第13回 Let’s start your career in Japan!

3年ほど前からある日本企業の依頼を受けて、日本の本社で採用されるアメリカ人の工学部の学生を募集し、初期選考を行っています。毎年、9月から11月にかけてこのプロジェクトを行ってきましたが、応募数は毎年300名を超え、ピーク時には週末も1日8時間英語でスカイプによる面接を行う日々。大変な作業ではありますが、日本企業の代表として活躍する人材を発掘すること、アメリカから日本へ人材を送り出すことに、大変な使命とやりがいを感じるプロジェクトでもあります。

昨年は3名のアメリカ人の学生が最終面接を通過し、無事に今年から日本で新しいキャリアをスタートさせました。今年もどんな学生を発掘できるか、楽しみにプロジェクトを開始しました。

さて、今年も集まった英文履歴書は315通。書類選考で100名程度に絞り込み、その100名をスカイプによる1時間程度の対面面接で20名に絞り、クライアント企業に候補者として送らせていただきます。

1年目は予想以上に多く集まった英文履歴書を前に、どう学生を選べばよいか途方に暮れましたが、3年目の今年は、少しコツを掴み、三つにポイントを絞って候補者を選考しています。
集まる学生は全てエンジニアの卵たちですが、私は技術に関する質問はせず、彼らが日本や日本企業にフィットするかどうかに焦点をおいて選考します。

■ 日本にフィットするアメリカ人を見分ける ポイント1
<日本に興味があるかどうか>
嬉しいことに日本という国に興味を持ち、日本へ行ってみたい、暮らしてみたい、働いてみたいというアメリカ人は少なくありませんが、どれだけ現時点で具体的に日本を理解しているか、どれだけ接点があるかということは重要なポイントになります。

例えば、食べ物。私自身もアメリカへ移住した経験から、その国の食べ物が好きか、ということは重要なポイントだと分かります。魚が嫌い、お米が嫌い、中にはアメリカの田舎で日本食を一度も食べたことがないという学生もいますが(その場合は、典型的なステーキ&ポテトの食生活が多い)、今回合格しているアメリカ人が好きな日本食は、初級者は”寿司“、”てんぷら“、中級者になると”ラーメン“、”お好み焼き“、上級者になると”さばの塩焼き“、”たこわさ“。日本で暮らしていけますね。

あるいは日本の小説。村上春樹はアメリカでも人気がある日本の小説家で、彼の作品を読んだという学生は多く、その他、夏目漱石、川端康成、芥川龍之介の名前もあがりました。こういった巨匠の作品を理解できている学生は十分に素養があります。
映画で行くと、“千と千尋の神隠し”は今回の応募者のアメリカ人7割が見ていましたが、この映画が好きだと思ってくれるとポイントは高いと思います。日本人の“‘もったいない”と思う心、他人を思いやり、助ける心、銭湯の文化、など、日本を理解してもらうのには本当によくできた映画だと個人的に思っています。
その他、日本のアニメ、漫画、ビデオゲームの大ファンで、ここから日本へ関心を持ってくれた学生も多いですが、きっかけは何であっても日本について興味を持つものがあれば、日本、日本人を理解し、日本に馴染みやすいと思っています。

■ 日本にフィットするアメリカ人を見分ける ポイント2
<日本の企業の強みを理解し、日本の企業文化に共感できるか>
今回応募をしてくれたアメリカ人に、なぜ日本企業で働きたいのか、と聞くと、一番はやはりエンジニアらしく、日本の技術力を敬っているという回答があがりますが、その他、日本企業の文化をあげる学生も多々いました。
在アメリカの日系の鉄鋼企業でインターンをした際に、品質、納期、安全へのこだわりに感動したという学生、同じく日系の重工業系企業でのインターンを通し、残業をしても自分の責任を果たしていく日本人エンジニアの責任感に共感をしたという学生。
チームワークや上司が部下を育てる文化をあげる学生もいます。名古屋大学に交換留学をした学生が、チームとして研究に取り組み、皆が一緒に研究を終わらせていこうとする日本人の姿勢に驚いた、別の学生はロサンゼルスにあるラーメン屋さんでアルバイトをした際に、日本人の店長が惜しみなくラーメン作りのコツを従業員に伝授し、親身に面倒を見てくれたことに感動した。こうした日本企業、日本人との出会いが、今回彼らが日本企業で働きたいと思うきっかけを作ってくれたようです。

