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第16回 「頭が良い」組織とは何だろう
企業、非営利組織、プロジェクト、教育機関、スポーツチーム、どのような組織形態であれ、見ていて「頭の良い組織だな」と感じる組織があります。「組織として頭が良い」とはどのようなイメージでしょうか。私の中では、
「全体の『目的』について深く考え、話し合える組織」
と定義しています。
組織の中で個々人が機械的に各々の仕事をこなすのではなく、
■「目的を考える」
■「目的を話し合う」
■「目的達成のために協力する」
という人間にしかできないことがしっかり実践されている、そんな組織は頭が良い組織と感じます。なぜ「目的」なのかといえば、それは、「手段」よりも「目的」を考える方が何倍も頭を使うからです。
「そもそもこの仕事が目指す成果は何だろうか」
「どうすれば顧客はこの商品やサービスに、本当に価値を感じてお金を払ってくれるだろうか」
「この仕事のやりかたで、最後の目的は本当に達成されるだろうか」
一人で考えても答えが出にくい問いを、多様な強みや知識、経験を持つ社員(仲間)同士で徹底的に議論し、仕事の目的軸を合わせていける。そのような風土・土壌がある会社は組織として頭が良い。
会社とは不思議なもので、設立当初こそ共通の目的・使命が共有されていますが、規模が大きくなり業務量も増えてくると「手段」の方が議論の主役になります。顧客にとっての価値や顧客に愛される事業を創ることよりも、仕事の進め方や組織内の慣習の方に目がいき、それが制約条件になってしまいます。いくら手法・手段を研ぎすましても、目的に意識が統合されていなければ、組織として結果は出ません。
メンバーが飛び抜けて優秀であるとか、エリートであることが必要なのではありません。個々人としては頭脳明晰でも、組織に身を置いた途端、
「会社では、元々このようなやり方が決まりだから」
「上司の方針がこうだから」
「今の市場環境はこうだから」
ということを理由に、考えることをやめて思考停止してしまう。組織にはそもそもそのような「集団思考性」があります。それらの人が個人としては、顧客を満足させる様々なアイディアを持っていることが多いだけに、なおさらもったいない話です。
人事制度、組織体制、情報技術の導入、M&A、パートナーシップ、イベント・プロモーション・・会社には様々な「手段」があふれています。事業が失敗する原因はえてしてこれら手段の失敗にあると思われがちです。しかしほとんどの場合「目的」の定義が不完全だから失敗することの方が多いはずです。
ドラッカーのマネジメント理論の根幹は、答えを教えることよりも「目的を確認する」ことの方にあります。彼は、こう言っています。
「企業の目的としての事業が十分に検討されていないことが、企業の挫折や失敗の最大の原因である。」
目的をしっかりと話し合っているチーム。目的が明確だから互いの協力関係も強まり、生産性も高いチーム。どのような会社にもそのような部署やチームが必ずあるはずです。個々が飛び抜けた力量を持った人たちだけでなくても、チームとして目的を共有し一致団結している、そんなチームです。「マネジメント」の要点はそのようなチームと組織風土を築いていくことにあります。
ドラッカーはこうも言います。
「組織にはたらく者は共通の目標のために貢献する。彼らの動きは同じ方向に向けられ、その貢献は隙間なく、摩擦なく、重複なく、一つの全体を生み出すように統合される。事業が成果を上げるには、一つひとつの仕事を事業全体の目標に向けなければならない。仕事は全体の成功に焦点を合わされなければならない。」
あふれる手段に焦って飛びつく前に、目先の仕事から目線を上げ、全員で「目的」をじっくりと時間をかけて話し合ってみることです。意見がすぐに合わなくても構いません。議論を繰り返すことで、徐々に「この組織が、この仕事が、一体何を目指すのか」という考え方と問いが共有され、結果として目的感が合ってくるからです。
意識さえあれば、コストをかけなくてもどのような会社でも実践できます。是非試してみてください。
次回は4月4日(木)の更新予定です。
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