【コラム】地域密着でもうかるビジネスモデルの秘密(小売業の場合)

中堅・中小企業が大手に勝つための戦略の一つが地域密着。成功のカギは、「勝ち組」のモデルをまねるのではなく、モデルに魂を込めるための「経営理念」が大切です。

[2017年10月12日公開]

この記事のポイント

・ターゲットを定めた他社にまねのできないサービスを提供するオンリーワン戦略と、大手の参入を阻止する地域ドミナント戦略。これが地域に密着したビジネスを成功に導く。
・ビジネスを行うのはあくまで人であり、経営者と従業員が一体となって同じ方向へ進むための共通の価値観、つまり経営理念が不可欠です。この経営理念こそ、ビジネスモデルに命を与えるものなのです。

はじめに

地域密着で元気の良い企業。皆さんの地元にも必ず何社かあるでしょう。今回は生活に身近な小売業を題材に、高齢化や人口減に苦しむ地方エリアにおいて、地域密着でもうかる企業の、ビジネスモデルの秘密に迫ります。

地域密着で勝つ2つのパターン

私は、地域密着で勝つ企業のパターンには2通りあると考えています。一つは単独店舗で、そこでしか手に入らない商品やサービスを提供する企業です。いわばオンリーワン型の企業。それを求めて地元だけでなく遠方から顧客が訪れることも珍しくありません。「地元の人気店」と言われる飲食店、小売店、旅館などが典型例です。

もう1つのパターンは特定の地域に集中出店し、地域一番店の評価を確立している企業です。皆さんの周りにも、特定エリア内で多店舗展開し、地元では「生鮮食品なら○○」、「焼き肉と言えば××」などと言われるスーパーや飲食店のチェーンがあると思います。

いずれも地域密着型ですがビジネスのやり方は異なります。具体的にどのような点が違うのでしょうか? それを分かりやすく可視化するために、ビジネスモデル・キャンバス(以下BMC)と呼ばれるフレームワークを使ってご説明します。BMCは米国の経営コンサルタント、アレクサンダー・オスターワルダーらが考案した手法で、ビジネスモデルを顧客、価値提案、販路、経営資源など 9つの要素に分解し、1枚の図に描いて表現するものです。

ターゲットを決め、マネできない価値を提供するオンリーワン戦略

まず、商品やサービスの品質や独自性で勝負するオンリーワン戦略のビジネスモデルを考えます。東京の町田市にある家電販売店「でんかのヤマグチ」を事例に、同社のビジネスモデルをBMCで表現したものが図表1です。

でんかのヤマグチの特徴は、ターゲットを地元のシニア層に絞り込み、購買履歴から顧客をランク付けして、訪問営業や出張工事など「何かあれば飛んでいく」きめ細かいサービスを行うことです。道で出会った顔見知りの顧客を通院先の病院まで営業車で送ってあげるような「裏サービス」にも力を入れ、顧客の心をがっちりつかみます(注1)。そうした付加サービスを武器に大手家電量販店との価格競争を回避し、安売りでない価格でリピート買いしてもらえる関係を構築します。大手ではまねできないレベルまでサービスを徹底するからこそ、それが可能となります。

オンリーワン戦略でもうかるビジネスモデルの秘密は、ターゲットとする顧客が喜ぶ価値(品質、味、サービスなど)を提供しているか、そしてそれが簡単にまねできない内容や方法で提供されているか、という点にありそうです。万人受けではなく対象顧客からの強い支持を狙うわけです。

大手の参入を困難にする地域ドミナント戦略

次は特定地域に集中的に店舗展開する「地域ドミナント」と言われるビジネスモデルです(ドミナント(dominant):「支配的な」「優勢な」「優位に立つ」)。一般に地域ドミナント型の出店は店ごとの商圏が狭いため、地域の顧客にとっては近くて便利。そうやって地域内のシェアを総取りし、競合が参入できない状態を作ります。また集中立地で配送コストを節減できる点も重要です。地域ドミナントの事例としては、北海道でコンビニ「セイコーマート」を展開するセコマが有名。同社は全道179市町村のうち173市町村に出店し、人口カバー率は99.8%の高さです。また道内店舗数も業界大手のセブンイレブン(975店)、ローソン(637店)、ファミリーマート(243店)を上回る1,089店を展開しています(注2)。そんなセコマのビジネスモデルをBMCで整理したものが図表2です。

