第49回 新しく始まった医療事故調査制度について

過去のコラム(第44回)で医療事故発生時のメディア対応について書きましたが、今年10月から医療事故についての新しい制度がスタートしています。

第44回 医療事故発生時のメディア対応

「医療事故」というと、医療者の医療行為や医療施設の設備、システムに原因を発した全ての有害結果を指し、医療者、管理者の過失に基づくものだけではなく、不可抗力による場合も含まれます。しかし、今回新たにスタートした医療事故調査制度では、少し異なる部分もありますので注意が必要です。

新たにスタートした医療事故調査制度の設立目的は、医療事故の再発防止を行うことにあります。医療事故の原因を追究したり責任を追及したりすることではありません。この点は大きな特徴です。

医療事故調査制度を運用する際の6つのガイドライン

1.ご遺族への対応を第一に
当然ですが、患者様が死亡された時、迅速に実施すべきことはご遺族への対応です。ご遺族との間で上手にコミュニケーションをとっていないと予想外の紛争を招くこともあるので注意が必要です。

2.法律に則った内容であること
新たにスタートした制度ですので、詳細な点まで明らかになっていませんが、安易に解釈を拡大することは危険です。法律・省令・通知が求めている内容と、管理者の裁量に委ねられている部分をきちんと理解しましょう。厚生労働省のホームページ内にもQ&Aがありますが、これも一つの解釈に過ぎません。その証拠にこのページに「参考」と記載があります。

3.医療安全の確保が目的
特徴の一つとして、前述で紹介しているように本制度は再発防止等の医療安全の確保が目的です。いわば医療安全の学習の場であるということです。したがって、原因分析は実施しますが、原因追究は目的ではありませんので実施しません。

4.非懲罰性と秘匿性
ガイドライン3に関連して、再発防止が目的であり、事故当事者(報告者等)を懲罰することは目的ではありません。報告書についても情報の秘匿性が重要です。仮に責任追及に繋がる様な情報の提供を強要した場合は、人権侵害にもなりかねませんので注意してください。

5.調査は院内調査が中心。地域ごと、病院ごとの特性に合わせる
まず、医療事故が発生したときに、その医療事故が新たに設立した医療事故調査・支援センターに報告すべきかどうかを判断することになります。この判断は管理者の判断です。そして、報告事例だということになった場合、次に事故調査を行いますが、この調査は医療機関自身で実施することになります。医療事故の調査には費用も時間も人員も要します。医療機関の規模や余力の範囲内で調査を行って良いということです。

6.本制度によって、医療崩壊を加速してはいけない
本制度が漫然と広範囲で適用されれば、医療現場の負担は計り知れません。医療機関の本来業務へも支障が出ます。これは医療安全を目的とする本制度の趣旨から矛盾することにもなります。

報告対象となる医療事故とは?

コラムの冒頭で書いた医療事故の定義とは異なります。本制度の報告対象となる医療事故とは、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡、または死産であって、当該管理者が当該死亡または死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」を言います。提供した医療に起因してかつ、予期しなかった死亡ということです。(2つの条件が整った場合のみ報告となります)

では予期しなかった死亡とはどんな死亡なのでしょうか?死因を予期しなかったということは問題ではなく、「まさか亡くなるとは思わなかった」という状況を指します。手術、処置、検査など実施する前に患者さんに説明すると思いますが、説明内容の中に「生命に危険がおよぶこともあり得ます」とあれば、予期しなかったという条件は外れます(報告対象外となる)。同意書を取る・カルテに記載しておくことが重要です。

それでは提供した医療に起因とはどんなことでしょうか?手術、処置、投薬、検査、輸血等の医療行為を提供した場合を指します。原病の進行は医療に起因した死亡には該当しません(報告対象外ということ)。さらに火災、地震や落雷などの天災や別疾患の進行、自殺、患者自身の危険行為、犯罪行為、転倒転落、誤嚥、隔離、身体拘束、褥瘡、食事、入浴も医療行為とはみなされませんので、報告対象外となります。

事故発生から報告まで

事故発生から医療事故調査・支援センターへの報告までの流れは図の通りです。

目安になる時間軸は、報告すべき事故かどうかの判断は事故発生から1カ月以内。報告対象となった場合、医療事故調査・支援センターに報告書を提出するまでが事故発生から3カ月以内が目安です。調査期間は2カ月間ということになりますね。

出典:厚生労働省

事前準備

院内の規定の整備

今回の制度で混乱する点が、報告すべきかどうかの判断になります。事前準備として、報告対象かどうかの判断するロジック・システムをあらかじめ構築しておくと良いでしょう。また、報告かどうかの判断に迷った際の相談窓口や解剖やAiが必要になった時の支援団体候補の選定もあらかじめしておくといざという時に慌てないですみます。

報告対象かどうかの最終判断は管理者ですが、院内に医療安全委員会があると思いますので、その委員会で仮判定することが現実的だと思います。この委員会は調査を実施することになった時に、医療事故調査委員会となることも想定します。この他に決めておく規定、見直す規定としてカルテ開示や公表規定、警察への届出規定なども一度確認しておくと良いでしょう。

医療事故調査の進め方

報告対象であると管理者が判断したら、まず医療事故調査・支援センターに事故発生の報告書を提出します。その報告書に記載すべき内容は以下のとおりです。
【1】死亡の日時、場所、診療科
【2】医療事故の状況
【3】疾患名、臨床経過等
【4】報告時点で把握していること
【5】調査により記載事項の変更があること。その時点で不明であれば不明と記載
【6】連絡先
【7】医療機関名、所在地、管理者の氏名
【8】患者情報(性別、年齢)
【9】その他、管理者が必要だと認めた情報

調査の留意点

調査項目は、臨床経過と死亡の原因分析です。責任追及や紛争解決が目的ではありません。従って、非懲罰性と情報の秘匿性を厳重に確保する必要があります。事故調査のメンバーに事故当事者を除外する必要もありません。

事故調査報告書の作成

報告書の内容は、医療安全が目的です。客観的な事実の記載で、匿名化、非識別性を保つことが必要です。複数の見解がある場合は、併記しておきます。この報告書で注意すべき点は公表の必要は無いということです。ホームページへの掲載や、記者会見なども必要ありません。ご遺族に対しても同様です。(ご説明は真摯に実施)

新たな医療事故制度が10月から始まりましたが、10月末時点で医療事故調査・支援センターに事故報告の一報が入った件数は20件です。内訳は病院が15件、診療所が5件です。診療科別では消化器外科が5件と最多で、次いで産科が4件でした。手術、出産の場面が多いということでしょう。今後件数は増加すると予想されますが、本制度は決して医療従事者を非難、卑下するものではありません。むしろ医療機関、医療従事者を守ってくれる制度です。再発防止策が世の中に浸透し、同様の医療事故を減ることを願います。

皆さんは、どう思いますか?

次回は2016年1月13日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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