第38回 最も重要なことに「集中」する

会議中にも、参加者の殆どがメールを打ったり、他の資料をパソコンで作ったり、電話に出る為に部屋を出たり入ったり…。これは、多くの職場で見られる光景ですよね。

会議だけではありません。普段の仕事でも、数多くの案件、プロジェクト、役割を「掛け持ち」する人が殆どです。2、3の掛け持ちならまだしも、多い人は「数えられないです」というくらい多数の案件に関わっています。

情報技術や通信技術が急速に発展したここ15〜20年、マルチタスクで様々な仕事をこなせるようになりました。

■ 「いろいろな仕事を」こなすことで得られる「成果」は?

しかし、会議にせよ、プロジェクトにせよ、自身のエネルギーと時間を細切れにして、様々なことをこなすことで、得られる成果は大きいのでしょうか。

「いろいろなことを同時にできている」一方で、「話し合うべき肝心なこと(核心)が話し合えていない」「メンバー個々人がどんなことを考えているか、ゆっくり聞けなかった」「肝心の目的や目標を話し合えなかった」という声が多いのも事実です。

複数のプロジェクトや案件をかけ持ちすればするほど、一つ一つを「何が何でも成功させよう」という熱意は高まりにくくなります。プロジェクトがうまくいかなくても「自分も所詮掛け持ちメンバーだから」という他人事にもなりやすいです。

何より、忙しい人が共通して口にするのは、「あまりに多くのことに手をつけすぎて、じっくり『仕事の質を高める為の方法』を考える時間がない。」ということです。

■ 重要なことに、エネルギーと時間を集中する効果

アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏は、一時期に多くのプロジェクトに手を付けることを嫌いました。1990年代後半に、かつて追われたアップルのCEOに復帰したジョブズ氏が、多種多様な商材で膨れ上がったアップル社の現状を見て、集中すべき4つのテーマを明言し、「この4種類の分野で、それぞれ最高のすごい製品を作る。それが我々の仕事だ。」と宣言したエピソードは有名です。アップルの独自性と武器が発揮されるエリアに人的資源を集中させようとしたのです。

ドラッカーは、このように言っています。

「成果を上げるための秘訣を一つ上げるならば、それは集中である。成果を上げるものは最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしか行わない。
 自らの強みを生かそうとすれば、その強みを重要な機会に集中する必要を痛感する。事実、それ以外に成果を上げる方法はない。これこそ困難な仕事をいくつも行う者の秘訣である。彼らは一度に一つの仕事をする。その結果、他の者より少ない時間ですむ。成果を上げられない者の方がはるかに働いている。」
(「経営者の条件」より)

もちろん、仕事やプロジェクトテーマは複数存在するはずです。管理職やマネジャーの立場になれば、なおさらでしょう。ただ、ドラッカーは、「一時に、一つのことに集中した方が、成果が上がる」と言います。何かを「形」にする為に、テーマを絞って集中して、短期間で良いものを完成させ、目処が立ったら、次のプロジェクトテーマに移り、またそこに集中する。同時並行でやるよりも、その方が、結果的には良い物が生まれるという考え方です。

現在、話題を集めているビジネス書に「エッセンシャル思考—最小の時間で成果を最大にする」(かんき出版)という本があります。ビジネスでもプライベートでも、「本当に大切なこと」に集中して大きなエネルギーと時間をそそぐことで、より良い成果を生みだす考え方「エッセンシャル思考」を、分かりやすい事例とともに解説しています。著者のグレッグ・マキューンはこう書いています。

「エッセンシャル思考は、より多くのことをやりとげる技術ではない。正しいことをやりとげる技術だ。少なければいいというものでもない。自分の時間とエネルギーをもっとも効果的に配分し、重要な仕事で最大の成果を上げるのが、エッセンシャル思考の狙いである。」

「エッセンシャル思考になるためには、3つの思い込みを克服しなくてはならない。『やらなくては』『どれも大事』『全部できる』−この3つのセリフが、まるで伝説の妖女のように、人を非エッセンシャル思考の罠へと巧みに誘う。」

(いずれも、グレッグ・マキューン著「エッセンシャル思考」より)

多かれ少なかれ、これらの文章を読んで思い当たることがあるかと思います。仕事においても、「頼まれたら全てをやらなければいけない」と思い込み、業務を大量に抱えてしまう。「あれも、これも全部できる」と思い込み、絶えず残業や休日出勤が発生し、部下の仕事も膨大になってしまう、といったケースです。

「エッセンシャル思考」は、重要度の低い要請には、時に「No」と言う勇気が必要であることを教えてくれます。

■ 「No」と言うことで、仕事の質や可能性が高まる

実際に、「No」ということには勇気がいります。家族からの要望、職場での期待、また、自分自身も「やりたい」という願望がある、という状態ではなおさらです。

「すぐにやらないことで人間関係が悪くならないか」「自分の評価が下がってしまわないか」そういうことを気にし過ぎて、どれも捨てられず、成果も上がらず、ストレスが高まってしまいます。

私ももちろん経験がありますが、「No」と言う時は、どこか胃が痛くなるような感覚があります。しかし同時に、「こっちに集中して必ず成果を上げる」という活力も湧いてくるものです。

「No」という為に必要なことは何でしょうか。逆説的なようですが、「何に対して『Yes』と言うか」を明確にすることだと私は思います。自分にとって、自分の所属する組織にとって、「そう、これが大切だ」という目指す姿や価値観を明確にすることで、初めてそれ以外の重要度の低い事にNoと言えるようになります。

ぜひ、皆さんの職場でも考えてみてください。仕事があふれすぎていませんか。経営者も、ミドルマネジャーも、社員も、あまりにいろいろなことをやり過ぎて「深まっていない」ということはないでしょうか。

もし、少しでもあれば、本当は何をやりたいのか。何の優先順位が自分(自分たち)にとっては高いのか。その点をゆっくり考え、話し合ってみてください。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
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