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メタバースコマース(メタコマース)とは? 国内事例を紹介
仮想空間で現実世界と同じようなコミュニケーション・行動をとれるメタバースへの注目度が急激に高まっています。最新技術に敏感なスタートアップやIT企業だけではなく、自治体や大手小売業なども積極的に参入していることからも、多くの企業がメタバースに大きな可能性を感じていることがうかがえます。
メタバース上で商品・サービスを提供するメタバースコマースは、顧客との新たな接点として特にビジネス価値が期待できる分野です。この記事では、バーチャルな空間で商品・サービスを提供するメタバースコマース(メタコマース)について紹介します。
メタバースコマース(メタコマース)とは
メタバースコマースとは、メタバースと呼ばれる仮想空間上で商品を売買することを指します。メタコマースとも呼ばれます。
2020年の国内物販系EC市場規模は12兆2,333億円で、前年比20%以上増と年々増加しています。さらに2020年4月に発令された非常事態宣言により、オンラインで商品を購入する人が一層増加しました。
参考:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省Webサイト)
それに伴い実店舗とは異なる顧客接点として、企業も力を入れ始めています。ECサイトだけでなくInstagramのショッピング機能に代表されるSNS経由の販売、動画の生配信で商品を販売するライブコマース、Zoomといったビデオ通話サービスを利用したオンライン接客など、さまざまなチャネルが注目され、活用されています。
中でもメタバースコマースが注目されている理由の一つは、オンラインで現実世界と近い体験ができる点です。3DCGで作られたクオリティが高い店舗でアバターによる接客を受けるといった、商品を買うだけでなく「買い物をする」体験そのものを楽しめることが、他のチャネルと異なります。
そもそもメタバースって?
メタバースとは、自分の分身となるアバターがインターネットの仮想空間上で現実世界と同じような体験やコミュニケーションを行うサービスです。名前は、超える(meta)と世界(universe)を組み合わせた造語から来ています。
ユーザーは、アバターを通じてイベントやショッピングなどを楽しめます。
デジタル空間でのコミュニケーションという点ではSNSと共通しますが、空間そのものをサービスとして提供し、より現実と近い体験ができる点がメタバースの特長です。
メタバースの先駆けとして、かつて大きな話題となったサービスにセカンドライフがありますが、当時は技術の貧弱さや端末性能の低さといった問題で普及にまでは至りませんでした。しかし現在のメタバースは、VRやセンサーなどの技術進化に加え、回線速度や端末性能の向上によりストレスなく高精度のグラフィックを表示できます。さらに、ユーザー側も若年層を中心にオンラインコミュニケーションに対する抵抗が少なく、仮想空間に対してハードルが低いという特徴があります。そのため、メタバースは次世代コミュニケーション手段として期待されています。
メタバースコマースの国内事例3選
国内におけるメタバースコマースの場として知られるのが、株式会社HIKKYが運営するバーチャルマーケットです。これはメタバース上で商品を売買できるイベントで、2021年12月に開催された第7回「バーチャルマーケット2021」では、NTTドコモ、ドンキホーテホールディングス、テレビ朝日など、約80社が出展し100万人以上が来場しました。
ここでは、過去に開催されたバーチャルマーケットの出展から3例を紹介します。
仮想都市を活用した買い物体験
大手小売業の三越伊勢丹は、博報堂グループらと協業して独自のメタバース「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」を2021年から開始しています。仮想の新宿上で「仮想伊勢丹新宿店」を営業し、ファッションアイテムやデパ地下グルメなどを販売しています。
実際の店頭スタイリストがアバターとしてオンライン接客を行うほか、バーチャルでのイベント開催やアバター向けファッションパーツの提供など、ユーザーを飽きさせない工夫を多数試みています。
バーチャルマーケットでは「バーチャル伊勢丹」として出展し、プライベートブランドNTの実店舗と同じシューズやアバター向けアイテムなどを販売しました。
食品3Dモデルを活用したグルメ商品の販売
大丸松坂屋は、過去3回バーチャルマーケットに出展し、2022年8月にも出展するなど継続的に「バーチャル大丸・松坂屋」を展開しています。
2021年12月に開催したバーチャルマーケット2021では、年末年始向けのグルメ商品やバーチャル空間内で楽しめる食品3Dモデルを販売するほか、100人以上が参加する「メタバース宴会」と銘打ちオンライン接客を実施するなど、次世代型商品販売の場として新しい試みを行っています。
三越伊勢丹がリアル感を重視しているのに対して、大丸松坂屋は和テイストの外観のビルを展開するなど、バーチャルならではの場を作り上げているのが特徴です。
アバター&リアル商品の販売とバーチャル接客を実現
大丸松坂屋と同様、継続的に出展しているのがセレクトショップ・ブランド展開を行うBEAMSです。スタッフアバターによるバーチャル接客に注力するだけでなく、過去にはアイドルのアバターを登場させたり、バーチャル銭湯を出現させたりと新たな試みを重ねる中でメタバースコマースのノウハウを蓄積しています。
