【コラム】食の安全を担保する近道は国際標準への対応

「食」の高い安全性に応えるためには、いつどこで、だれが、どのような方法で……といった生産から物流、加工、販売といった一連の流れのなかで安全を担保するための仕組み作りが急務です。

[2018年12月13日公開]

この記事のポイント

・食の安全に対して、国際的に通用するルールや制度化の実施が求められ、「食」に関わる企業に新たな取り組みが求められています。
・5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)から始め、だれが実施しても、衛生管理の一定レベルを保つという目的が果たせる取り決め、システム作りが大切です。

東京オリパラ2020に向けて高まる「食の安心・安全」への関心

東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京オリパラ2020)の開幕まで2年を切り、開催に向けた準備が加速してきました。大会期間中に約1,500万人の訪日客が予想されています。4年に1度開催される国際的な大会ですので、注目度は非常に高いでしょう。私の専門分野である食品関係においては、東京オリパラ2020を機会に、海外からのアスリートや要人対応として国際的に通用するルールや制度化を進めています。

食品は、農家の生産から物流・流通・加工を経て、消費者まで届けられますが、このような物の動き、流れを「サプライチェーン」と呼んでいます。食品は、何を持って「安全」ということができるでしょうか。一つの答えとして、食品流通が複雑化した現在では、このサプライチェーンで安全性が担保されていることが大切です。同時に物の流れを「見える化」する必要があり、これを「トレーサビリティ」(追跡調査が可能な流通)といいます。

サプライチェーンの中から川下の外食産業を例に流通段階を見ていくと
「(1)農場生産→(2)運搬・流通(→市場・卸売・小売)→(3)一次加工→(4)運搬→(5)二次加工→(6)運搬→(7)店内調理→(8)提供」
となります。生産から販売までそれぞれの安全性を担保して安全な食品で流通するように、農場ではGAP(注1)、食品加工場ではHACCP(注2)の制度化が進められています。

国際オリンピック委員会は、会場で使用する食材の安全性を強化するために、GAPやHACCPなど適合性を第三者が評価できる国際認証制度の取得を求めています。つまり、中小企業にとってもHACCP導入という現実が迫ってきています。

食に対する消費者の安心・安全の関心は非常に高くなっているため、このような制度化は食品業界が先行していますが、実はほかの業種においても求められるものです。一般製品においても欠陥による事故や不具合の発生の報道が目立つようになりました。業種に限らず、サプライチェーン間での安全性とトレーサビリティが重要になってくるのです。そこで、今回はGAPやHACCPのような国際認証制度を中小企業が導入する意味を解説します。

  • (注1)GAP (Good agricultural practice) :GAP(農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組みのこと。
    出典:農林水産省Webサイト 農業生産工程管理(GAP)とは
  • (注2)HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point):HACCP(危害分析重要管理点)とは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようする衛生管理の手法です。
    出典:厚生労働省Webサイト HACCP(ハサップ)

食のサプライチェーンの「共通言語化」

食品業界ですが、その流通を複雑にしている理由は「生産から販売」まで多くの工程を必要とし、中小・零細企業が大部分を担っています。農場生産の国内生産において国内農家の件数は約125万戸で法人化率は1.5%ですから、ほとんどが家族経営で成り立っています。栽培管理・肥培管理を全て記録している生産者だけではありませんので、次工程の者がその原料の安全性を担保するためにどうしたらよいかが課題となります。次工程の中間物流や食品製造も、多くの食材・商品を取り扱う中で監査機能を発揮し自ら安全性を担保していくことは難しいのです。
次工程の者も農場にずっと張り付いて見ているわけにもいきませんので、本来は第三者認証の検証で安全性を担保していることを確認します。しかし、これらの第三者認証を導入することは時間的にも費用的にも負担がかかるので、全ての生産者が合意して実行できるわけではありません。そこで、これまでは、消費者団体などでは自ら農場に出向き、確認をする二者認証(生産者と消費者間の相互で確認)を行ってきたのです。しかしこれでは、国際認証制度に適応できているとは言えません。