セコマの特徴は「自前化」の徹底です。店舗は直営店が8割弱を占め、また生鮮食品の生産・加工から店舗への配送までグループ内企業で一貫体制を構築しています(注3)。道内隅々にまで出店し、また地域住民の買い物ニーズに応えるための豊富な品目の品ぞろえと配送、PB開発、店内調理などを思いどおりに行うためと考えられます。

地域ドミナントを展開する企業としては、食品スーパーの平和堂(滋賀県彦根市)やサンエー(沖縄県宜野湾市)、ハンバーガーのラッキーピエロ(北海道函館市)なども知られています。これらの企業に共通するのは、大手チェーンが参入してこない程度の広さの市場で地域一番店の評価を確立し、「生活のインフラ」となっていることです。オンリーワン戦略の企業が提供価値の「質」で勝負するのに対し、地域ドミナント戦略の企業は特定の市場で圧倒的なシェアを奪い、競合の参入を阻止する形で「量」の壁を築く点がポイントと言えるでしょう。その壁を守るために必要な提供価値や経営資源を強化する、というアプローチです。

ビジネスモデルに魂を込めるのが経営理念

しかし、ビジネスモデルをまねるだけでは成功は保証されないでしょう。なぜならば、ビジネスを行うのはあくまで人であり、経営者と従業員が一体となって同じ方向へ進むための共通の価値観、つまり経営理念が不可欠だからです。私が今回ご紹介した企業はいずれも、地域密着をしっかりイメージさせる経営理念を持っています。例えば、でんかのヤマグチは「便利な電器屋・トンデ行くヤマグチ」(注4)、セコマは「北海道の「食」の価値を高め、北海道の発展に貢献するために」(注5)と極めて具体的です。そしてそれらが、顧客に提供する価値につながることにも気づかされます。BMCの図で言えば、でんかのヤマグチの「量販店では得られない安心感」、セコマの「地元重視経営への安心感・親近感」に該当しますね。ビジネスモデルを支える基盤として、いわば「魂を込める」のが経営理念と言えるのではないでしょうか。

今回は地域密着で勝ち残る2つのタイプのビジネスモデルをご紹介しました。オンリーワン戦略と地域ドミナント戦略。タイプは違いますが、人材や資金力など限られた経営資源を、ターゲットを定めて集中投下し顧客獲得に成功している点では共通しています。今後も元気の良い地元密着型企業の活躍に注目したいですね。

  • (注1)「他店より高い!「でんかのヤマグチ」”高売り”の秘密」日経ビジネスONLINE 2013年3月12日
  • (注2)セコマ、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート各社ホームページ(2017年9月末現在調べ)
  • (注3)「強さのヒミツ(4) コンビニ セコマ」日本経済新聞記事 2017年8月18日
  • (注4)株式会社ヤマグチ ホームページ「社長あいさつ」
  • (注5)株式会社セコマ ホームページ

著者紹介

大橋 功 氏 プロフィール

中小企業診断士
大橋 功(おおはし いさお)

中小企業診断士。金融機関を経て現在は通信業界の会社に勤務。米国、欧州を中心に海外業務経験が長く、事業戦略・計画策定、ファイナンス、海外進出支援などを得意とする。

診断士としては新規事業、販路開拓、知的資産経営、ビジネスモデル分析の分野を中心に経営診断や執筆活動を行っている。最近では共著者の一人として『コンセプト作りのフレームワーク』(編著 野崎晴行:中央経済社2019年9月)を執筆

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