第43回 初めての「病院買収」

現在、着々と進められている社会保障改革(プログラム法)の中では、医療法人の合併や権利の移転が進められています。
プログラム法については、第42回のコラムで取り上げていますので参照してください。

第42回 プログラム法って知っていますか?

このような後押し的な政策の有無に拘わらず、ここ数年病院のM&Aが活発に行われています。プログラム法が本格的に実行されれば、さらにM&Aは加速的に行われるのでしょう。M&A後の管理手法として、ホールディングカンパニーに属した医療機関や法人も出現しそうです。

私自身もサラリーマン時代にいくつかのM&Aを経験しました。幸いに、いずれもM&Aをする側の会社にいましたが、M&Aをした会社の業務調査や内部調査などをさせていただいたこともあります。今回のコラムでは、初めて病院をM&Aをした病院が苦労した点などをお話ししようと思います。

経緯

ある日、院長から「相談したいことがあるから来てくれ」と連絡が入りました。すぐに院長室に伺うと、ニコニコした院長先生が、「今度、病院を買うことにした。手伝ってほしい」という内容でした。話を詳細に伺うと、この病院のメインバンクが持ち込んできた話でした。その病院は400床以上の大病院です。数カ所のサテライトクリニックを展開しており、分院はありません。一方、買うことにした病院は100数床の病院です。同じ二次医療圏内の病院で、車で20分程度の距離にある病院で、診療科は内科と整形外科ということでした。
私は、その病院のデューデリ(デューデリジェンス〔注〕)から始めるものと考えていましたが、よく話を聞いてみると既に「買った」ということでした。この時点で、何か嫌な予感がしたのを今でも覚えています。
(注)デューデリジェンス:M&Aの対象施設の資産等調査のこと

改革中心者

「買ってしまった」後で「しまった!」などということの無いように、関係部署等と調整に入り、まずは相手側の病院に訪問しました。
M&Aをするにも、されるにも、さまざまな状況がありますが、今回は相手側の経営状況が長期にわたり悪く、身売りになった背景があります。初めて訪問して、そのような状況になるのも納得の病院でした。平日午前中(もちろん診療はしています)でしたが、患者は高齢者の方が数人。院内は薄暗く、職員は、全く覇気がありません。職員には既に身売りしたという説明は行われていたので、なおさら表情は暗く不安な気持ちで仕事をしていたのだと思います。
施設を一目見て、「これはやばいぞ」と思いました。廊下幅や病室面積などの施設基準が古い基準のままで現在の施設基準に当てはめて運営すると病床を大幅に減少させなければなりませんでした。案の定、許可病床の内、再オープン時には30床減らしてのリスタートとなりました。買収される側の職員に対しては、数回にわたり説明会を開きました。説明内容は、これまでの経緯、新しい契約条件、新しい運営体制等が主な説明内容でした。本院から責任者として、副看護部長が看護部長として着任することになりました。他に看護師が数名異動することとなり、看護部がこのM&Aの中心的な役割を担うこととなりました。

職員の反応

本院の職員は、「大丈夫か?」という反応が大半でした。職員にとっても初めての病院買収であり、自分たちにどんな影響があるのかさえ、想像できないようでした。
一方で買収される側の職員の反応は、「怒り」、「怯え」、「諦め」そして少しの「期待」など複雑な感情が入り混じっている反応でした。

相次ぐ退職

新たなスタートを切る前に、多くの職員が退職していきました。理由は給与や賞与が減ることにあったようです。前述したように患者が少ないので、収益が少ない病院です。それにも拘わらず、年功序列方式で給与を計算してきた病院なので、特に長年勤務している職員の給与は驚くほど高額な方も数名いました。今回のM&Aを機に給与体系を例外なく大幅に見直しましたので、退職者がある程度出ることは計算済みです。退職された方の中には、事務長をはじめとする役職者もいました。
新たなスタートを切ってからも、バラバラと看護部の中から退職者が相次ぎました。本院から赴任した看護部長の方針や、やり方に不満を持つ方々です。退職者が相次ぎましたが、それも3カ月を過ぎようとした時くらいまでのことでした。このような不満分子はM&Aでは、当然出てきます。そのような方々に対して、看護部長は根気よく説明を繰り返し、不安を取り除き、協力を仰いできましたが、最終的には納得していただけない方も出てきてしまいます。このような場合は、決してこちら側が妥協してはいけません。今回のケースでは、非協力、サボターシュなどを誘導するような看護師(役職者)がいましたが、退職していただきました。この方が退職した後は、看護部は落ち着きました。

1年後

M&Aをして1年が過ぎましたが、まだ黒字経営には至っていません。しかし、内装を明るい雰囲気に変更し、職員の教育にも時間とお金をかけて、さらに医師をはじめとして不足している人員を投入することにより、徐々に数値は良くなってきています。病床はいまだにもとの病床数には戻っていませんが、整形外科の手術症例を増やすことを目的に地域住民への医学講座なども積極的に開き、広報活動もしっかり行っています。患者への接遇研修実施後は、患者への挨拶を必ず実施するようにしました(驚くことに今まで、職員は患者に挨拶をしていませんでした)患者満足度調査を実施しましたが、今までは「職員が怖かった」「(患者が職員に対して)気を遣っていた」などの意見があり、大きく変化した点として、患者から評価していただきました。もちろん職員にも伝え、共に喜んだのは言うまでもありません。

反省点

今回のケースは看護部が中心に取り組んだM&Aでした。診療の中心は医師、看護師ですから、大きな誤りではなかったと思いますが、その看護部長をサポートする事務系の職員の働きが弱かったと反省しています。特に事務長が退職し、唯一残った役職付き事務系職員(課長職)を事務長にしましたが、知識に大きな偏りがあり、また当人も戸惑いながらの業務であり、すぐに相談できる職員を配置しなかったのは失敗だったと思います。本院から必要に応じて随時対応することで、フォローできると考えましたが、最低1名は事務系職員を赴任させるべきでした。事務仕事においてもそうですが、赴任させた看護部長の精神安定剤的な役割も担えると思います。

先日、職員の満足度調査を実施しました。給与などの処遇面では不満はあるものの、やる気などの勤労意欲は高く、継続して勤務したいと答える職員も多くいました。自由意見記載欄では、病院の経営的な観点から提案があったり、患者のためにという視点からの提案があったり、非常に多くの建設的な意見がありました。
本院の院長からは「来年には黒字に持って行けそうだ」と言われました。赤字の経営は不幸です。黒字にして初めて、患者サービスの充実、職員への投資、施設設備への投資が可能になります。

皆さんは、どう思いますか?

次回は7月8日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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