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第50回 「焦らないように」とは言わない
運送会社に勤務時代、ドライバー希望で面接を受けられる人の履歴書を多く見てきました。
面接担当者として、このふたつのフレーズが記載されていたら、採用選考において“ドラフト1位候補”と位置付けていた頃も。
ひとつ目は「志望動機は車が好き」
ふたつ目は「趣味はドライブ」
その場合、プロとアマとの違いを感じていただくために、よくこんな質問をしました。
「いくら車が好きでも、毎日同じ道を走ることに耐えられますか?」
「いくらドライブが趣味でも、大雨や大雪の日にドライブに行きますか?」
ほとんどの人が閉口されたように記憶しています。
個人でドライブを楽しむ際には、“目的地への1分単位の到着時間指定”は存在しないでしょう。
天候などの状況によっては、目的地の変更や出発を見合わせることも有るでしょう。
しかし、プロは違います。
なぜならばプロのドライバーは、趣味やドライブでマイカーを運転しているのではなく、荷主様と配送先様との間で交わされた、「納期や納品方法」に関する約束を代行するために、トラックを運転するのが仕事。
納期の約束を守れなくなるための三大外的要因は「交通渋滞・悪天候・出発時間の遅れ」。
ドライバーはいつもその三大外的要因と対峙しているようなもの。
だから職業柄、約束を守れそうにない時に焦ることは否めないのです。
なので「焦らないように」とは言いません。
焦ることが前提で、安全対策や安全指導を講じるべきだと考えています。
例えば、空調が整った快適な研修会場で「前方の交差点において黄色信号」の写真をご覧いただき、運転中の対処方法を尋ねると、ほとんどの人から「停まります」「減速します」との、優等生的なご意見が返ってきます。
それは室内の研修会場というベストコンディションを保てる状況下だから、冷静に判断して正しく答えることができるのかもしれません。
それでは道の上ではいかがでしょうか?
「約束の時間に遅れそうな時にも、今と同じ判断ができますか?」
「例えば、客先や道の上で腹が立つことが有った直後でも?」
「疲れているから早く到着したい時にも、同じ行動ができますか?」
信号待ちの車間距離も「焦り・イライラ・疲れ」のバロメーター。
感情や体調が低下すると、「日ごろよりも信号待ちの車間距離が短くなる」という、危険行動が表われます。
あらゆる状況を受け入れつつ、一定の成果を出すのがプロの仕事。
だから焦っている時にも、同じ結果を求められるのがプロの宿命。
もちろん「焦らない」ことを指導することも重要ですが、「焦った時にどうするか?」を想定して、安全教育を行うことをお勧めしています。
ありがとうございました。
次回は6月26日(金)を予定しております。
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