第44回 医療事故発生時のメディア対応

平成26年6月18日に成立した医療法改正の中に「医療事故調査制度」が盛り込まれました。

医療事故調査制度について(厚生労働省Webサイト)


出典元:厚生労働省Webサイト 医療事故調査制度について概要図より

この医療事故調査・支援センターの事故報告書は、再発防止などが主目的であり、医療訴訟などには使用できません。

近年、医療訴訟などが増加していますが、医療事故と医療過誤の違いを明確に答えられますか? 医療関係者の中にも、認識違いで少々危なっかしい方もいるのではないでしょうか。

医療事故とは、疾病そのものではなく医療を通じて患者さまに発生した傷害(an unintended injury caused by medical management rather than by the disease process)を意味し、合併症、偶発症、不可抗力によるものも含まれます。医療事故は「過失によるもの」と「過失によらないもの」に大別され、前者が医療事故防止の対象となります。例えば、患者さまが病院内の廊下で転倒した場合などの医療行為とは直接関係ないものも含みます。

医療過誤とは、「患者さまに傷害があること(injury)」、「医療行為に過失があること(negligence)」、「患者さまの傷害と過失との間に因果関係があること(causal relationship)」の3要件が揃った事態を意味します。

すなわち、「医療過誤は医療事故の1類型である」ということです。「過失のある医療事故が医療過誤」と言い換えてもよいかもしれません。また、医療ミスという言葉もよく聞かれると思います。一般に医療過誤と同意語として用いられていますが、「医療行為に過失があること」が立証されていない段階では、医療過誤とは言い切れません。うっかり医療ミス、医療過誤という言葉を使うのは危険です。

インシデントレポートを集めて、医療事故の発生を防ごうとするなど、医療機関の現場はさまざまな努力をされています。このコラムでも「リスクマネジメント」のことを第35回のコラムで書いていますので、ご一読ください。

第35回 医療機関のリスクマネジメント

しかし医療事故を発生させないようにいくら努力しても、医療事故発生率を「0」にすることは不可能です。そしてある日、医療事故が発生してしまったら、あなたはきちんと対応できる自信はありますか? 事故発生時に、最初に対応を考えなければならないのは、被害者への対応であることは、言うまでもないことです。そして近年注意しなければならない点として新たに指摘したいのが、マスコミなどのメディアへの対応です。

「メディア」、特にテレビでは医療をとり上げることが多くなりました。
医療現場で奮闘する医師や医療従事者のドキュメンタリー、医師を主人公にしたドラマ、地域における医療施設の新たな取り組み、最新の医療技術の紹介などなど。挙げればきりがありません。特徴としては、最近はどちらかというと医療関係者を肯定するものが多くなっているように感じます。フリーアクセスながら安い医療費の陰で、疲弊する医療現場の苦難を、メディアの人々も感じ取っているからかもしれません。しかし、つい最近まで真逆の時代がありました。医療過誤ということで医師が刑事告訴される事件が相次ぎ、激しい医療バッシングが起こった1990年代後半から2000年代前半の時期です。「医師は犯罪者、患者は被害者」の構図をメディアが好んで? 報道したことで、患者側は治療に疑心暗鬼となり、正当な医療行為についても疑いの目を向けるようになりました。メディアは、正しいものの味方とは限らないということをしっかり覚えておいてください。

どんなに医学的に正当な医療行為であっても、特に身内を亡くされた遺族にとっては、その悲しみや怒りをどこかにぶつけないと収まらないこともあります。実際に事件性がないと弁護士が判断して、遺族を説得しても納得されない方は多くいます。そのような孤立してしまった遺族が最後に取る手段が、メディアを味方につけてのバッシングです。

たとえどのようなケースであれ、きちんと説明することは必要です。まずは遺族に対して説明を最初に行うことを考えますが、先方が感情的になっており面会を拒否されることもあります。そしてさらにメディアへの説明も必要です。メディアに対しては、少なくとも経緯や経過説明は、しておいた方がよいでしょう。複数社のメディアが来ている場合は、個別に対応するよりも、説明する機会を設け、対応することがポイントです。説明する日時までに、どのような質問がきても、説明できる資料などを準備しておきましょう。説明機会を設けるということで、説明資料の準備などの時間が稼げます。時にはその準備期間に想定問答を考え、ロールプレーイングやリハーサルを行います。過去の医療関係者の記者会見で、「頭を下げなかった」院長が映像で流れ、違う方向のバッシングに繋がったこともあります。むやみに謝罪する必要はありませんが、熱心に説明する姿を演出することが重要です。

悲しいことではありますが、メディアに良い印象を持たれると報道内容の論調が和らぐことがあります。最も悪い対応は、メディアへ全く何の説明もしないことです。説明がない → 説明できないことがある → 悪いことをしている、といった思考にメディア側は陥り、あることないこと騒がれてしまいます。特に週刊誌は書きっぱなしで、何の根拠も示されないことが多く、部数を伸ばすことが目的なのかと疑ってしまうこともあります。さらに影響が大きいのはテレビです。テレビの編集技術は非常に巧みで、視聴者にどのような方向にでも、誘導できるように編集が可能です。編集者の気持ち次第ということです。

きちんと真摯に対応すれば、報道が過熱するのは、(医療過誤ではなく医療事故であれば)2、3日で下火になることが多いです。まるで何もなかったように、メディア報道はなくなります。

報道の自由と言われますが、メディアは、ありもしないことでも、あったかのように見せることが可能です。関係する方々には、ぜひ話題性や風潮に流されず、真実を報道してほしいと願います。いつ、なんどき、なにをきっかけにして、またバッシングが始まるかわかりません。メディアも諸刃の剣であり、その報道が社会の役に立つこともあれば、悪影響を及ぼすこともあります。また、医療においては、最終的には全て人が行っていることなので、絶対はないのです。もちろん、医療事故の発生を防ぐ努力は怠りませんが。そうした医療の本質に対して、医療従事者も患者さんも、きちんと理解を深めれば、メディアがどんな非合理的な報道をしようとも、振り回されたりはしないでしょう。

正義と真実を伝えるために頑張るメディアの原点を忘れないでほしいものです。

皆さんは、どう思いますか?

次回は8月19日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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