連絡手順や役割分担などの「運用」を合わせて整備することで、初めて災害時に機能する備えになります。

緊急地震速報を初動対応につなげる
緊急地震速報を受け取ってから強い揺れが到達するまでの時間は限られています。しかし、そのわずかな時間でも被害を軽減できる可能性があります。
たとえば、
・頭を守る
・倒れそうな棚や窓ガラスから離れる
・机の下など安全な場所へ移動する
・周囲の人へ声を掛ける
といった行動です。
また、速報を受け取る仕組みだけでなく、
・誰が館内へ周知するか
・来客へどのように案内するか
・火気や設備をどう停止するか
などのルールも決めておく必要があります。
速報を受け取る仕組みと、その後の行動ルールをセットで整備し、避難訓練などを通じて実際に行動できる状態にしておきましょう。

地震発生直後に確認すべき人と現場の安全
最初に確認すべきは従業員の安全
強い揺れが収まった後、企業が最初に行うべきことは、従業員の安全確認です。
安否を確認する際は、単に「無事かどうか」だけでなく、必要に応じて次のような情報を確認します。
・負傷の有無
・現在地
・周囲の被害状況
・避難の状況
・支援の必要性
また、災害発生時には電話やメールがつながりにくくなる可能性があります。電話やメールだけに頼らず、安否確認システムなども活用しながら複数の連絡手段を確保し、担当者が不在の場合も対応できる体制を整えておきましょう。

安否確認は「状況把握」まで行う
安否確認の目的は、従業員の無事を確認することだけではありません。収集した情報をもとに、出社継続、避難、帰宅、支援対応などの判断を行うことも重要です。企業は安否確認を「連絡」ではなく「状況把握の仕組み」として運用する必要があります。
たとえば、次のような流れを想定しておきます。
・従業員へ安否確認の連絡を送る
・回答状況を確認する
・未回答者へ再度連絡する
・負傷者や支援が必要な人を把握する
・出社、待機、避難、帰宅などの方針を伝える
安否確認から状況判断までをスムーズに行える体制を整えておきましょう。

建物・設備・ライフラインの被害を把握する
従業員の安全を確認した後は、建物や設備の状況も確認する必要があります。
特に地震では、
・建物の損傷
・家具や設備の転倒
・ガラス破損
・火災や水漏れ
・電気・水道・通信の停止
などが発生する可能性があります。
人的被害と合わせて現場の状況を把握することで、避難の継続や業務再開の判断につなげられます。
発災後72時間を支える備蓄の考え方
なぜ「72時間」の備えが必要なのか
大規模な地震が発生すると、道路の寸断や物流停止によって必要な物資が届かなくなる可能性があります。
また、公共交通機関が停止し、従業員が帰宅できなくなることも考えられます。
内閣府では、大規模災害発生直後は公的支援がすぐに届かない可能性があることから、発災後72時間程度は自助による対応が重要とされています。企業の備蓄も、この「72時間」の考え方を参考に検討するとよいでしょう。
そのため企業にも、従業員が一定期間安全に過ごせるよう、水や食料、非常用トイレなどを備えておくことが求められます。
備蓄量は「人数×3日分」で考える
3日分を備蓄する場合、1人当たりの目安は次のとおりです。
・保存水:9リットル
・食料:9食分
・非常用トイレ:15回分
たとえば、従業員が10人の場合は、次のように算出できます。
・保存水:10人×9リットル=90リットル
・食料:10人×9食=90食
・非常用トイレ:10人×15回=150回分
※備蓄量は一般的な目安です。必要量は人数や施設、勤務形態などによって異なります。
ただし、必要量は企業の状況によって異なります。従業員だけでなく、来客や取引先、施設利用者などが社内に滞在する可能性も考慮する必要があります。特に多数の利用者を受け入れる施設では、利用状況に応じた備えが求められます。交代勤務がある職場では、時間帯によって社内にいる人数が変わる点にも注意しましょう。
まずは「誰のために、何人分、何日分を備えるのか」を整理した上で、自社に必要な数量を算出することが大切です。

企業が備えておきたい
防災用品と管理のポイント
優先して備えておきたい防災用品
地震発生後は、断水や停電が発生したり、空調設備が停止したりする可能性があります。保存水や非常食だけでなく、発災後に起こり得る状況を想定して、必要な用品を準備しましょう。
●非常用トイレ・衛生用品
断水すると、水洗トイレを使用できなくなる可能性があります。非常用トイレは後回しにされがちですが、優先して備えておきたい用品の一つです。トイレットペーパー、ウェットティッシュ、ごみ袋、マスク、生理用品、手袋なども併せて確認しましょう。数量だけでなく、使用後の保管・廃棄方法や、利用者のプライバシーへの配慮も必要です。
●保存水・非常食
保存水は、人数と日数をもとに必要量を算出します。飲料用だけでなく、非常食の調理に水が必要となる場合もあります。非常食には、ご飯、パン、クラッカー、おかず、ゼリー飲料など、さまざまな種類があります。保存期間だけでなく、災害時に調理・配布しやすいかも確認しましょう。
●ライト・停電対策用品
停電が発生すると、館内の移動や情報収集、連絡手段の確保が難しくなります。懐中電灯やランタン、乾電池、モバイルバッテリー、携帯電話の充電器、ラジオ、ポータブル電源などを用意しておきましょう。
●救急・防寒用品
負傷者への応急処置や、空調が停止した場合に備え、救急セット、毛布、防寒シート、タオル、ヘルメット、軍手、笛、雨具なども備えておきましょう。救急箱についても、中身や使用期限、不足品を定期的に確認しましょう。

