建設業界の未来を考える~サステナブルな建設プロセスを推進するために

建設業界は持続可能な未来を構築するために、カーボンニュートラルの取り組みを促進しています。環境への配慮とサステナビリティの重要性を考え始めているからです。ところでカーボンニュートラルについてご存じでしょうか? カーボンニュートラルとは、脱炭素に向けた社会施策の一つです。

2020年10月、当時の内閣総理大臣であった菅義偉氏は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル宣言」をしました。これによって温室効果ガス排出による地球温暖化を食い止めるため、環境負荷を削減する取り組みが本格的に開始されたのです。

この記事では、建設業におけるカーボンニュートラルの取り組みに向けた社会背景、課題、実際の取り組み内容について考察していきます。

建設業界のカーボン排出量は、他業界と比較すると高い

建設業は、資源調達、施工、解体といった建設の過程の中で、多くのCO2を排出しています。建設業を含む、国内の産業部門の排出するCO2の量は、全カテゴリーの中で約35%を担っており(注1)、温室効果ガスの削減にも積極的に取り組む必要がある状況です。

全世界で2050年に向けて持続可能な社会実現に向けて歩みをそろえている中、建設業界の脱炭素化、環境負荷削減は必須の目標と言えるでしょう。

中でも建設機械(以下、重機)における排出量は注目すべき点であり、約571万トンという量です。これは産業部門全体の35%のうち1.4%を占めており(注1)、排出量の削減がしにくい建設資源以外の面で、まず着手をしていきたい項目です。

(注1)出典:建設現場における脱炭素化の加速に向けて(国土交通省・PDF)

では、こうした高いCO2の排出量を占める建設業の内訳はどのようになっているのか。もう少し深く考察をしていきましょう。

以下は国土交通省が発表した、建設業のCO2排出量と、公共土木業のCO2排出量割合の図になります。左の図が建設業の資源や重機などによって排出するCO2の割合を表したもので、右の図が公共土木(建設や維持管理などのプロセス)によって排出するCO2量の割合を示している表です。

出典:国土交通省のインフラ分野におけるカーボンニュートラルに向けた取組(PDF・国土交通省:2頁の図を基に作成)

上の図の内訳から読み取れるのは、主に二つのカテゴリーに大別されることが分かります。鉄鋼やセメントといった「材料」と、重機や貨物などといった建設に関わる「プロセス」から排出されています。このうち、「材料」に該当する項目で34%と高い割合を占めており、長期的に改善したい点です。

しかし、既に建設業界では、サステナブルな建設材料の活用が進められています。例えば、これには再生可能エネルギーを使用した材料、リサイクル材料の利用などです。そのほかバンブーやCLT(クロス・ラミネート・ティンバー)などといった持続可能な木材の使用が増えています。この影響によって森林の保護とCO2排出量の削減が実現されていきます。

ただしこれらの素材は、新たな開発や研究を伴うものであり、コスト高や供給の不安定さ、技術の未熟などから、なかなか広範囲に普及するのが難しいという事情があります。前述の課題に対して、政府や業界団体、研究機関と協力し、持続可能な建材の開発と普及を推進していく必要がありますので、素材の面でのCO2排出量の改善は、まだまだ長期的な課題と言えるでしょう。

ここまでの背景を見てきた中で、私たち建設業界はまず建設に使用する重機から持続可能性と環境への配慮を促進することが一番着手しやすいのではないでしょうか。

建設プロセスのグリーン化と省エネ技術の導入

前項のとおり、エネルギーの削減に加えて、使用重機や貨物といった点から排出するエネルギー効率の向上も省エネの重要な取り組みであり、着手がしやすい項目です。

その他、建設プロセスそのものグリーン化と省エネ技術の導入も、持続可能な建設業界を実現するために重要と言えるでしょう。

建設プロセスのグリーン化の一つとして、現在国土交通省は脱炭素化の取り組みを開始しています(注8)。中でも「カーボンニュートラル対応試行工事」は、明確な基準を示しています。具体的には、入札参加企業がCO2の削減目標などを示して第三者機関の認定を取得している場合や、低炭素型の重機による施工実績を持つ場合に「企業能力」の項目で加点するという指針です。