バーチャルマーケット2021では限定商品の販売、映画『浅草キッド』とのコラボで昭和の浅草を再現した「バーチャル浅草」の展開、実商品をコーディネートしたオリジナルアバターの販売などを行いました。
メタバースコマースのメリット
メタバースコマースは、前項で紹介した百貨店、アパレルだけでなく、幅広い業界からの参入が進んでいます。
ここでは企業がメタバースコマースに取り組むメリットとして、代表的な三つを紹介します。
新規顧客が開拓できる
地方在住などで実店舗へ来店が難しい顧客でも、メタバース上の店舗を訪れ、アバターによる接客を受けられます。また、セキュリティなどの理由で国内利用に制限している場合を除き、メタバースは世界各国からアクセスできる強みがあります。日本全国の顧客にきめ細やかな接客をして商品を販売したい、海外在住者にもアプローチする手段を増やしたいといった企業であれば、メタバースコマースは魅力的な選択肢でしょう。
またメタバースコマースは、実世界に近い買い物体験をオンラインで受けられる場という強みがあります。そのため、バーチャルイベントをきっかけに商品を購入してもらうなど、新規顧客開拓の場としても期待できます。
コストの削減につながる
実店舗を出店する際には土地代(テナント料)、光熱費、設備費用、人件費など、高額の費用がかかります。今はまだ多くの企業が試行錯誤している段階であり、実店舗とバーチャル店舗を比較するのは困難です。しかし、将来的にメタバースコマースが軌道に乗れば、開発費、サービス運営費、運営人件費が主な費用となるメタバースコマースの方が、実店舗運営よりもコストを削減できる可能性があります。
またメタバースコマースでは、アバター向けのアイテムが販売できます。実商品として製造するにはコスト的に難しい場合でも、デジタルアイテムであれば製造コストを抑えられ、在庫リスクもありません。
接客の質が上がる
メタバース上のバーチャルショップでは、店舗スタッフのアバターによるオンライン接客が可能です。ヘッドマウントディスプレイを用いることでスタッフの動きとアバターが連動するため、ビデオ通話サービスによるオンライン接客と比較して、より自然で実世界の体験と近い接客ができます。
メタバースコマースのデメリット
メタバースコマースにはデメリットもあります。自社で参入を検討する際には、以下三つのデメリットにも注意する必要があります。
利用環境が整っていない
メタバースには、ブラウザーベースやスマートフォンベースのもののほか、VRのヘッドマウントディスプレイが必要なものがあります。前者は利用ハードルが低いのがメリットですが、その一方でVRの没入感を味わうと言った本格的な体験は困難です。
メタバース上の利点を生かすためには、ヘッドマウントディスプレイなどユーザー側の環境も整っている必要があります。
参入事例が少ないため手探りになる
メタバースはまだ国内事例もそれほど多くないため、経験を積みノウハウを持った人材が不足している状況です。したがって、企業がプラットフォーム選定や企画立案などを行う際には、試行錯誤しながら行うことになります。
また、メタバースは依存症のリスクや、個人情報漏えいといったセキュリティリスクが考えられます。メタバースコマースに取り組む企業は、それらに対して対策を行う必要がありますが、事例が少ないためオンラインゲームなど、類似分野を参考に対策を模索していく必要があります。
従来のECサイトの方が利便性に優れる場合がある
新規性・話題性には優れていますが、純粋に商品を購入したいユーザーにとっては、通常のECサイトの方が手軽で利便性が高いと感じられる可能性があります。
メタバースコマースを利用したいと思わせるしかけづくりが求められます。
メタバースコマースの将来性は?
メタバースの市場規模は米通信社のブルームバーグはメタバースのグローバル市場規模を2020年で4,787億ドルから、2024年には7,833億ドルにまで成長すると予測しています。
参考:メタバース、次世代技術プラットフォームの市場規模は8000億ドルに達する可能性(ブルームバーグWebサイト)
特にアバター向けのファッションアイテム販売など、アパレル業界との親和性が高く、今後ファッションブランドやメーカーなど、アパレル企業の参入が増えていくと考えられています。
現在はさまざまなメタバースサービスがそれぞれサービスを提供していますが、近い将来には淘汰(とうた)され数個の巨大サービスに収束するとみられています。
企業にとってメタバースコマースは新たな顧客接点となるだけでなく、実店舗、メタバースへの相互送客手段になりえます。店舗スタッフがアバターとして顧客とコミュニケーションを行ったことが実店舗へ実際に足を運ぶきっかけになったり、実店舗でスタッフから勧められてメタバースを訪問したりするなど、上手に活用することで相乗効果が期待できます。
まとめ
メタバースコマースは、ECサイトにはない「実世界と近い体験ができる」という特徴を持つことから、次世代の商品販売チャネルとしてアパレル業界をはじめ多くの企業に期待されています。今まで接点がなかった顧客を獲得する機会として、またアバター向けアイテムなど新たな商品開発の機会としても優れています。
近い将来にはさらに大きな市場に成長すると予測されているため、競合が少ない今こそ取り組むチャンスでもあります。本記事を自社の参入可能性を考えるきっかけにしていただければと思います。
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