国際認証制度を導入する効果として、大事なことは、農場や食品工場が自らルールや制度化を行うことで、食品の安全性を担保できるだけではなく、作業効率を高められることです。それは、作業用具の定位置地管理や在庫の記録管理、使用量の適正化により作業効率を高め、生産費を下げることで採算が取れると導入された方は言います。また、誤って農薬を基準値以上に使用しても、区分管理のような仕組み作りができていれば、事故を未然に防ぐことができます。

どの国際認証制度でも一般衛生管理や衛生標準作業手順を定めています。いわゆる5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)から始め、だれが行っても衛生管理の一定レベルを保つという目的が果たせる取り決めを行います。これは、農場でも加工場でも食品を扱っているので同じです。

それでは、何から取り組めば良いのでしょうか? 私も良く質問を受けますが、まずは2S(整理・整頓)からをおすすめしています。整理・整頓、つまり、いらないものを捨てて、必要なものを定位置管理することで、生産性も向上させていくことができます。また、農業生産の現場ではこれまでSSOP(注3)や一般衛生管理プログラム(注4)、5Sなどの言葉は一般的ではありませんでしたが、第三者認証に取り組む農家さんが増えてきたことから理解が進みつつあります。私が最近、工場の衛生管理担当者でもある第三者認証の検査員からお聞きした「農家に出向いても共通言語で話せるようになった」と言われたのは象徴的でした。これこそ、「サプライチェーンのなかで食の安全が追求できているな」と感じた事例です。

このように第三者認証制度を活用することによって、現場の管理レベルが向上するだけでなく、現場間で共通言語で話すことができるようになることも大きな利点といえるのです。

  • (注3)SSOP(Sanitation Standard Operating Procedure):SSOP(衛生標準作業手順)とは、HACCP用語の一つで、SOP(Standard Operating Procedure・標準業務手順書)のうち、特に使用機器や手指の洗浄・ 殺菌や機器の衛生管理など、食品の取り扱い環境から危害要因の汚染や混入を防ぐための手順書のこと。
  • (注4)一般的衛生管理プログラムとは、製造環境の衛生管理、従業員の衛生管理、食品取扱者の教育・訓練、記録の必要性など、HACCPによる食品衛生管理を実施するうえで整備しておくべき食品製造の衛生管理プログラムのこと。

食品の安全性担保にはコストがかかっていることが忘れられがち

東京オリパラ2020に向け、食品業界では、GFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアチブ)をベンチマークしている認証資格をはじめ、さまざまな認証ができつつあります。どの認証制度であれば国際基準として、認知されているかの判断が求められ、今後もさまざまな国際認証制度への対応が求められることでしょう。

日本はこれまでも、厚生労働省を中心に食品安全に取り組んで来ました。また、消費者庁や農水省、内閣府と食の安全を守る行政も多部署にわたります。これまでの対応で十分ではないか、との意見もありますが、毎年食中毒が発生していることからも分かるように万全とは言えず、食の流通は前述のとおり、複雑であり、今後も新たな課題が出てくると想定され、サプライチェーンを通じて対応していく必要があります。こうした安全性を担保する管理コストをだれが負担するのかというと、最終的には消費者が負担することになりますので、これらの国際認証制度も含めて管理コストを負担することによって食品の安全性が担保されていることの理解を深めていく必要があります。

他業種においてもこのようなサプライチェーンを管理することやそれを評価する国際認証制度を確認してみてはいかがでしょうか。それによってブランド価値を確保し、国際市場における自社の競争力強化にもつながります。

ゲスト紹介

三海 泰良 氏 プロフィール

中小企業診断士
サンカイコンサルティング中小企業診断士事務所 代表
三海 泰良(さんかい やすよし)

大学卒業後、農業団体にて営業・販売・企画・経営管理・新規事業開発などを行う。
2013年中小企業診断士登録。創業スクールの事務局・講師(中小企業庁創業スクール10選受賞)など数多くの起業を支援しつつ、事業再生、事業承継に取り組む。
主な著書に「業種把握読本改訂版(共著)」「TOKYO+ひときわ輝く商店街(共著)」など、食品衛生協会「食と健康(月刊誌)」に連載中。

サンカイコンサルティング中小企業診断士事務所

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