(注8)参考:建設現場における脱炭素化が始まります(国土交通省・PDF)

同様に行政単位でも「カーボンニュートラル対応試行工事」の実施を開始し始めています。北海道は2022年度から「北海道インフラゼロカーボン試行工事」に取り組んでいます。施工者は工事の着手前にCO2の削減策を記載した計画書を提出する必要があります。その実施内容に応じて、行政は工事完了後の成績評定である「社会性」の項目に加点をします。低燃費型の重機の使用や、現場内に設置したソーラーパネルによる電力の活用などが主な評価対象です。

そのほか、プロセスの省エネ化の一つとして、建設現場における廃棄物の分別やリサイクル、廃棄物や素材の再利用を促進、エネルギー効率の高い重機や施工方法の導入などが挙げられます。建設業界における省エネ技術の活用により、建物のエネルギー消費量が削減される可能性があると言われています。

全世界でのCO2排出量削減の取り組みはもちろんですが、以下の表のように国内でも2050年に向けて建設段階および、設備の維持管理段階の2フェーズにおいて、CO2の削減およびスコープの深度をアップすることが目標として掲げられており、急ピッチで促進させる必要があります。

出典:国土交通省のインフラ分野におけるカーボンニュートラルに向けた取組(PDF・国土交通省:3頁の図を基に作成)

持続可能な都市計画と設計をする

持続可能な建設業界の実現には、都市計画と設計段階でのSDGs(持続可能な開発目標)の考慮が不可欠です。建設プロジェクトの計画段階で、エネルギー効率や廃棄物管理、交通インフラの整備など、環境への配慮を含めた総合的な持続可能性評価が行われます。

また、建物のデザインにおいては自然光の利用や自然換気の最大化、グリーンスペースの確保など、エコな要素を取り入れた持続可能な設計も必要です。

こうしたプロジェクトの先駆的な事例としてよく取り上げられるのは、スペインのバルセロナにおける「スーパーブロックプロジェクト」です。2016年に国を挙げて同プロジェクトを導入し、街の中の九つのブロックからなる区画に、樹木で囲まれた大規模な歩行者専用のスペースを設けられています。その区画には自動車は侵入できないようになっており、汚染や騒音のない場所をつくり、住民が交流や活動のできるスペースづくりがされました。このことで大気汚染や騒音の減少といった環境変化が生まれています。

もちろん、日本でも環境に配慮した都市計画が作成されています(注9)。国土交通省や環境省から都市計画に基づくガイドラインが発行されており、それに基づき各行政では課題に合った取り組みが推進されています。例えば、総合治水対策とヒートアイランド対策の連携や、都市開発によるグリーンインフラの推進、建築物にバイオフィリック・デザインの導入などです。こうした取り組みは長期的であり、また部分的ではなく総合的な取り組みとなるため、関係各所の連携と協力が必要ですが、今後、各行政が都市形成の再編を行う際に見直していくべきことでしょう。

(注9)参考:グリーンインフラの事例(国土交通省・PDF)

サステナブルな建設プロジェクトの推進と社会への貢献

持続可能な建設業界を担っていくためにはこれから先、エコな建設プロジェクトの推進が重要といえるでしょう。また、こうした行動を通じて社会への貢献をしていくこともこれからは求められていきます。

例えば、地元の労働力の雇用や地域資源の活用などがプロジェクト推進では挙げられます。

また地域の文化や景観への配慮など、社会的な要素を考慮した建設プロジェクトも昨今は増えています。これにより、地域経済の活性化や地域住民の生活環境の向上が実現され、SDGsの達成にも貢献しているのです。

もはや環境への配慮をした事業活動は、世界共通の課題です。建設業界においても待ったなし。サステナビリティと環境への配慮を重視し、持続可能な未来の実現に向けた重要な役割を果たすことが求められています。

これらの取り組みを継続し、持続可能な建設業界の実現を考えていきたいところです。

関連セミナーオンデマンド動画

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CO2排出量可視化と脱炭素経営について(講師:アスエネ株式会社)

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