自社に合った備蓄品を選ぶポイント
必要なものを一つずつ選ぶことが難しいときは、複数の防災用品がまとめられた防災セットを活用する方法もあります。ただし、購入したセットをそのまま保管するのは避けましょう。自社の人数や業務内容、建物、周辺環境に合っているかを確かめ、足りないものを補うことが大切です。
非常食や保存水については、数量や保存期間だけでなく、次の点も確認しておきましょう。
・加熱せずに食べられるか
・調理に水を必要とするか
・食器や缶切りが必要か
・食物アレルギーへの配慮があるか
・高齢者なども食べやすいか
・従業員が実際に食べやすい味か
・配布や持ち運びがしやすいか
防災訓練で非常食を試食する機会を設ければ、従業員が会社の備蓄内容や保管場所を知るきっかけになります。実際に食べることで、「水が必要だった」「調理に時間がかかった」「量が足りなかった」といった気づきを、次回の備蓄品選びにも生かせます。

「買っただけ」で終わらせない備蓄管理
備蓄品については、少なくとも次の項目を整理しておきましょう。
・何を備蓄しているか
・何人分あるか
・どこに保管しているか
・誰が管理するか
・誰が配布するか
・賞味期限や使用期限はいつか
備蓄品を1か所にまとめて保管すると、その場所へ入れなくなった場合に取り出せない可能性があります。建物の状況を踏まえ、複数の場所に分けて保管する方法も検討しましょう。また、従業員数は、入退社や組織変更によって変わります。以前は十分だった備蓄品が、現在の人数には足りなくなっている可能性もあります。
非常食や保存水には賞味期限があり、乾電池や衛生用品なども時間とともに劣化します。「現在の人数に対して数量が足りているか」「期限がいつまでか」を一覧にし、半年に一度、年に一度など、定期的に点検する仕組みを整えておきましょう。
また、期限が近づいた備蓄品は、そのまま廃棄するのではなく、社内での配布などを通じて有効活用する方法もあります。購入から入れ替えまでの流れをあらかじめ決め、備蓄を継続的に更新できるようにしておきましょう。
そこで重要になるのがBCP対策です。
「人を守る」防災対策から、
「事業をつなぐ」BCP対策
備蓄は、発災後の従業員の安全を支えるために欠かせません。
しかし、従業員の安全を確保した後は、
・どの業務を優先するのか
・顧客対応をどう行うのか
・システムをどう復旧するのか
まで考える必要があります。
防災対策は被害を抑え、人の安全を守る備え
防災対策とは、災害による人的被害や物的被害をできるだけ小さくするための取り組みです。
たとえば、次のような対策が挙げられます。
・ヘルメットや救急用品を用意する
・水や食料、非常用トイレを備蓄する
・家具や什器の転倒を防止する
・避難経路や避難場所を確認する
・避難訓練を実施する
・緊急時の連絡方法を決める
まずは従業員や来客の命を守り、安全を確保することが、防災対策の大きな目的です。

BCP対策は重要な事業を継続・復旧する備え
BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。地震などの災害によって企業活動が中断する事態を想定し、重要な業務をできるだけ止めない、または中断しても早期に復旧させるための計画です。
BCPでは、たとえば次のような項目を検討します。
・優先して継続・復旧すべき業務
・災害時の指揮命令系統
・責任者が不在の場合の代行者
・取引先や顧客への連絡方法
・データやシステムのバックアップ
・代替拠点や代替手段
・従業員が出社できない場合の業務体制
・業務を再開する際の判断基準
すべての業務を同時に復旧させることが難しい場合に備え、優先する業務をあらかじめ整理しておきましょう。

防災対策とBCP対策は切り離せない
防災対策とBCP対策は、どちらか一方だけを整えればよいものではありません。従業員の安全が確保されなければ、事業を継続することはできません。一方で、人の安全を確保できても、その後の連絡方法や業務の復旧手順が決まっていなければ、事業の再開に時間がかかります。
従業員の安全を守る防災対策は、事業継続の土台になります。その上で、重要業務の継続や早期復旧までを考えるのがBCP対策です。両者を別々の取り組みとしてではなく、つながりのある対策として進めましょう。
まとめ
企業の地震対策は、保存水や非常食を備蓄するだけでは十分ではありません。緊急地震速報を受けた際の初動対応、従業員の安否確認、被害状況の把握、発災後72時間を支える備蓄、そして事業継続までを、一連の流れで考えることが重要です。
防災月間を機に、
・安否確認の方法
・備蓄品の数量と期限
・役割分担
・業務継続の優先順位
を見直し、防災対策とBCP対策を一体で考えてみてはいかがでしょうか。
大切なのは、対策が「ある」ことではなく、実際に地震が発生した際に機能する状態になっているかを確認することです。防災月間を、自社の備えを点検し、従業員の安全確保と事業継続の両立を見直す機会として活用してみてはいかがでしょうか。
まずは、安否確認の方法と備蓄品の状況から確認してみましょう。