残業や終身雇用制、年功序列制と最近の日本では否定的にとられることもある日本の企業文化を彼らが意外にも好意的に受けとってくれていることが新鮮で、彼らの話を聞くことで、日本の企業文化がどれだけすばらしいか、再認識させられることもあります。

日本企業の初任給はエンジニアの場合、アメリカと比較をすると、50%~70%程度、昇進や昇給もアメリカの企業と比べるとなだらか、同僚との差がつきにくい。しかし、その裏に解雇をしない日本企業の姿勢、チームワークを重んじ、人を育てる日本企業の文化があるのですが、ここを理解し、共感をしてくれると、二つ目のハードルは越えられていると思います。

■ 日本にフィットするアメリカ人を見分ける ポイント3
<日本人の心を理解できるか、グローバル人材になれるか>
最後に感覚的なことになりますが、心が通じ合えるかどうか。誇れることではありませんが、私の英語は日本語のアクセントが強いJapanglish。
聞き取りにくい私の英語でどれだけ私が伝えたいことを理解してくれるか、また、自分の英語や語彙をどれだけnon-nativeに向けて、分かりやすく話をしてくれるか。これから日本だけではなく世界を舞台に活躍していく人材であれば、言葉の壁を越えるコミュニケーション能力が必要だと思います。
また、メールのやり取りに関し、アメリカ人はメールの返事が遅く、お礼や挨拶の言葉を省く傾向がありますが、上記のようなコミュニケーション能力を持った学生については、メールの一つ一つが日本人のように丁寧で心がこもり、お礼の言葉が添えられ、心に響くものがあります。こういうアメリカ人であれば、日本の企業の中ではもちろん、どこの国の人とでもアメリカ人である特性を生かしながら力を発揮してくれるのではと考えています。

毎年このプロジェクトが始まると、日本という国、日本の文化、日本の企業文化、日本人、日本のものづくりに敬意を払ってくれているアメリカ人がいることを発見し、日本という国がすばらしい国だとあらためて誇りに思います。日本の企業がこれに気づき、もっと積極的にアメリカ人の採用に取り組んでくれたらということが、私の願いであり、目標でもあります。

現時点では、日本企業の中で、今回依頼をしてくださっている企業のように、日本語能力を伴わない人材の採用に取り組む企業は、言葉の壁を筆頭の理由にまだ少数ですが、個人的には優秀な人材であれば、言葉は後からついてくるもの。日本から優秀な人材がアメリカへ流出することを問題視するのであれば、アメリカからぜひ優秀な人材を日本へ流出させて欲しい、と思っています。

さて、今年は年末年始に、企業の選考を通過した8人が日本の本社での最終面接に挑みます。
1人でも多くのアメリカ人の学生が、日本を拠点に、日本企業で、世界で活躍してくれることを願う今日この頃です。

次回は12月24日(水)更新予定です。

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この記事の著者

Global Career Partners Inc. General Manager

浜崎 日菜子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。日本で信販会社、人事マネジメントコンサルティング会社で7年間の勤務を経て渡米。2005年より現Global Career Partners Inc.の事業立ち上げに携わり現職。米国シアトルを拠点に日米両国の人材紹介・派遣、採用サポート事業に携わる。
アメリカ:人材紹介・派遣情報サイト 仕事探し.com
日本:留学生のための就職情報サイト 帰国GO.com

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